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2006_ワールドカップ日記・・ジネディーヌ・ジダンの復活・・(東京新聞に2006年6月10日から7月10日まで隔日で連載したコラムから)・・(2006年7月21日、金曜日)

さて、7月1日に行われた準々決勝、フランス対ブラジル。そこでフランスが見せつけたスーパーパフォーマンスには、誰もが自分の目を疑ったに違いありません。何せそれまでのフランスは、前評判通りの「ロートル・サッカー」に終始していましたからね。

 何が素晴らしかったかって? もちろんディフェンス。それは、ブラジルの天才たちが、まったくといっていいほど自由にプレーができない程の出来映えだったのです。それも、あんな激しい守備ペースだったらいつかは急激にダウンしてしまうだろう・・なんていう周囲の予想を見事にくつがえし、最後の最後までペースダウンしなかったのは立派と言うほかありません。そんなだったから、ブラジル選手は徐々に足が止まり、最後は個人勝負プレーにはしるばかりといった体たらくでした。そして、そんな素晴らしいディフェンスが基盤になっていたからこそ、ジネディーヌ・ジダンという天賦の才も光り輝いたということです。

 それは、フランスが吹っ切れた(徹底した)チーム戦術に切り替えたからに他なりません。それが、その日のコラムのテーマでした。では・・

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 フランスが生んだ希代の天才、ジネディーヌ・ジダン。この大会を最後に引退する。ただそのジダンが、これで見納めとは信じられない活躍を魅せはじめた。決勝トーナメント一回戦の対スペイン、準々決勝ブラジル戦とつづけて、まさに全盛期を彷彿させる素晴らしいプレーを披露したのだ。

 大会当初は、重いプレーに終始した。運動量が少ない。守備にもうまく絡めない。ボールを持っても決定的な仕事ができない。その原因は、中途半端なチーム戦術にあった。

 たしかに、スタミナや守備での衰えは隠せない。ただ、瞬間的なスピード、魅惑のボールコントロールとドリブル突破力、決定的なパス出しは今でも超一流。そのジダンを使うならば、彼を中心にチーム機能を整えなければならない。

 そしてフランスのドミニク監督が決断する。ジダンに完全な自由を与えたのだ。彼を取り囲むように、ワントップのアンリ、左右のリベリーとマルーダ、後方のビエラとマケレレが四方からサポートする。それまで分散気味だった組織プレーエネルギーを、すべて、ジダンが描写するイメージに集中させたのである。そしてジダンとともにフランスが蘇った。

 守備と攻撃の基本的な「やり方」を意味するチーム戦術。そのコンセプトは、やはり選手の能力や特長を最大限に活かすというものだろう。フランスは、様々なバリエーションのなかで、相手に潰される危険は高まるけれど、一つの突出した才能を際立たせるというやり方を選択し、それが全体パフォーマンスを引き上げた。そんなフランスのチーム戦術的なアイデアを脳裏に描きながら準決勝を観るのも一興だ。(了)

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 大会当初のフランスは、トレゼゲとアンリのツートップでゲームに臨みました。ただそれでは、ジダンの守備での負担が大きすぎてしまいます。だからこそ、アンリのワントップにし、リベリー、マルーダ、ビエラ、マケレレという「クリエイティブな汗かき」たちが、全力でジダンをサポートするという体制にしたのです。

 そのチーム戦術で臨んだ決勝トーナメント一回戦のスペイン戦。それが、互いのイメージをシンクロさせるための良いモティベーションになりました。「よし、これでうまくいく!」という確信の高揚。その試合では、時間を追うごとにフランス選手のイメージが固まっていったのです。積極的に前からボール奪取勝負を仕掛けてジズー(ジダン)にボールを供給しろ・・そしてボールがないところで、全力のパスレシーブアクションをつづけろ・・。そんなマインドが「善循環」をつつづけたからこそ、「あの」フランスサッカーが復活したのです。

 スペイン戦での「自信と確信の高揚」。そして、ブラジルとの勝負マッチという極限のモティベーション。フランスが「ブレイク」するのは自然な流れでした。それにしてもジダンの「切れ」は、まさに全盛期でした。そこでの彼は、自分のために全力の「汗かき」をつづけるチームメイトのプレー姿勢を肌で感じたことで、意気に燃えていました。この試合ほど一生懸命にディフェンスにも精を出したジダンは久しく見なかったですからね。

 とにかく、フランスの「優れたバランスサッカー」の復活という現象は、ブラジルの挫折という(観る方にとっての)大きな落胆を補って余りある希望と期待のポジティブエネルギーを与えてくれたモノです。
 



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