トピックス


2007_ブンデスリーガ(ヨーロッパの日本人)・・後期開幕戦レポートと、技巧派ゴールを決めた高原直泰・・(2007年1月28日、日曜日)

昨日の金曜日は、ホントに寒かった。それに、渋滞に巻き込まれた(スタジアムへ向かう)アウトバーンでは雪も本格的に降り始めた。とにかく試合前は、気持ちがネガティブ方向へ引っ張られるのも道理という状況だったのです。

 それでも、スタジアムが近づいてくるにしたがって、落ち込んでいた気持ちがどんどん高揚していきました。それは、目立ちはじめたサッカー観戦のクルマから放散される、独特なポジティブエネルギーに刺激されたからに他なりません。雪混じりの雨だというのに、クルマの窓からサポーターマフラーをなびかせるだけじゃなく、巨体を乗り出して応援歌をガナリ散らすんだからね。とにかく迫力は満点だし、楽しいことこの上ない。

 ということで、ドルトムントで行われた後期開幕マッチ。昨日の金曜日は、一試合だけが組まれたのですが、それは、ボルシア・ドルトムント対バイエルン・ミュンヘン戦でした。もちろん超満員。その、日常を超越する「ギリギリの際」という本格的なドイツサッカーの雰囲気は、これぞブンデスリーガといったところでした。

 そんな強烈な雰囲気に後押しされ、ゲームも、なかなか興味深い展開になりましたよ。ファン・マール・ヴァイク監督が更迭された後を受けたユルゲン・レーバー率いるドルトムント。ホームの彼らがまずガンガンとバイエルンを押し込みつづけるという展開でゲームが立ち上がりました。

 そんな流れのなかで、まず11分には、クリストフ・メッツェルダーが、セットプレーから惜しいヘディングシュートを放ちます。そして直後の12分には、素晴らしいオーバーラップを魅せたデーデからの正確なクロスを、ドルトムントのフライが、ヘディングで叩き込むのですよ。バイエルンGKオリバー・カーンもノーチャンスという完璧な先制ゴールでした。

 このシーンだけれど、戦術的には非常に興味深い現象が内包されていました。それは、バイエルン最終ラインのセンター二人が(背の高いファン・ブイテンとルシオ)そのサイドに引っ張られたことで、逆サイド(ファーポストのスペース)を背の低いラームがケアーしなければならなくなったことです。

 そこに待ち構えていたのが、身体が大きなフライだったからね。ラームがまともにヘディングで競り合ったら、まずかなう相手じゃない。でも、試合の流れのなかで、そんな(バイエルンのラームにとって)厳しい状況が出現してしまった。そして案の定、フライに、自分の眼前スペースへ身体を回り込むように入り込まれたラームは、まったくノーチャンスでした。

 だから、両サイドバックにも、そこそこ身体の大きな(ヘディングにも強い)選手を据えるべきだという議論があるのです。もちろん、身体の大きな守備的なハーフがしっかりカバーするなど、「そんな状況」に落ち込まなければいいわけだけれどね。「J」でも、しばしば観られる「微妙な現象」ということです。フムフム・・。

 あっと・・、ホームのドルトムントが1点をリードするというゲーム展開だけれど、そこから、やっとミュンヘンが覚醒するのです。ゲームを支配し、続けざまにチャンスを演出しつづけるバイエルン。この時間帯では、明らかなチーム力の格差が見えていました。

 この覚醒の背景には、もちろん、中盤での効果的な(汗かき)ディフェンスプレーと、ボールを奪い返した後の攻撃における、ボールがないところでのリスクチャレンジプレーの量と質の高揚がありました。

 要は、個のチカラで優っているバイエルンにしても、潜在的な「個のチカラを総計した差」を、グラウンドの現象として顕在化させるためには、攻守にわたる(ボールがないところでの)汗かきプレーやリスクチャレンジプレーの量と質が問われるということです。ボールがないところで勝負が決まるという根源的なメカニズムに対する理解とその実行力、そしてクリエイティブなムダ走りこそが、サッカーの質と勝負を決めるのです。

 そして、素晴らしいサッカーを展開したバイエルンが、(たしかに偶発的なゴールもあったけれど)前半のうちに「2-1」と逆転してしまうのです。もう試合は決まったな・・なんて感じながら、前半タイムアップの笛を効いていた湯浅でした。それが・・

 ビックリすることに、後半のドルトムントが、まさに吹っ切れたという表現がふさわしいダイナミックなサッカーを展開したのです。後ろ髪を引かれないリスクチャレンジ。ボールを持った選手も、思い切りよく勝負を仕掛けていく。そして、そんな積極プレーが功を奏し、同点弾(後半12分に、再びフライがヘディングを決める!)から逆転弾(14分のティンガ弾)と、試合をひっくり返してしまうのですよ。

 それだけではなく、逆転した後にドルトムントが展開したディフェンスも素晴らしかった。とにかく、ボールがないところでフリーになるバイエルン選手は、まったく出てこなかったんだからね。前半とは、まったく様変わりの素晴らしいディフェンスコンテンツでした。ドルトムント監督ユルゲン・レーバーのウデを感じる。

 とにかく素晴らしいやる気のドルトムントだったわけですが、それには、試合前のファン・ボメルの発言も微妙に関係していたというのが何人かのドイツ人ジャーナリストたちの意見でした。

 いまやバイエルン中盤のリーダーとなったファン・ボメル。ドルトムントを更迭されたオランダ人プロコーチ、ファン・マール・ヴァイクは、ファン・ボメルの義理の父親なのですが、そのことについてファン・ボメルが、「あんないい監督がいなくなったドルトムントだから、ヤツらに勝つのは簡単さ」などいう発言をしたのだそうです。それがドルトムント選手の感情を刺激した!? さて・・。

 とにかく試合は、バイエルンが、内容的にも「順当」に敗戦を喫したという結末になってしまいました。後半のバイエルンの攻撃は、まったくスペースを使うことが出来ていなかったからね。要は、ボールがないところでのアクションの量と質が(前半の良い流れのときと比べて!)大幅に減退したということです。それじゃ、ドルトムント守備陣を崩せるはずがない。ドルトムント守備ブロックを統率していたのは、言わずと知れた、クリストフ・メッツェルダーですからね。

--------------

 そして今日(1月27日)は、バイエルンとリーグ優勝を争うべき(現在リーグ2位の)シャルケ04が、高原直泰が所属するフランクフルトへ乗り込み、3-1というアウェー勝利をモノにしてしまうのです。

 これでバイエルンと(暫定トップの)シャルケ04の勝ち点差は「6」にまで広がってしまった。また、前節までトップだったブレーメンが、明日(1月28日)のハノーファー戦(ホーム)に勝ったら、これまた、バイエルンに6勝ち点差をつけたトップに躍り出るということなる。さて・・

 とはいっても(1-3の勝利とはいっても)、そのプロセスは簡単なものではありませんでした。要は、フランクフルトも、攻守にわたって頑張ったということです。逆に、シャルケの内容は、まったく誉められたものじゃなかった。

 シャルケのクリエイティブリーダーであるべき「リンコン」は、ホントに問題児だよね。守備をしない。ボールがないところで走らない。かといって、ボールを持っても、相手を何人も抜き去ってしまうような突破力があるわけでもない。確かに、局面的なドリブル突破力はあるし、タメからのスルーパスも鋭く正確だけれどね。シャルケのスロムカ監督も、そのうちに「微妙な判断」を迫られることになるはずです。それもまた、私にとって有意義な「見所(学習機会)」なのですよ。

 そんなリンコンに対して、クラーニーは、調子を上げている。先制ゴールでのスルーパス場面とか、仕掛けの歯車としてもうまく機能しているし、もちろん決定力も素晴らしい。彼は、そろそろドイツ代表に復帰する時期にあるのかもしれないね。一度は「高慢」になり、その鼻をへし折られたクラーニー(ドイツ代表から追い出された!)。たぶん、以前よりは大人になっているはずですよ。組織プレーと個人プレーの高質なバランスこそがもっとも重要なコンセプトだという、サッカーの根源的なメカニズムに対する深い理解をベースにしてね。

 この試合に関しては、高原のパフォーマンスを中心にレポートします。まず彼のゴールから。それは、まさに技巧派のシュートでした。

 フランクフルト中盤の選手が、味方への横パスを出す・・ただ、そのパスコースがずれてしまったことで、相手ボールになりそうになる・・次の瞬間、本来はパスレシーバーになるはずだったフランクフルト選手が、相手とボールを競り合うためにスライディングを仕掛け、その反動でボールが決定的スルーパスになってしまう・・そしてそのボールが、最前線に張っていた高原の眼前スペースへ転がってくる・・瞬間的に全力ダッシュで抜け出した高原・・大迫力で追いかけてきた相手ディフェンダーと相手GKのアクションを冷静に見定め、最後は「チョン!」という正確な「ゴールへのパス」を決めたという次第。いや、ホントに素晴らしいゴールでした。

 この試合での高原は、至るところで効果的なプレーを繰り広げていた。たしかに守備での(最前線からの)チェイス&チェックの量と質は以前ほどじゃないけれど、それでも、必要な状況では、しっかりと全力ディフェンスに入るから、最前線プレイヤーとしては、まあまあといったところでしょう。もちろんそのポイントでは、ジェフの巻にはかなわないけれどね。

 でも高原には、本格的に備わってきた攻撃力がある。特に、効果的な前後のアクションが目立ちます。ズバッと戻ってパスを受け、素早くトラップして振り向き、そしてドリブルやパス&ムーブを仕掛けるのです。

 前半43分に魅せた「前後の動きからの流れるような仕掛けアクション」は、観客の拍手を誘っていましたよ。ズバッと下がってパスを受け、そのまま振り向いてドリブルして相手を引きつけ、最後の瞬間に、右サイドでフリーになっていた味方へパスを出して、そのまま全力で決定的スペースへ抜け出していく高原。その迫力は、まさに本物でした。

 また、同点ゴールを奪った直後の、左サイドからのドリブル突破も迫力満点だった。相手ディフェンダーを手玉にとって逆を突き、ゴール前の味方に決定的なラストパスを送り込んだプレーは特筆でした。

 久しぶりに高原のプレーをスタジアムで観察したわけだけれど、前述した技巧派シュートにしても、前後の流れるようなアクションフローにしても、はたまた、相手マークを背負った状態での確実なキープや、迫力ある(スピードではなくテクニカルな!)ドリブル突破チャレンジなど、彼のパフォーマンスが、まさに高みで安定していることを「生の目」で観察できてハッピーでした。

 たしかに、スピードやパワーなど、世界トップクラスには届かない。それでも彼は、持てるチカラを100パーセント以上発揮している。高みで安定する高原直泰の動向からも目が離せません。

 さて、明日の日曜日は、ベルギーとの国境にある、工科大学で有名な都市アーヘンで、アレマニア・アーヘン対レーバークーゼンの試合を観戦します。後期の開幕ゲームは、これで3試合目。至福の毎日じゃありませんか。とはいっても、明日の移動距離は、たぶん600キロ近くになるでしょうね。まあアウトバーンだから問題ないけれど、でも「雪」と遭遇したら大変だ。さて・・。

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]