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2006_ドイツサッカーコーチ連盟主催の国際会議・・独立した組織だからこその影響力・・(2006年8月3日、木曜日)

「我々は、どこからも影響を受けない独立した組織として活動を維持できていることを誇りに思う・・」

 7月30日の日曜日から、ドイツのハノーファーではじまったドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟主催のコーチ国際会議。参加者は700人を超えました。もちろん私も、正式な会員として参加したという次第。今回は、3年に一度の「連盟総会」もスケジュールに入っているのですが、その冒頭の挨拶でツィングラーフ会長が、前述の言葉を力強く言い切りました。

 ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟は、1957年7月に発足しました。最初は、最高クラスのライセンスを保持する(プロ)コーチだけの組織だったのですが(このコラムの下の方に載せた私のライセンスを参照してください)、最近になってA級ライセンスコーチにも門戸が開かれたことで会員数も格段に増え、今では3800人を数えるまでに拡大しています。

 それにともなってドイツサッカー界での影響力も高揚していることは言うまでもありませんが、そのことがツィングラーフ会長の自信の言葉の背景にあるというわけです。だからこそ、どこからも影響を受けない独立組織であることに価値がある・・。

 影響力の拡大には、ブンデスリーガやドイツサッカー協会との緊密な関係も背景にあります。今年に入って新設された、ドイツサッカー協会の「スポーツ・ディレクター」というポジション。サッカー協会の執行部とプロやユース育成の現場を実質的に「つなぐ」という重要なタスクを果たすことになります。

 その任に着いたのは、現役時代ヨーロッパ最優秀選手に選ばれ、監督としてもドルトムントなどで手腕を発揮したマティアス・ザマー。その彼もまた、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟での確立した役割を担うことになっているのです。また、バイエルン・ミュンヘン監督のフェリックス・マガートや、ヴェルダー・ブレーメン監督トーマス・シャーフ等も連盟役員に名を連ね、様々なディスカッションに参加しているというわけです。

 今回の国際会議の最終日に行われたパネルディスカッションにも、トーマス・シャーフとマティアス・ザマーが参加しました。また特別ゲストとして、アフリカ予選を勝ち抜いて今回のワールドカップ本大会に駒を進めたトーゴの代表監督、オットー・プィスターも参加しました。このパネルディスカッションですが、日韓ワールドカップがあった2002年には、私もパネラーとして壇上でしゃべったのですが、そのときのコラムは「こちら」

 今回のパネルディスカッションで中心になった話題は、もちろん大活躍したドイツ代表。彼らの活躍が、どのようにブンデスリーガに反映されるのかというのが「予定」されていたテーマでした。

 まあ・・ね、ワールドカップでのドイツ代表の活躍がポジティブな影響を与えるのは分かっているけれど、その具体的な現象に(それを予想して)言及するのは難しい。ということで、司会者の「振り」に対して、トーマス・シャーフやマティアス・ザマーは、「その質問に答える前に・・」なんて言いながら、自分の主張を繰り返したという次第。司会者も大変だったろうね。

 トーマス・シャーフ。「とにかくドイツ代表は、期待を上回るパフォーマンスを魅せてくれた。もちろんホームということもあるけれど、彼らの素晴らしいサッカーが国民の希望と期待を最高レベルにまで高揚させたのは確かな事実だと思う。今回の大会では、何といっても、それが最大の成果だった。もちろんそのベースになった、ユース育成での成果もしっかりと認識しなければならないけれどね・・」

 マティアス・ザマー。「サッカーでは、とにかく個々の分析が基本だ。チームのなかで誰が、どのような機能を果たしていたのかということも含め、チームの戦術と絡めた個々の効果を正確に分析する作業が大事なんだ・・」とサッカーの分析プロセスの要点について語りながら、それにつづけて、サッカー協会での自分の仕事の実質的な内容を効果的にアピールするのですよ。なかなか雄弁なマティアス・ザマーなのであります。

 「我々に課せられているのは、技術、戦術、コンディション的な課題をいかに前進させるのかということであり、創造性の発展という課題もある。また、ドイツの戦術的なアイデンティティーというテーマもある。そこでは(有能な!?)コーチこそがもっもと重要な存在であり、彼らをしっかりと扱うコトこそが大事なのだ。成績(結果)だけで評価するするのは愚の骨頂だ。そのコーディネイトこそが、ドイツ協会のスポーツ・ディレクターとしての自分の仕事。何とかコーチが良い仕事をできる環境を整えられればと思っている。情熱こそがもっとも大事な要素だけれど、彼らが情熱を持って仕事ができるような環境の整備が大事なんだよ・・」

 その発言に呼応したトーマス・シャーフ。「大会を通じて発生してきた国内のエモーショナルなモティベーションを維持発展させることも大事だ。ユース選手にとっては、夢を持てることほど大事なファクターはない。それについては、いまマティアス(ザマー)が言ったように、情熱が大事なんだ。選手たちのポジティブなマインドとモティベーションを高く持つ。それがコーチの本質的な仕事なんだよ」

 つづけてマティアス・ザマーが、自分の仕事内容を再びアピールします。「クラブと協会との間に実のあるディスカッション環境を作り出すことが自分の仕事。それによって協会とクラブ双方の理解が促進し、協力関係も深まっていくと確信している。クラブが抱える不安や心配に対する協会内での理解を促進し、テーマを絞り込んで解決策を探す。それが、自分のスポーツ・ディレクターとしての仕事だと思っている」

 マティアス・ザマーには、ブンデスリーガ監督時代に、かなり協会と「やり合った」経験がありますからね、それを踏まえた発言が目立っていたと感じていた湯浅でした。それにしても、なかなかの説得力でしたよ。

 見方を変えれば、そのようなラディカルな(!?)人材を協会組織に登用したことは、ドイツ協会の「体質改善」への前向きな取り組み姿勢を示唆していると捉えられないこともありません。要は、時代がどんどんと変化しているということです。変化に対応できない組織は確実に衰退していきますからね。変化こそ常態(諸行無常)。組織を構成している人々の実質的な行動目的が「歪んで」いる場合、かならずその組織は腐り果てるということです。

 充電プロセス(考えを深めること)にもっともっと時間が必要な湯浅なのですが、とにかく国際会議の「さわり」だけでも報告しておかなければとキーボードに向かった次第でした。

 会議では、2006ワールドカップの戦術的な分析(エーリッヒ・ルーテメラーが素晴らしい講演をしました)、パワー(速さ)のトレーニング、パワー(ウエイト)トレーニングのノウハウとコーディネーション(様々な筋力メカニズムのバランス)、新しいサッカートレーニング分析システム(カメラと位置認識装置を駆使したコンピュータ分析システム)の紹介、ウォームアップとストレッチング(ストレッチングは本当にケガの予防になるのか?)等々、そこでのテーマは多岐にわたりました。機会をみて紹介しますが、まあ、そのエッセンスは、私のホームページ文章に散りばめられますからね・・。
 



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