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2007_アジアカップ・・ベトナム代表監督アルフレッド・リードルは、なかなかのパーソナリティーでした・・(2007年7月15日、日曜日)

「やっぱりコーチにとって最後に大事になってくるのは人間性だよな・・」。カフェテリアで私と二人でコーヒーを飲みながら、アルフレッド・リードルさんがそんなことを言っていました。

 本日のお昼どき、ゲーム前日の各チーム監督オフィシャル記者会見が行われました。最初は、ベトナム監督アルフレッド・リードル。

 「日本は最高のサッカーを展開している・・だから明日のゲームは我々にとって非常に難しいものになる・・とはいっても我々は決して受け身に入るような守備的なサッカーはやらない・・いつものように積極的で攻撃的なアタッキングサッカーを展開するつもりだ・・」。メリハリの効いたストレートな話し方、そしてその表情からも、なかなか質の高いパーソナリティーを感じます。

 これまでの二試合(対UAE、対カタール)、ベトナム代表は素晴らしい闘う意志をベースに、4ポイント(一勝一分け)を勝ち取りました。ベトナムの(個のチカラを単純に加算した)チーム総合力を考えればとても大きな成果だと言えます。カタール戦のレポートは「こちら」

 とはいっても、そんな勝ち点だけではなく、内容でも彼らは高く評価されるべきです。まさに全員が、100パーセントの(それ以上の!?)チカラを出し切りながら取り組む、有機的に連鎖しつづける組織ディフェンスと、その後の吹っ切れた組織的な攻撃。リードルさんが言うように、そのディフェンスは決して受け身に守るというものではなく、常に前から勝負するという積極的なディフェンスです。ベトナム代表は、内容と結果が高みでバランスした成果を挙げているのです。

 また記者会見でのリードルさんは、「大観衆の応援は大いなる後押しになると思うのだが・・」という質問に対して、「試合が進んで疲れが出てきたときには効果的な心理サポートにはなるだろう・・ただそれは、サッカーの内容を(戦術的に)高めるものではない・・」と、あくまでもロジックベースでエネルギッシュな発言を繰り広げます。

 また地元記者からの、「明日の試合では、少なくとも勝ち点1は取らなければならないとベトナムサッカー協会の役員が言っていたのだが・・」という質問に対しては、「その発言をしたのが誰なのかを知らないし、本当にそんな発言をしたのかどうかも定かではない。とにかく、誰でも自由に、好きなことを言って構わないと思うよ」と、強烈なパーソナリティーを放散しつづけるのですよ。その後の、我々二人だけの会話では、「ただし、闘うのは我々だという事実は誰にも変えられないからな・・」と目を輝かせるのです。

 「アタッキングサッカーは、もちろんリスキーだよ。でも、それがなければサッカーをやる楽しみを見い出せないし、チームが発展することもない・・」。まさにその通り。彼が言うアタッキングフットボールとは、オシムさんが言う、トータルフットボールを志向する「考えて走るサッカー」につながるものです。意志があれば、おのずと道が見えてくる・・のです。

 とはいってもリードル監督は、決して蛮勇をもって日本に無茶な挑戦を挑んでくるというわけではありません。そこにはもちろん明確な「戦術的ピクチャー」があります。どのように攻撃的なディフェンスを仕掛けていくのか・・ボールを奪い返したときに誰が前方のスペースへ飛び出していくのか・・そこで誰が前後のバランス(攻守のバランス)を取るのか・・などなど。もちろん詳しいところまでは話してくれなかったけれど、すべての機能イメージのリーダーは、キャプテンに委ねられているということです。

 「もちろんチカラ関係からすれば、我々が攻めるのは30パーセント以下だろうな・・そして残りの70パーセントは守ることになるだろう・・そこではカウンター的な攻撃が多くなるはずだ・・ただ、そんな表面的な現象と本当の中身は違う・・とにかく、一人の例外もなく全力で展開するディフェンスのプレー姿勢と、何人もスペースへ飛び出していく次の攻撃での勢いに注目して欲しい・・そんなオレたちのプレーからは、決して受け身のプレー姿勢なんて感じられないはずだから・・」。

 敵将の、見事なまでの、チャレンジャーとしての強烈な意志。どうですか・・、そんなスピリチュアルエネルギーに接したら、明日の勝負マッチがより楽しみになってきませんか?

 その後リードルさんは、イビツァ・オシムさんと長く話し込んでいた。イビツァさんは、オーストリアのシュトルム・グラーツでも、欧州サッカー界で(チャンピオンズリーグで)抜群の存在感を発揮したからね。オーストリアでも、とても知られた存在なのですよ。リードルさんも、「イビツァが後でコーヒーでも一緒に飲もうといってくれたから、彼が来たらそちらへ行かなければならない」と、彼との会話を楽しみにしているようでした。さもありなん。ちなみに、私はその間、フリーランスライターの西部謙司さんと、同じキャフェテリアでお茶していました。

 次の日にギリギリの勝負マッチを控えた両チームの将が、ホテルのキャフェテリアで長い時間話し込んでいる。ちょっと奇異に感じられるかもしれないけれど、原則的に二人ともサッカー大好き人間だからね、まったく問題ないのですよ。後でリードルさんからメールをもらったけれど、明日の試合はまったく話題にならず、あくまでもサッカーのことをディスカッションしたということだった。そんな、互いにレスペクトし合うプロコーチたちの触れ合い・・。いいね・・。そんなハナシを聞いても明日のゲームが楽しみになってきたでしょう!?

 アルフレッド・リードルさんだけれど、彼と深いところまで話し合うなかで、その優れたパーソナリティーを感じることができたし、それだけではなく、このコラムの冒頭で彼の言葉を紹介したように、コーチにとって決定的に重要なものは何なのかという考え方も聞くことができた。それは、先日発売された拙著「日本人はなぜシュートを打たないのか?」の内容にも相通じるものがある。彼とのディスカッションは、本当に気持ちの良いものでした。

 現役時代の彼は(オーストリアを代表するクラブ、オーストリア・ウイーンで)FWとして活躍したそうな。オーストリア代表としてもプレーしたし、ベルギー(スタンダード・リエージュ)やフランス(FCメッツ)でもブレーした。コーチとしては、オーストリアをはじめ、中東サウジアラビア、エジプトやモロッコ、またベトナムなどで仕事をしている。彼の履歴については、「彼のHP」も参照してください。

 なかなかのインテリジェンスと優れたパーソナリティーを持ちあわせた個人事業主、アルフレッド・リードル。ちょっと「J」でも見てみたくなりましたよ。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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