トピックス
- 2006_ワールドカップ日記・・ある程度フリーでボールを持つというテーマ・・そして「バランス感覚」・・(東京新聞に2006年6月10日から7月10日まで隔日で連載したコラムから)・・(2006年7月23日、日曜日)
- 7月5日にミュンヘンで行われた準決勝のフランス対ポルトガル。そこには興味深いコントラストがあった。ドリブルを主体に切り崩そうとするポルトガル。それに対し、組織コンビネーションで仕掛けていくフランス。
後半は、一点を追うポルトガルが攻め立てるけれど、フランスが余裕で受け止める。フランス守備には、点は取られないという確信があったに違いない。実際、流れのなかでポルトガルが作り出したチャンスは、左サイドバックのヌーノ・ヴァレンテが「シンプルなタイミング」でクロスを送り込んだシーンだけ。そのことは象徴的だった。ドリブル勝負ではまったく歯が立たなかったのに、素早いコンビネーションからのクロスでは上手くチャンスメイクできたのだから。
ポルトガルは、フィーゴ、クリスティアーノ・ロナウドといった才能に恵まれたドリブラーを擁する。普段は、ドリブル突破か、それと見せ掛けたラストパスかというオプションをギリギリまで残すことで最終勝負を効果的にリードする彼らだが、この試合では、ドリブル突破に偏りすぎていた。そして、味方のパスレシーブの動きを「彼らが止めて」しまうという悪循環に陥ってしまうのである。
サッカーは、スペースをめぐるせめぎ合い。シュートを打つために、スペースで、ある程度フリーでボールを持つのが目標イメージだ。そのために、組織プレーのなかにバランスよく個の勝負を織りまぜていくのが理想。そう、フランスのように。それに対してポルトガルは、偏った仕掛けに終始した。勝負は最初から見えていた。
才能という諸刃の剣。彼らに、組織プレーと個人プレーを常にバランスよく表現させるのは難しいものだ。(了)
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このコラムでは、攻撃において「ある程度フリーでボールを持つ」という目標イメージがメインテーマでした。「そのこと」は、スペースを活用するという現象に他ならないし、仕掛けの起点を演出するという意味にもつながる。もちろん「そのこと」が直接的なシュートチャンスというケースも多い。
攻撃の(具体的な)目的は、シュートを打つことであり、ゴールは単なる結果にしか過ぎない。湯浅は、常々そう書いてきました。要は、シュートを打つことと「シュート決定力」を、まったく別物のファクターだと区別しているのです。流れのなかで仕掛けていくプロセスでの具体的なイメージは、常に「いかにシュートを打つのか」というテーマに集約されるべきだけれど、そのこととシュートチャンスを実際のゴールに結びつけるという「現象」は異なったテーマが底流にあるということなのです。
さてスペースをめぐるせめぎ合い。(一点リードされていることもあって!?)フィーゴとクリスティアーノ・ロナウドは、自ら相手を抜き去ることで「ボールを持ってスペースは入り込む」というイメージを前面に押し出していきます。もちろんそれが叶えば、ある程度フリーでボールを持って仕掛けの起点になったり直接シュートを打つことにつながるけれど、いくらロートルとはいえ、リリアン・テュラムをコアにするフランスの強者ディフェンダーたちが、おいそれと抜き去られるはずもない。だから、彼らのドリブル勝負は、多くのケースで、ボールの動きの停滞やボールの単調な動きというネガティブ現象の原因になってしまっていたのです。
そんなだから、周りの味方も、パスの出所やパス出しのタイミングがうまく掴めず、結局は足が止まり気味になってしまう。まさに悪循環じゃありませんか。それだけではなく、フィーゴやクリスティアーノ・ロナウドがドリブル勝負を仕掛けていこうとする状況で、2-3人のフランス選手に取り囲まれるというシーンが続出します。それこそが、フランス守備陣の確信の表れ。「ヤツらは、前にスペースを与えてやれば、必ずドリブル勝負を仕掛けてくる・・そのタイミングを逃さずに集中プレスを掛けてやる・・」ってな具合なのです。
最後に、「才能という諸刃の剣」というテーマ。
だからこそ、特に才能に恵まれたユース選手に対しては、その天賦の才を効果的に発展させ、自信と確信にあふれたドリブル勝負マインドを進化させるために(また実際のドリブル技術を進化させるために!)、積極的に特別なドリブルトレーニングを課さなければならないし、同時に、その「使い処」に関しても明確なイメージを与えつづけなければならないのですよ。要は、あくまでも組織プレー(シンプルプレー)を基盤に、うまくスペースでボールを持つことで、天から授かった才能をより効果的に発揮できるように導くということです。
組織プレーと個人ブレーのハイレベルなバランス。まあ、常に書きつづけていることだけれど、サッカー選手でもコーチでも、彼らにとってもっとも大事なセンスは、やはり「バランス感覚」という表現に集約されるということなんだろうね。それを発展・深化させることこそが本当の意味でのトレーニングなのかもしれない・・。
まだドイツで充電中(来週には、招待されているサッカーコーチ国際会議がはじまる)の湯浅でした。
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