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2006_ワールドカップ日記・・今日は、オランダとポルトガルを中心にレポート・・(2006年6月11日、日曜日)

ところで、昨日のコラムで、アフリカの文化や社会体質(社会的な環境)について、誤解を生じるような表現をしてしまいました。「・・以前は、彼等のような社会体質(社会文化)だったら、世界を席巻することは考えられないといった捉え方が主流だったけれど、既に選手たちのなかにはヨーロッパ文化が深く浸透していることを考えれば、本当に近いうちに・・」という部分。アフリカを、そのように「十把一絡げ」で表現したことは反省しなければいけません。申し訳ありませんでした。

 さて、4チームによるサバイバル戦が必至の「Cグループ」。昨日のコートジボワール対アルゼンチン戦につづく第二ゲーム、セルビア・モンテネグロ対オランダ戦を、いまケルンのプレスセンターで観はじめたところです(テレビ観戦・・プレスセンターには少なくとも30台以上の、プラズマ・フラットTVが設置されている)。

 まあ、私がスタジアム観戦するポルトガル対アンゴラの試合がキックオフされるまで6時間もあるからね、まだまだプレスセンターのワーキングエリアはスカスカという快適な仕事環境なのです。隣に座る「ワールド・スポーツ・サービス」の「Mr. Keir Radnedge」さんとも、余裕をもって談笑していましたよ。彼は、2002年も含む多くのワールドカップやヨーロッパ選手権、またトヨタカップなど多くの国際ビッグイベントをカバーしつづけているベテラン記者です。

 さすがにゲームの観察眼は鋭い。やはり、ジャーナリストにとっても環境が大事だということです。ハイレベルのサッカーに囲まれているというだけではなく、そこには、正しいディベートの環境も整っていますからね。例によっての「I understand, but I don't agree__」といった、人のハナシをしっかりと聞いて理解し、それに対して自分の意見を正しいニュアンスで表現しぶつけることで、しっかりとしたコミュニケーション技術も深まるなど、観察眼を発展させるために必要な様々なベースが整っていきますからね。それこそが、対話を通じて自らの哲学的な発展を目指す(イデアの認識)という本来的な意味での弁証法!? さて・・。

 あっ、またまた分からないこと(自分でもしっかりと理解していないこと!?)を言ってしまった。スミマセン。ということで試合。やはり、オランダの方が明らかにチカラが上でっせ。その「上」という事実のバックボーン要素ですが、まず、攻守にわたる組織プレーに対する理解と実行力ってな表現はいかがですかネ。

 両チームともに「個の能力」では素晴らしいモノがあるからね。それでも、全体的なサッカーの質には、明らかな差があるのですよ。結局それは、攻守にわたる、ボールがないところでのプレーコンテンツの差ということに落ち着くでしょう。要は、オランダの方が、攻守にわたる「汗かきプレー」を意識して実践しているということです。

 それは、絶対的な「走り」の量と質で、セルビア・モンテネグロを凌駕するオランダってな構図。とにかくオランダが展開する人とボールの動きは、素早く、広く、そしてダイナミックそのものなのですよ。このポイントで、本当に大きな差があると感じます。あれほど「上手い連中」が、労を惜しむことなく、攻守にわたって、それぞれの目的を達成しようとする強烈な意志の表象としての全力ダッシュを繰り返すのです。もちろんその9割は、見かけではムダ走りに終わってしまうんですけれどネ。だからこそ、良いサッカーは、クリエイティブなムダ走りの積み重ね・・なんですよ(新潮社刊、拙著「サッカー監督という仕事」を参照して下さい・・なんっちゃって・・)。

 走ることについてですが、中田英寿も自身のホームページで、次のようなニュアンスの文章を発表していましたよ。「日本の良さである組織プレーや守備での組織的なプレッシングが機能するかどうかは、その全てが走ること(その量と質)に掛かっている・・しっかりとした走りを積み重ねることでのみ、日本の特長を活かした優れたサッカーを表現できる・・だから、オーストラリア戦でのキーワードは、とにかく「Run! Run! Run!」だ・・」。まさに、その通りだよね。

 単純に「走る」という表現を強調するのには勇気がいるものです。そんな表現をサラリと出来るのは、まあ、オシムさんと中田英寿くらいじゃないかな。とても大事なことだから、これからもどんどん表明して欲しい。良いサッカーをするためには、とにかく走ることが大前提だってネ。サッカーでは、天才でもない限り、効率性とか効果性を考えるとかいうプレー姿勢は、確実に諸刃の剣になります。人間は、基本的に怠惰だからね(もちろんわたし自身も含めてね!)。だからこそ私は、ことさらに、楽して金儲けをしようなんていうマインドの選手は決して発展することはない・・って断言しちゃったりするわけです。

 さて、内容と結果が一致した勝負マッチが、「1-0」のオランダの勝利で終わりました。個人プレーと組織プレーが高い次元でバランスしたオランダ。たぶん今のヨーロッパじゃ、最高のサッカーだと思いますよ。このまま、ゲームを通してチームが発展をつづけたら、大会を盛り上げてくれること請け合い。頑張れ、オランダ!!

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 さて次は、メキシコ対イラン・・のつもりだったけれど、飛ばして、ポルトガル対アンゴラ戦をレポートすることにしました。なかなか興味深いゲーム展開になったからね。

 立ち上がりの数分間で、誰もが、「これは、ポルトガルが何点取るか分からないな・・チカラの差がアリアリだ・・」と感じていたに違いない。何せ、開始ゼロ分には、素早いスルーパスが通ってパウレタが決定的シュートを放ったり(わずかに右ポストを外れていった!)、その3分後には、フィーゴの老かいな突破ドリブルからのラストクロスをパウレタがダイレクトシュートで先制ゴールを奪ってしまったり。

 立ち上がりのアンゴラの守備ブロックは、とにかく地に足が着いていませんでした。ワールドカップデビューによる過度の興奮状態!? まあ、そういうことなんだろうね。ポルトガルのボールホルダー(パサー)に対するマークがいい加減だし、その前線で決定的スペースへ抜け出そうとするパスレシーバーの動きも抑えられていない。そして、安易なタイミングでアタックに入って軽くかわされ、置き去りにされてしまう。また、スペースのケアーという発想も感じられない。

 こんなだから、誰もが「何点取られてもおかしくないな」と感じたはずだと思っていた次第なのです。ただ、先制ゴールを奪われてから、アンゴラが吹っ切れた。チンチンにやられつづけたこともあるんだろうね(プライドをとことん傷つけられた!)、全体的にディフェンスのダイナミズムが、急激にアップしていったのですよ。チェイス&チェックは言うまでもなく、次のボール奪取勝負も効果的に噛み合うようになる。まあそれには、ポルトガルの「アロガント(高慢な)なプレー姿勢」が高じてきたという心理的な背景もありそうだけれどね。

 その「アロガント」の典型が、クリスティアーノ・ロナウドでしたね。とにかくボールを持ったら、無理な状況であることなどお構いなしに、自分勝手にドリブル突破にチャレンジしつづけるんだからね。マンチェスターユナイテッドでは、周りの選手たちの影響もあるから、そんなエゴイスティックなプレー姿勢はみられないのに・・。やはり彼もワールドカップという非日常の刺激によって過度の興奮状態に陥ってしまったということなんだろうね。「こんな機会は二度と来ない・・相手はアンゴラだし・・とにかくオレの得意なプレーを世界中の人々にアピールし、彼等の記憶に刻み込んでやる!」。そして強引なドリブル突破にチャレンジしつづけてボールを失いつづけたり、サーカスのような意味のないフェイントをかけてみたり、ヒールでミスパスを出したり、ラボーナでクロスを送り込んでみたり(それが単なる放り込みになってしまうのも道理!)。

 クリスティアーノ・ロナウドのそんなプレー姿勢は、もちろんアンゴラ選手たちもお見通し。彼がボールを持った次の瞬間には、直接的にマークする選手だけではなく、二人目、三人目の選手が寄ってきて協力プレスで簡単にボールを奪い返してしまうのですよ。そして、そんな身勝手なプレーが、ポルトガルの全体的な組織プレーマインドを浸食し、そのサッカーが沈滞していってしまう。

 クリスティアーノ・ロナウドは、ボールがないところで動いたり、シンプルなパスをつないでパス&ムーブを実行したり等々、もっと組織プレーにも徹するべきでした。それをベースにスペースを上手く活用できれば、彼本来の「天賦の才」が活きたはずなのに。まあ、この出来では、後半14分に交代させられても仕方ない。この日のロナウドは、自分がイメージしたアピールが叶わなかっただけではなく、逆に、勘違いした「そこそこの天才」というレッテルを貼られてしまったかもしれない。

 また、この試合でのポルトガルは、デコやマニシェ、コスティーニャといった主力を温存したのですが、そのことが、ロナウドの身勝手なプレーを許したという側面もあるでしょうね。デコがいれば、ロナウドも、おとなしくシンプルなタイミングでパスを回したに違いないだろうからね。まあ、まだまだ汚名挽回のチャンスはあるからネ。頑張れ、クリスティアーノ・ロナウド・・。

 ということで、この日のポルトガルは散々の出来でした。それには、立ち上がりのスーパーサッカーで早い段階に先制ゴールを奪って気が緩んだということもあるんだろうし、逆にアンゴラが、吹っ切れたことで、最高に集中したサッカーで全力を出し切ったという側面もあったことでしょう。まあ、いつものベストメンバーが「最初」から揃えば、二年前のヨーロッパ選手権やワールドカップ地域予選のようなソリッドなサッカーに戻るはず。そうすれば、(この試合で大いなる教訓を得たに違いない!?)クリスティアーノ・ロナウドも復活するはずです。脅威と機会は表裏一体。フェリペ監督のウデを信じて、次を楽しみにしましょう。
 



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