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2006_ワールドカップ日記・・アルゼンチンとオランダ・・(2006年6月16日、金曜日)

すごい攻撃力だよね、ホント。強い、強いアルゼンチン。でもまあ、別な見方をしたら、セルビア・モンテネグロの守備ブロックがあまりにもヒド過ぎたと言えないこともない。彼らがボールを意識し「過ぎ」ていることは明らかだったからね。

 セルビア・モンテネグロの守備だけれど、チェイス&チェックのアクションはまあまあにしても、次のアルゼンチンの仕掛けに対するイメージング(予測ベースで守備イメージを構築する作業)がうまく機能していないと感じる。だから、ボールがないところでのアクション(直接的にボール奪取勝負にかかわるコアの守備プレー)に忠実さを欠いたり、ボールウォッチャーになってしまったりといったケースが目立ったのですよ。

 前半5分に飛び出したアルゼンチン先制ゴールのシーン。中央ゾーンでボールを持つリケルメが、左サイドの後方にいるロドリゲスへパスを出す・・しっかりとボールをコントロールするロドリゲス・・そしてサビオラの足許へ鋭く正確なタテパスを出す・・それが勝負のスタート合図・・次の瞬間、急激に仕掛けプロセスがテンポアップする・・どんどんとドリブルで突っかけていくサビオラ・・同時に、「パス&ムーブ」から、全力ダッシュでリケルメとサビオラを追い抜いていくロドリゲス・・最後の瞬間、サビオラからの「ノールックパス」を、全力で走り抜けたロドリゲスがシュート!!・・ってな具合。

 また二点目はこんな具合でした。左から、リケルメとのワンツーを交えてドリブルで進むサビオラ・・後方から右サイドをオーバーラップしてきたカンビアッソへ、優しい横パスを出す・・パスを受けたカンビアッソは、最前線で横へ動きつづけていたクレスポへタテパスを出す(ここで既に急激なテンポアップ!)・・もちろんカンビアッソはそのまま全力の「パス&ムーブ」・・そこへクレスポから、これしかないというタイミングとコースのリターンパスが戻されたという次第。カンビアッソのシュートも見事だった。

 この二つのシーンでのセルビア・モンテネグロ守備陣の対応は、完全に集中力を欠いていた。一瞬、ボールウォッチャーになってしまう者。マークを振り切られ、身体一つ先にスペースへ走り込まれてしまう者。カバーリングに入れるタイミングなのに、全力ダッシュで急行するのではなく、どうしたものかと様子見になってしまう者。これでは、何点ブチ込まれてもおかしくない・・。

 とにかく、この二つのドリームゴールで、既に勝負は決まったと思っていた湯浅でした。ゲームの内容自体も、攻守わたって、明らかにアルゼンチンの方が上だったしね。そしてその後は、セルビア・モンテネグロに一人の退場者が出たこともあって(モティベーションも大場にダウン!)終わってみたら「6-0」。アルゼンチンの完勝という結果になったわけです。

 ということで、ここからは、この試合からの抽出した興味深いテーマについて、私の仮説を披露させてもらいます。オブジェクトは、ホアン・リケルメ。

 そんな書き出しだったら、たぶん(湯浅コラムを読み慣れている!?)皆さんは「才能という諸刃の剣」なんていうテーマをイメージするに違いない。リケルメは動かないし、守備もしない。ボールがないところでの効果レベルは、とても低いのですよ。たしかにボールを持てば、キープはできるし、ツボにはまれば彼にしか出来ない危険なプレーを披露してくれる。また最近では、無為にキープし過ぎることでボールの動きの停滞を招くという馬鹿げたプレーも少なくなった。でも結局彼は、決してマラドーナにはなれないという厳然たる事実があるのです。マラドーナだったら、許されるけれど、リケルメのプレー内容だったら、やはりもっと組織的な汗かきプレーにも精を出さなければ、チームの総合力に悪影響が及ぶ。

 マラドーナだけれど、彼の場合は、とにかくボールを持ったら、誰にもボールを奪い返せない迫力があったし、パス出しにしても、天才的なものがあった。マークする相手が絶対に当たれないリズムでボールをキープしながら、相手が絶対に阻止できないタイミングと体勢から、信じられないパスを飛ばしちゃう。そして天才的なドリブル。。常に相手のステップの「中間リズム」で、トトッ、トトッとボールを運ぶ、まさに「二軸動作の権化」ってなボールタッチなのです。だから、簡単には止められない。

 絶対的な迫力のキープから繰り出される「リスクチャレンジのパス」は絶品。またドリブル突破も世界一。やはり、リケルメとは比べものにならない天賦の才だったということです。

 とはいっても、リケルメのことをユース時代から育て上げたペケルマン監督は、彼に懸けていると聞きます。だからチーム戦術も、彼を中心に構築した!? まあ、人選にしてもゲーム戦術にしても、そういう傾向は見えるよね。でも、チームとしてうまく機能しない試合も多い。それでも、しっかりと結果は残しているから続いているということでしょうね。なかなか興味をひかれる「不思議な現象」だと思っている湯浅なのですよ。

 とにかくこちらのエキスパートたちも、「??マーク」を脳裏に浮かべながらも、リケルメについて声高にネガティブな評価を主張しないようにしているという雰囲気を感じるのです。彼を使うことでは(組織全体として)マイナス面の方が大きいという評価はあるけれど、たまに魅せるスーパープレーとか、彼を経由するコンビネーションとか、なかなか捨てがたいモノもあるからね。

 そうそう、彼を経由するコンビネーションだけれど、アルゼンチンの選手たちは、本当にうまく「彼のことを活用」していると思いますよ。ワンツーの壁に使ったり、一度ボールを預けて、タメてから全力スタートを切ることで、タテのスペースで最高のカタチでボールを持てたり(リケルメのキープ力を活用!)。また、前述したように、変な(要は自分勝手な)ボールキープが少なくなったことも、チームメイトたちが彼を利用しやすくなったことの背景にあるよね。シンプルにボールを動かしてくれるからね。

 ということで、ここからが私の「仮説」。それは、チームメイトたちが、彼が動かないことを、そして「ポストプレー的なパスの分配役」に徹していることを明確に意識し、だからこそ、そのことを上手く活用できている・・ということです。

 例えば最終勝負の仕掛けに入ったとき、チームメイトたちは、リケルメが「動かないでそこにいる」と確信し、それを本当にうまく活用していると思うのですよ。もちろん「ポスト」して活用することも含めてね。だから私は、ペケルマンが、リケルメを「おとり」に使うという発想をしているのかもしれないと考えているのです。

 最終勝負の仕掛けで、急激にテンポアップして攻め込む流れにリケルメはほとんど乗ってこない。とにかくボールがないところでの動きは、まったく目立たないのですよ。そして(下がって)止まって横パスやバックパスを待つ。フ〜ン・・。

 だから私は、リケルメが、周りの選手たちが繰り広げるコンビネーションをうまく機能させるための「動かない指標(ポスト)」として機能しているのかもしれないという仮説を立てたわけです。前述した先制ゴールのシーンでは、ゴールを決めたロドリゲスが、10メートル後方からリケルメを追い抜いていったからね(リケルメも、少しは、サビオラからの横パスを受けられるスペースへ動こうとはしていたけれどネ)。

 アルゼンチンが繰り出す、全速ドリブルや素早いボールの動き、そして三人目、四人目の全力フリーランニングなどが絡むスーパーな組織コンビネーション。それを「俯瞰(ふかん)」して見たら、その多くが「動かない指標」の周りで展開されていることを確認できるはずです。だからこそ逆に、周りのチームメイトたちの仕掛けイメージもうまく重なり合う(シンクロする)!? そういうことだと思います。

 素晴らしいサッカーでセルビア・モンテネグロを圧倒したアルゼンチン。この試合では、メッシやテベスも出てきて大活躍しました。すごいタレント軍団。そして彼らは、仕掛けでの明確な「イメージ・シンクロ・コンテンツ」を持っている。そう、動かない指標としてのリケルメを「クレバーに活用する」というイメージを・・。

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 オランダ対コートジボワールですが、本当に簡単に印象だけを書きます。

 オランダは、相変わらず、攻守にわたって、組織ブレーと個人プレーがハイレベルにバランスした素晴らしいサッカーを展開しました。それにこの試合では、個の高い能力を前面に押し出してくるコートジボワールの攻めを、(特に後半は)実効ある「手練手管」で抑え切るといった「したたか」な勝負強さも披露しました。とにかく、オランダが展開する(まあ前半だけに集中していたけれど)、パスとドリブルの高質な調和には、本当にため息が出ますよ。

 それに対して、立派な攻撃サッカーを展開したコートジボワールだったけれど、アルゼンチンと同じようなパターンで、オランダにもやられてしまった。

 彼らは、この試合でも圧倒的でダイナミックな攻撃を魅せてくれました。そのバックボーンは、もちろん高い守備意識のあり。それがあるからこそ、流れに乗った者は、最後まで、「後ろ髪を引かれる」ことなく吹っ切れた仕掛けを魅せられたのです。アンリ・ミッシェル監督のウデを感じます。

 とはいっても、前半でオランダに追加ゴール(ファン・ニステルローイ)を許したように、最後の瞬間でのボールがないところでの守備イメージには課題もチラホラ。このようなトーナメントで結果を残すためには、やはり、最後の瞬間におけるディフェンスを、いかに集中してこなせるかがキーポイントになるということです。残念ながら、コートジボワールには、アンリ・ミッシェル監督が言うように、経験が不足していたということなんでしょう。ここで言う経験とは、危ないシーンを素早く正確に予測して対処イメージを描写できることだけではなく、試合の流れを読むことも含まれます。

 アルゼンチンは、コートジボワールに押し込まれながらも、粘り強く守り、そしてワンチャンスのカウンターをしっかりと決めたり、意図的にフリーキックを獲得し、しっかりとそれをゴールに結びつけていました。またオランダは、フリーキックでの先制ゴールの後の良い流れを掴み、どんどんチャンスを作り出すなかで、そのうちの一つをしっかりとゴールに結びつけたのです。やはり経験の差かな・・。

 これでコートジボワールのグループリーグでの敗退が決まってしまった。かなり残念。あれだけハイレベルなサッカーがアフリカから出てきたことは、前にも書いたとおり、本当に脅威だけれど、それもまた世界サッカーの潮流の一つだからね。様々な切磋琢磨があってはじめて発展ベクトルが強化されるわけだから・・。
 



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