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2006_ワールドカップ日記・・本当に良かった・・ドイツが、素晴らしいオーラを最後まで放散しつづけ、それをポジティブに締めくくることが出来た・・この成果は、確実に今後の発展のベースになる・・(2006年7月8日、土曜日)

良かった、本当に良かった。最後の最後まで、攻守にわたる組織パフォーマンスが落ちず、それが素晴らしい結果となって実を結んだことで、その成果がしっかりと継承される。個のチカラでは限界があったこのチームが、組織プレーで三位に輝いたことは、まさにスーパーな成果という他ありません。

 また、(グッドルーザーとして)第一GKのイェンス・レーマンを支えるチームプレーに徹したオリバー・カーンも、代表チームでの最後となるこのゲームに先発し、彼本来のスーパープレーで締めくくった(後述)。それだけではなく、この試合では、若手のリーダーであるシュヴァインシュタイガーも、心理・精神的に復調してヒーローになった(2ゴールと、相手の自殺点を誘った!)。そして、これがもっとも大事なことなのですが、今回の素晴らしい内容と結果が次の若い世代に刺激を与えることによって、今まで以上にドイツの世代交代がスムーズに進行していくに違いないということです。それこそが、積極的に若手にチャンスを与えつづけたユルゲン・クリンズマン監督の、もっとも素晴らしい成果だったということです。

 とはいっても、このゲーム立ち上がりのゲーム内容は、心配していた通り、ちょっと消極的に過ぎるものでした。もちろんそれは、ワールドカップで有終の美を飾るべき最後のゲームで、内容と結果でポルトガルに凌駕されたら、これまでに彼らが築き上げた「成功イメージ」の大きな部分が壊滅してしまうかもしれないという心理的なプレッシャーに因ります。サッカーとは、それほど微妙なモノなのですよ。

 前述したように、個のチカラでは後れを取るドイツですからね。攻守にわたる組織プレーが「有機的に連鎖」しなければ、やはり相手にイニシアチブを握られてしまう。その組織メカニズムを効果的に機能させるためには、もちろん全員が、積極的なプレッシングサッカーを展開できなければならないのです。一人でもビビッて消極的な「待ちのプレー姿勢」に陥ることでプレーの有機連鎖が途切れたら、それが原因で、チーム全体のパフォーマンスも減退してしまう。それが立ち上がりの展開でした。

 要は、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するマークの間合いをうまく詰められずにフリーにし過ぎたことで、ポルトガル選手に、彼ら本来の上手さを表現するチャンスを与え過ぎてしまったということです。もちろんそれは、チェイス&チェックのアクションだけではなく、次のボール奪取勝負へのアクションなども不十分だったからです。それは、より慎重なプレー姿勢とも表現できるけれど、今のドイツチームの本来の在り方からすれば、確実にネガティブなプレー姿勢でした。

 そして案の定、ポルトガルに決定的なチャンスを作り出されてしまうのです。前半15分のこと。左サイドでボールを持ったシモンが、その目の前で、フリーで(斜めに)決定的スペースへ走り抜けるパウレタへのスルーパスを決めたのです。

 完璧にフリーになり、ドイツGKオリバー・カーンの動きをしっかりと見定めながら、そのアクションの逆を取ってゴール右のサイドネットへボールを流し込もうとするパウレタ。誰もが「ポルトガルの先制ゴール!」と確信したに違いありません。ただ次の瞬間、スパッという音がするくらい鋭いオリバー・カーンのセービングが炸裂するのです。ボールへ飛びつくオリバーのアクションには、鬼気迫る「冷静なエネルギー」が込められていた。ギリギリの最終勝負での落ち着きと冷静な判断。そして勇気をもった大胆な勝負アクション。私は感動しました。そして、その起死回生のセービングを境に、ドイツチームが吹っ切れていくのです。

 その数分後。今度はドイツのケールが、ゴール前中央ゾーン20メートルから、正確なループシュートを放ちます。最後はポルトガルGKにギリギリのところで弾かれてしまったけれど、そのシュートもまた、オリバー・カーンのセービングとともに、素晴らしい刺激となってドイツ選手を覚醒していったと感じました。そして22分のシュヴァインシュタイガーのフリーキックや25分のポドルスキーのフリーキックからの直接シュートなど、今度はドイツがイニシアチブを握りはじめるというわけです。

 とはいっても、ポルトガルも、しっかりとチャンスを作り出します。デコの中距離シュートや、デコのクロスからのシュートチャンス。全体的なゲームの流れはドイツが握っているけれど、チャンスの量と質では、ポルトガルに僅かに軍配が上がるという前半の展開だったということですかね。

 そんな緊迫感あふれる展開が後半もつづきます。互いにチャンスを作り出していた後半の11分のこと。シュヴァインシュタイガーが、意を決したドリブルから吹っ切れたシュートを放ち、それがポルトガルGKの逆を取ってゴールへ吸い込まれていくのです。ドイツの先制ゴール。

 私は、そのシーンを見ながら思っていました。シュヴァインシュタイガーは、友人のドイツ人コーチが指摘するように、たしかにちょっと精神的に弱いところがある・・彼の場合もまた、様々なイメージトレーニング素材を駆使して確信レベルを高揚させ、それを高みで安定させなければならない・・それがあってはじめて、持てる才能を開花させ、本物のブレイクスルーを達成できる・・そう、この試合のように・・。

 何せ、あれだけ期待され、大会がはじまった当初は素晴らしいパフォーマンスを披露していたのに、それが、試合を追うごとに目に見えて減退していったのですからね。それは彼の自信が、まだまだ本物ではかなったからに他なりません。何度かミスをつづけたら、急にプレーが慎重に(消極的に)なってしまい、心理的な悪魔のサイクルに陥ってしまう・・。そんな場合は、とにかくまず積極的にディフェンスすることからリスタートしていかなければならないのだけれど、彼の場合は、そこでもミスをしたり不用意なファールをしたりで、逆に自信レベルをより低下させてしまうという悪循環に陥ってしまうのが常だったのですよ。

 そんなシュヴァインシュタイガーが、この試合では、良いパフォーマンスを披露しただけではなく、ゴールまで決めてヒーローになる。それが、彼にとっての本物のブレイクスルーのキッカケになることを願って止みません。

 ところで、先ほども登場したオリバー・カーン。前半で、一点ビハインドになってしまうピンチを防いだだけではなく、ドイツの2点目が入った数分後には、デコが放った決定的シュートを、例によっての読みベースの見事なスーパーセーブではじき出してしまうのです。

 そのデコのシュートが入っていたら、ポルトガルが「2-1」に迫る「効果的な追いかけゴール」になっていた。皆さんもご存じのように、2点をリードし、ホッとしていた次の瞬間に、そのリードを「1点に縮められてしまう」ことほど心理的に厳しいものはありません。追われる方は不安に陥り、追いかける方は心理的な勢いを倍加させる・・。

 ポルトガルの先制ゴールを防いだだけではなく、そんな不穏な「追いかけゴール」までも確実に阻止したオリバー・カーン。私は、彼のプレーには、確実にMVPの価値があったと思っています。もちろん実際のマンオブザマッチは、シュヴァインシュタイガーでしたけれどね。

 とにかく、ユルゲン・クリンズマン率いるドイツ代表が、大会を通じて(最後の最後まで)素晴らしい存在感を発揮できたことで、ものすごくハッピーな湯浅でした。
 



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