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2006_ワールドカップ日記・・ある、チケット争奪ストーリー・・(NHKデータ放送&同HP連載コラムから)・・(2006年7月27日、木曜日)

どうも皆さん。今日は、ある友人のチケット騒動をまとめたストーリーを紹介します。ということで「補足コメント」はなし。では・・

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 「そのときは、本当にちょっと震えがきましたね。何せ多額の金を既に支払った後でしたからネ」。今日は、ゲームがない中日ということで、チケット争奪戦のエピソードの一つを紹介することにした。

 それは、日本の友人で、あるIT企業の経営者が体験したチケット入手をめぐるリスクチャレンジだった。そんな危険を冒してまでも、ワールドカップを現地スタジアムで体験したいという強い願望。その話を聞いて、人々を引きつけてやまないサッカーの底知れぬパワーを再認識したものだ。

 その友人がチケット争奪戦に参入したのは、かれこれ1年前にさかのぼる。もちろん最初はFIFAの抽選に申し込んだ。しかし、残念なことにすべて外れてしまう。もちろん彼はそれであきらめるようなタイプではない。職業柄IT技術を駆使し、ある怪しげなチケット業者を探し出した。

 彼は奥さんと一緒にワールドカップを現地観戦したい、と強く願っていた。2002大会で家族そろって7ゲームも観戦した。それで奥さんもとりこになったのだ。「ワールドカップの観戦だから、もし実現したら家内も絶対に文句を言わないと確信していたんですよ」。

 そしてチケット業者に、日本戦3ゲーム分(奥さんと二人だから全部で6枚)の多額の金額を、昨年5月に振り込んだのである。奥さんがそのことを知ったのは、その年の8月に入ってから。「最初はビックリしたけれど仕方ないとあきらめました。それよりも、ワールドカップを現地で観られるワクワク感の方が先に立った、っていうのが本当のところかしら」と奥さん。なるほど、ワールドカップパワーは強大だ。

 ただそこから、彼らに、大変な心理ストレスがのしかかってくることになった。彼いわく。「そのチケット業者のホームページは規約などもしっかりして、購入者にはID番号が知らされるから、インターネット上でチケットの状況を見ることができます。すべての状況を考えても、信頼度は80パーセント以上と思ったのですよ」。

 ただ、約束された配達期日の今年6月2日になっても、チケットが日本に届かない。購入IDから、チケットの状況を見ても、よく分からなくなっている。問い合わせ先にメールを打っても返事がこない。

 さらに悪いことに「このチケット業者は詐欺だ・・」というネガティブキャンペーンがインターネット掲示板で立ち上がったりもした。そりゃ、震えがくるでしょう・・。

 「でもね、そのチケット業者のホームページは内容や規約とか、その後の顧客の取り扱いなどもちゃんとしていたから信頼し続けたのですよ。詐欺だったら、絶対にそこまで労力は掛けないでしょうからね。そして、規約をよく読んでみたら、チケットの配達方法について変更する権利はその業者が留保し、随時備考欄でお知らせするとあったんです。確かに配達方法の変更とか、その他の問い合わせについては、この電話番号に掛けてくださいって、記されているじゃないですか。その電話番号は、確かノルウェーのオスロだったと思いますよ」。彼の語り口が最高潮に達している。

 彼は、すぐに電話をかけてみた。何せ、既に出発まで数日というところまで切迫していたのだから。電話に出た男性が言うには、6月5日か6日にはチケットの受け渡し方法に関する最終決定が下され、その内容が、チケット購入者の状況を表示する備考欄に表示されるとのことだった。そしてまさに彼が言うとおり、6月6日に、その備考欄に、こう記入されていた。「6月11日か12日に、カイザースラウテルンにあるトルコ料理店までチケットを取りに来て欲しい・・」。

 何だ〜っ!?トルコ料理店だって〜!? とはいっても、もうどうすることもできない。「それでも、そのトルコ料理店へ行ったら、リラックスした担当者が、ハイヨ〜ってなノリでチケットを手渡してくれたんですよ。まさに拍子抜けでしたね」。そこまで話した彼の声が、そのときの情景を思い浮かべるように、ス〜ッとトーンダウンしたものだ。

 この友人は、精神的にかなりタフだったからよかったものの、普通の人だったら、その不安と緊張感は耐え難いものだったに違いない。

 「湯浅さんがいつも書いているようにリスクにチャレンジしないところに成果と発展なしですよ」と彼は笑っていたが、その横に座る奥さんの複雑な表情が印象的だった。

 FIFAが仕掛けつづけているサッカーキャンペーンと世界的な情報化、国際化の波に乗って、サッカーとワールドカップの人気はうなぎ登り。そのことで、一般の方がチケットを手に入れにくくなるだけではなく、我々メディアに対する「門」もより厳しく狭いモノになっていくだろう。彼の話を聞きながらちょっと暗たんたる思いにかられた。(了)
 



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