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2006_ワールドカップ日記(今日の二本目)・・さて、ドイツ戦のレポートですが、まず、ベッケンバウアーとユルゲン・クロップによる日本戦分析を紹介しましょう・・(2006年6月2日、金曜日)

この試合もテレビ観戦ということにしたのですが、ライブ中継がはじまる前に、スタジオショーで、フランツ・ベッケンバウアーと、ブンデスリーガ一部のマインツ05監督ユルゲン・クロップが日本とのテストマッチを分析していた内容が面白かったので紹介することにしました。

 このコンビ(ベッケンバウアーとクロップ)は、昨年ドイツで開催されたコンフェデレーションズカップでの日本対ブラジル戦でも解説を担当していましたっけね。それについては、昨年の「このコラム」を参照してください。特にユルゲン(クロップ)は、日本のことを高く評価しているようで(優良誤認!?)、ブラジル戦での日本チームの集中切れプレーを怒りまくっていたっけね。「この日本チームだったら十分にブラジルに勝てたのに・・」ってね。

 さて日本対ドイツのテストマッチ。その試合については、ドイツチームの機能不全(特に、攻撃から守備への切り替えとフラットフォーにおけるマンマークへの移行)と、日本チームの素晴らしい仕掛け内容(人とボールの動きが奏でる素晴らしいハーモニー)が、ビデオを用いて解説されていました。

 まず日本が作り出した最初の決定機。言わずと知れた、中田英寿の完璧なフリーシュートシーンです。「ここだよ、ナカタのクオリティーの高さが証明されたのは・・ヤツは、臭いを嗅いだんだ・・だから最高のタイミングで全力ダッシュをスタートし、脇目もふらずに決定的スペースへ走り抜けたんだ・・」。例によって、ユルゲン・クロップが、エンスージアスティックに語りつづけます。

 そのシーンは、こんな感じでした。中盤でドイツのパスをカットした日本。次の瞬間には、最前線の柳沢へ、ズバッというタテパスが飛ぶ。そして同時に(もしかしたら、その直前に)、臭いを嗅ぎつけた中田英寿が全力ダッシュをスタートしていた。そして、ヒデの動きを明確にイメージしながら(ヒデのためにスペースを作り出すように)中へボールをコントロールしていった柳沢が、ここしかないというタイミングで、タテのスペースへ、まさに「置くように」ラストパスを出したというわけです。何度見てもほれぼれさせられる、ココゾ!の爆発コンビネーションでした。素晴らしい・・。

 そのシーンを観ながら、ベッケンバウアーも、「本当に素晴らしい組織プレーだった・・」と一言。それに対して司会者が、「フランツ(ベッケンバウアー)は、ドイツのサッカー大使だし、特に日本との距離が近いから、それって外交辞令?」なんて笑いを取っていましたよ。

 このシーンでは、右サイドを務めたシュナイダーのオーバーラップもディスカッションテーマになりました。要は、それによって右サイドが大きく空いてしまったというわけです。でも、もちろんその状況ではシュナイダーが戻ることを期待するよりも、タテのポジションチェンジで、誰か(例えばフリングスとかバラックとか)がカバーリングに入っていなければならなかった・・。

 また高原が挙げた先制ゴールのシーンでも、この解説コンビは、素晴らしい日本の組織プレーを絶賛していましたよ。最初に左サイドのタッチライン沿いでボールを持った中村俊輔。すかさず二人のドイツ人選手が協力してプレスをかけます。でも俊輔は、まったく平然として、素晴らしいボールコントロールでボールをキープしちゃう。それこそ、本物の「タメ」。俊輔の周りで、「静」の雰囲気が演出されましたからね。でも、その周りでは「爆発」が起きていた。

 そして俊輔から、ものすごい勢いでオーバーラップしてきた中田英寿と、その右側を追い越して行った柳沢へ縦パスが通されるのです(中田がスルーして、ボールは柳沢へ)。そこで演出された素晴らしいタメと、その周りで繰り広げられたボールなしの動きも、ベッケンバウアーとユルゲン・クロップの賞賛の的でした。

 そしてその直後に、ドイツのベテラン、ノヴォトニーのビッグミステイクが白日の下にさらされる。テレビのシーンで、柳沢のダイレクト縦パスが出され瞬間、ノヴォトニーは、高原の「5メートル」くらい後方にいたことが確認されました。ノヴォトニーは、絶対に間に合わないと分かっていたのに、結局は、イージーに「上げて」しまったことで、高原に(そして柳沢のダイレクトスルーパスに)ウラを突かれてしまったのです。わたしは今でもノヴォトニーを高く評価しているから、そのシーンはちょっとキツかった。まあ、もう少し時間とチャンスが与えられれば、今でもドイツ最終ラインのリーダーとして君臨できるとは思うけれど・・。

 ドイツ守備ブロックの、ボール奪取プロセスの機能性については、やはり中途半端という表現がピタリと当てはまります。日本チームのボールホルダーをしっかりと抑えられていなかったから、その周りのマーキングも中途半端になってしまったし、微妙なラインコントロールにしても、相互のポジショニングバランスをブレイクしてマンマークへ移行するプレーにしても、うまく機能しなかった。やはり、タテパスやスルーパスを、単純なカタチで出させるという「抑制ディフェンス」が大事だということです。そのことについては、ドイツ代表チームの関係者も素直に認めていましたよ。だからこそ日本戦は、彼らにとっても、大変貴重な学習機会だったというわけです。

 そのことは、完勝を収めたこの日のコロンビア戦を見てもよく分かる。この日のドイツ代表の守備ブロックは、組織として完璧に機能していましたよ。決して、日本戦のようにアロガントな(傲慢で尊大で思い上がった)プレー態度でゲームに臨むのではなく、「自分たちは上手くない・・だからしっかりと忠実に闘いつづけるしかない・・」という謙虚なプレー姿勢を明確に感じていた湯浅なのです。だからこそ、攻守にわたるハイクオリティーな組織プレーを取り戻せた。

 あっと、試合前のスタジオショーだけれど、そこでは、(日本戦での)加地に対するシュヴァインシュタイガーの危険なファールタックルについてもディスカッションされていました。「あれは、完全に一発レッドの危険な後方からのタックルだった・・本番では確実に2-3試合は出場停止になる・・」。そのときだけスタジオに登場したレフェリーのコメンテイターがそう言うと、ベッケンバウアーのユルゲン・クロップも、その通りだと頷いていました。

 あのファールだけれど、あれもまた、アロガントな(傲慢で尊大で思い上がった)プレー態度だからこその醜い結末だったと思っている湯浅なのです。オレたちが日本に負けるはずがない・・チンチンに振り回して大勝してやる・・という思い上がり。だからこそ、そんなイメージ通りにコトが運ばないことでフラストレーションがたまった末の蛮行だったのですよ。まあ、1年半前の日本での対戦では、まさにチンチンに日本代表をやり込めたドイツだったから、そのイメージで試合に臨んだんだろうけれどネ。

 まあ・・、そんな日本戦からの反省もあったのか、この日のコロンビア戦でのシュヴァインシュタイガーの出来は、まさにスーパーと呼べるモノでした。まず何といっても、守備がフェア。粘り強いけれども、決して汚いアタックはしません。アタックを外されても、すぐに次のポジションへ全力で移動する。そして、そんな誠実プレーの勢いが次の攻撃でもしっかりと活きてくるのです。久しぶりに先発したラームと協力して左サイドをえぐるプレーは迫力満点。この試合では、その左サイドからの崩しが大きく貢献していました。そしてそんな実効プレーが「結果」につながるのです。前半21分の先制ゴールは、シュヴァインシュタイガーが送り込んだ正確なフリーキックをバラックがヘディングで決めたものだし、37分の追加ゴールは、シュヴァインシュタイガー自身が決めたフリーキック(ものすごいキャノンシュート)だったのですよ。

 この試合でのドイツには、ユルゲン・クリンズマンが監督に就任した当時の「勢い」が戻ってきたと感じました。この2ゴールだけではなく、右サイドのシュナイダーが中心になったコンビネーションや、そこからシンプルなタイミングで送り込まれる正確なクロスによる明確なチャンスメイク。はたまたポドルスキーとクローゼ、バラックとシュヴァインシュタイガーが絡むスーパーコンビネーション(ワン・ツー・スリー・フォーというダイレクトコンビネーション!)から抜け出したクローゼやポドルスキーが「100%」というシュートを放ったりする。観ているドイツ人は、心からの快哉を叫んでいたに違いありません。

 最後になりましたが、ボロヴスキーとバラックの併用は機能しないという難しいテーマについて。この日は後半から登場したボロヴスキーだったけれど、バラックほど守備がうまくないし、チェイス&チェックにも迫力がないということで、どうも中盤で浮き上がってしまっていました。そう、日本戦のときのようにね。結局ボロヴスキーは、バラックの控えということなんだろうね。ブレーメンでは素晴らしい機能性を魅せているのだけれど、やはりチーム事情が変わったら、それなりに対応しなければならないのですよ。やはり、高い守備意識と、守備での実効性がミッドフィールダーの大前提だということでしょうね。

 とにかく、この試合で、ドイツの先発メンバーは決まったも同然です。

 GKは、イェンス・レーマン。フォーバックは、左から、ラーム、メッツェルダーとメルテザッカー、そしてフリードリッヒ。中盤の底は、言わずと知れたフリングス。中盤の左右が、どんどんとポジションを入れ替えつづけるシュヴァインシュタイガーとベルント・シュナイダー。そして中盤で、攻守わたって、完璧に自由にプレーするバラック。前半では、バラックとフリングスの「ダブルボランチ」のように見えた時間帯もあったからね。とにかくバラックの守備意識のすばらしさこそが、強いドイツチームの象徴なのですよ。あっと・・、そしてツートップは、ポドルスキーとクローゼ。

 すごく長い文章になってしまいましたが、自分たちの実力(プレーのタイプ)に対する正確な認識という視点も含め、ドイツが本格的に復調していることを体感できたことで、とてもハッピーな湯浅なのですよ。さて、本大会へ向けた期待が高まっていく・・。
 



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