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2006_ワールドカップ日記・・ドイツのブレイクスルー続編・・イタリアの狂犬ガットゥーゾ・・(東京新聞に2006年6月10日から7月10日まで隔日で連載したコラムから)・・(2006年7月19日、水曜日)

さて決勝トーナメント一回戦。今日も、6月24日のドイツ対スウェーデン、26日のイタリア対オーストラリアから題材をピックアップしたコラムを二本つづけて掲載します。ではまずドイツのブレイクスルー続編から・・。

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 そのとき、全員がベンチから飛び出して喜びを爆発させた。GK控えのオリバー・カーンも、ボロヴスキーも、拳を天高く突き上げガッツポーズ。それこそが、国が一体となったスピリチュアルエネルギーの為せるワザだった。スウェーデンに完勝したドイツが、前半4分に先制ゴールをたたき込んだシーンである。

 ドイツ全土から沸き上がり、代表チームに集約するスピリチュアルエネルギー。そんな心理的な揺動によって最も大きく高揚するのは、何といっても守備意識である。具体的な仕事が決められているディフェンダーは除き、汗かきマークなども含め、守備プレーの実効レベルは主体的な意志によるところが大きい。守備が好きな選手は、マイノリティーなのだ。だからこそ、強い意志が重要。いまドイツ代表には、そんな闘う姿勢を支える強力なバックボーンが与えられた。

 エクアドル戦でのワンシーン。最前線でボールを失った最前線のクローゼが、間髪を入れずに守備に入り、全力ダッシュで相手を追いかけてボールを奪い返した。その全力ダッシュは、少なくとも50メートル以上。素晴らしい気迫だった。また、攻撃のリーダー、ミヒャエル・バラックも、たまには味方の最終ラインを追い越す勢いで守備に入る。目立たないボールがないところでのマーキングでも勢いは衰えない。いまドイツチームでは、全員守備、全員攻撃というモダンサッカーが進化しつづけているのである。

 さて次はアルゼンチンとの準々決勝。個人の才能では及ばない。ただ彼らには、厚い心理バックボーンに後押しされる強烈な闘う意志がある。(了)

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 次は、ドラマチックな勝負になったイタリア対オーストラリア戦からテーマをピックアップしたコラムですが、そのギリギリの勝負を支えた縁の下の力持ち、ガットゥーゾにスポットライトを当てました。

 本当に凄いヤツですよ。まさに、イタリアのツボを地でいく強者。何せ、試合中に、監督(あの、リッピに対して!!)にさえ掴みかかっちゃうヤツですからね。その闘う意志こそ、狩猟民族のスポーツであるサッカーを象徴していたりして・・。もちろん、「それ」を真似するなんてことはできないけれど、その底流にある闘うマインドには、「部分的に」見習うべきエッセンスもありそう。ということで、ガットゥーゾ。

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 イタリアが、ロスタイムの劇的なPKで勝利を飾った。ドラマチックな展開になったのは、後半5分にイタリアのマテラッツィーが退場になったからだ。

 一人多いオーストラリアの攻めの勢いが増幅する。ただ、イタリアの守備を本当の意味で苦しめたというわけではなかった。押し気味だが、決定的チャンスを作り出せているわけではない。世界の頂点に立つイタリア守備が、要所をビシッと抑えているのだ。それも余裕をもって。この「守備の余裕」を演出していたのが、中盤の「汗かき」ガットゥーゾ。髭面で、見るからに強者である。

 守備のプロセスでは、まず相手のボールの動きを抑えなければならない。その尖兵がガットゥーゾなのだ。彼は、次のパスレシーバーを的確に予測し、全力ダッシュで効果的なプレッシャーを掛ける。そのことで相手のボールの動きが止まり、周りの仲間が、ボール奪取の勝負を仕掛けやすくなる。私は、そのガットゥーゾのプレーを、「守備の起点」と呼ぶ。それこそが、強力なイタリア守備のベースなのである。

 彼は、「汗かき」とか「猟犬」などと呼ばれるが、私は、闘う意志の権化とか、「イタリアのツボ」の演出家などと呼びたい。彼の貢献があるからこそ守備が安定し、イタリア的な鋭いカウンターも繰り出せる。確かに上手い選手ではない。ただ、組織の機能性を縁の下から支える素晴らしいチームプレイヤーなのである。私にとってガットゥーゾは、明らかに、この試合でのMVPだった。

 準々決勝のイタリア対ウクライナ戦では、彼だけに注目してみるのも一興だ。絶対に目からうろこが落ちる。(了)
 



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