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2006_ワールドカップ日記・・今日は、イングランド(対ジャマイカ)とクロアチア(対ポーランド)についてショートレポート・・(2006年6月3日、土曜日)

「この映像を見てください・・驚いたことに、ウェイン・ルーニーは復活しつつあるようです・・本大会でも期待できそうじゃありませんか・・」。

 例によっての、キックオフ前のスタジオショー。そこで、ウェイン・ルーニーがボールを使ってトレーニングする姿が映し出されたのです。なかなか元気そう。たしかに、これだったら本大会に間に合うのかもしれないね。とはいっても、この試合で先発したクラウチとオーウェンも良いフォームにあるから(フォームとは、フィジカルや心理・精神的な要素をすべて含む調子のことと定義します)、チーム内のライバル関係が活性化されるという意味で、エリクソン監督にとってルーニーの復活は願ってもない出来事ということでしょう。

 さて、今日マンチェスターで行われたテストマッチ、イングランド対ジャマイカ。皆さんもご存じのように、イングランドが6点もたたき込んで大勝しました。まあ、ジャマイカとの実力差を考えれば順当だけれど。とはいっても、内容的には、イングランドも上々の状態に仕上がっていることをアピールしていましたよ。この「仕上がりの良さ」のバックボーンは、まず何といっても、中盤から最終ラインにかけての守備コンビネーションの優れた機能性。守備こそが全てのスタートラインだからね。

 この試合での最終ラインは、ジョン・テリーとファーディナンドというセンターコンビの左右に、アンディー・コールとギャラガーがサイドを固めます。その前には、言わずと知れたランパードとジェラードの「ボランチ」コンビが中盤の底を固め。その少し前の左右に、デイヴィッド・ベッカムとジョー・コールが、そしてトップに、クラウチとオーウェンがポジショニングするという布陣です。

 このなかでは、やはり何といっても、ランパードとジェラードの「ボランチ」コンビが特筆です。彼らについては、「ボランチ」という表現を使うことにまったく躊躇しない湯浅なのです(ブラジルに敬意を表し、簡単にはボランチという表現は使わない・・普通は守備的ハーフと呼ぶ)。彼らのプレーを観察すると、攻守にわたる汗かきからクリエイティブプレーまで、ボランチが為すべき全てのプレーコンテンツを脳内のイメージタンクに収めていると感じます。多くの「引出し」を持つ二人っちゅうわけです。

 以前、この二人は、ベッカムにボールを集めるという意識が強すぎた時期もありました。ただこの試合を観ていて、この三人(ジェラード、ランパード、ベッカム)のなかで、互いに使い・使われるという関係(相互信頼ベースの高質なイメージシンクロ)が確立したと感じました。それは、ものすごく大事なことです。ジェラードが上がればベッカムが下がる(そして全力の汗かきディフェンスに努める)・・ベッカムがボールをもって仕掛けパスを狙えば、後方から、全力ダッシュのランパードが彼を追い越し、その眼前スペースへ向けて、ベッカムからの「フィーリングパス」が送り込まれる・・そしてベッカムは、次の中盤ディフェンスでの汗かきプレーの準備をする・・等々。

 この、様々な意味を内包するバランス現象は、真摯な相互レスペクトという表現で説明できるかもしれません。まあ、ベッカムがキャプテンになったということは、チームをまとめ、チームメイトたちをモティベートしなければならない責任あるポジションに立ったということだからね。

 ところで、ベッカムの「フィーリングパス」だけれど、やっぱり世界一だと思いますよ。レアル・マドリーでも、ボールの芸術家たちが、彼のパス能力に最高レベルの敬意を払っている。たしかに、ドリブルは上手くないしそんなスピードもない・・また守備でのボール奪取勝負もそんなに上手くない。それでも、長短を織り交ぜた彼のフィーリングパスを一度でも体感したら、どんなプロ選手でも、それを(自分が良いプレーをするために!)活用したいと思うのは自然なことだと思います。セットプレーからのスーパーボールだけじゃなく、50メートルを優に越える超ロングサイドチェンジパスをいとも簡単に決めてしまったり、ものすごく素早いタイミングで(この素早いリズムが勝負を決める!)、ものすごく正確で、ものすごく質の良いタテへの仕掛けパスを飛ばしたりする。

 とにかくイングランド中盤では、攻守にわたる明確な仕掛けイメージ(守備ではボールを奪い返すための仕掛けプロセス・・攻撃ではシュートへ至る仕掛けプロセス)が確立していると感じます。あっと・・、左サイドハーフの小兵、ジョー・コールも、良い味を出している。中盤トリオの「大型サイズプレー」ばかりが目立つけれど、その「大きな文章の行間」を充填するような、インテリジェンス溢れる「緻密なコンテンツ」には、舌鼓を打たざるを得ません。

 そして、この試合で光り輝いたクラウチ。見事なハットトリックでした。2メートルという長身ばかりが目立つけれど、その足許プレーも甘く見てはいけない。本当に上手いですよ。要は、チェコの巨人、コレルの個性に相通じるプレイヤーということでしょうかネ。まあ、ヘディングについては、コレルに一日の長があるけれど。

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 さて、クロアチア。ドイツに来てから彼らの試合を観るのは(残念ながら全てテレビ観戦)、これで三ゲーム目。この日のポーランド戦は、オーストリア戦、イラン戦につづく三試合目ということになります。

 この試合でも、負けはしたけれど(ポーランドのFWスモラレクに、一発CKヘディングゴールを決められた!)、内容的には確実にポーランドを上回っていたと思います。スリーバック(ファイブバック)と忠実でクリエイティブな守備的ハーフによる組織的なディフェンス。しっかりとした展開から、急激にテンポアップしてスペースを突いていく迫力ある仕掛け。でもこの試合に関しては、攻守の迫力では、先の二試合と比較して減退気味だったと思う。

 まあ、プルショ(休養)とかトゥドール、またケガをしたニコ・コバチを欠いていたことが大きかったということだけれど、それでも後半から登場した15番の「イヴァン・レコ」とか、22番の「イヴァン・ボスニエク」といったタレントを見ていると、さすがにクロアチアはフットボールネーションだと再認識させられます。

 とにかくクロアチアの場合は、ロベルト・コバチを中心にした強力なスリーバック、その両サイドで攻守にわたってダイナミズムを演出するスルナ(右サイド・・シュルナと発音するのかも)とバビッチ(ドイツ・レーバークーゼンで活躍)、実質的なゲームメイクを掌握するニコ・コバチとトゥドールの守備的ハーフコンビ、そしてプルショとクラスニッチの強力なトップコンビという先発チーム構成イメージなんだろうね。

 ところで、監督の息子、ニコ・クラニチャール。(オリッチやボスニエクなども含む)これまでに見た控えのタレント連中のプレーコンテンツを見れば見るほど、彼を使いつづけることに対する疑問符が膨らんできます。まあ日本にとっては、その方がいいとは思うけれどね。シンプルな展開プレーはいいけれど、ココゾの場面でもドリブル勝負しないし(この試合では一本だけ素晴らしいドリブルシュート場面があった・・確かに才能はあるとは思うけれど・・)、守備も上手くない。またココゾの勝負場面でも激しく闘わない。

 要は、存在感が薄すぎるということです。まあ、ニコ・コバチとトゥドール、また両サイドのシュルナとバビッチが演出する仕掛けプロセスでの「使われる選手」という役回りとしては、まあまあのプレーはしていると思うけれどね。

 クロアチアは、来週の水曜日に、スペインとの最後のテストマッチを行います。いまから楽しみです。さて、どんなスターティングメンバーが出てくるか・・。
 



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