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2007_アジアカップ・・継続こそチカラなり・・(2007年7月19日、木曜日)

「湯浅さん、今日のトレーニングはどうでしたか・・?」

 日本代表のトレーニングが終わったとき、フリーランスジャーナリストで写真家でもある宇都宮徹壱さんから声を掛けられました。「え〜? トレーニングの内容ね〜・・」

 そのとき一瞬、まあいつものコンセプトにのっとった動きのある良いトレーニングだったよな・・でもまあ、原則的にはいつもと同じような感じだな・・なんて、不遜にも思っていた次第。でも次の瞬間には、ハッと気付いて思い直した。いやいや、そうじゃない・・そこには素晴らしい継続性があるじゃないか・・そこにこそ、オシムさんが生み出しつづけている素晴らしい価値の本質が内包されているんだ・・だから選手は明確に進歩しつづけている・・そう、そこには、考えて走りながら互いのアイデアをリンクさせ、スペースを攻略していくという方向性を明確に継続していくパワーがあるんだ・・。

 考えて走るサッカー・・。イビツァさんのコンセプトを端的に表現した言葉です。でも何のために? もちろんそれは、ある程度フリーでボールを持つ「仕掛けの起点」を演出するためです。要は、スペースをうまく活用するということ。決定的スペースで「起点」を作り出せれば、すぐにシュートにつながるだろうし、相手ディフェンスラインの眼前スペースで演出できたら、次の(組織プレーや個人勝負プレーをうまくミックスした!)最終勝負を確実に有利に運ぶことができる。

 イビツァさんのトレーニングは、常に、スペースを活用するというコンセプトに基づいているのです。相手の背後スペースをうまく使い(相手のウラを突き)、そして(積極的に)シュートを打つ。

 そのプロセスでは、まず何といっても人とボールをしっかりと動かす組織プレーがベースになるけれど、近頃の日本代表では、そこに、中盤のダイナミック・カルテットやサイドバックなどによるドリブル勝負といった個人プレーも積極的にミックスされるようになっている。組織プレーがうまく回るからこそ、ナカナカコンビとか遠藤ヤット、はたまた両サイドの加地や駒野といった個のチカラがある選手が、より積極的にドリブル勝負を仕掛けていけるようになったということです。

 人とボールがしっかり動く組織プレーが機能しているからこそ、前述したように、効果的にスペースを「突いて」いけるようになった・・だからこそ、よりフリーでボールを持った個の才能が、より効果的にその才能を表現できるようにもなった・・だからこそ、仕掛けプロセスでの「変化」も、より効果的に演出できるようなった・・等々。攻撃での、もっとも大事なコンセプトは「変化の演出」だからね。

 イビツァさんは、そんな具体的な目標イメージを達成するために、選手に対して、積極的に(主体的に)判断して決断し、勇気をもってアクションを起こしていくことを「強烈な刺激」とともに常に要求しつづけているのですよ。だからこそ「考えて・・走る・・」というわけです。

 今日のトレーニングでも、こんなシーンがあった。サイドのスペースでボールを持ったイビツァさんが、前にいる中村憲剛に、中央のスペースへ入っていくようにと指示をする・・憲剛が言われたとおり中央へ移動する・・そのとき相手ディフェンダーも、ちょっと付いてくる・・と、次の瞬間、イビツァさんが、ポンッと、タッチライン沿いのタテのスペースへパスを出してしまう・・そして、例によっての大仰なジェスチャー・・たぶんそのジェスチャーは、「どうして相手マークがついてきているのに(要はタテにスペースができたのに!)、ズバッと走る方向を変えてタテのスペースへ抜け出して行かなかったんだ!!」と言っている・・。

 そりゃ理不尽だけれど、強烈な刺激だよね。言われた通りにしか動かなかったことでイビツァさんに文句を言われた(!?)憲剛にしても、フムフムと納得顔なのですよ。なかなかイビツァトレーニングの哲学的なバックボーンがチーム全体で「本当の意味」でシェアされるようになっているじゃありませんか。

 それ以外にも、スペースを活用するためのアイデアが披露されつづけます。ある程度フリーでボールを持ったら、絶対に相手へ突っ掛けていくこと・・それによって味方は確実にフリーになれるし、ウラスペースを突ける可能性も高くなる・・また、高原直泰の足許へ、ズバッというパスを付け、次の瞬間には、その両サイドスペースを、二人目、三人目の味方が全力で「すり抜けて」いくようなスペース活用プレーもある・・もちろん、ボールがないところで(相手マークを引き連れて)動くことで、自らスペースを作り出し、そこを「自ら」使うプレーだとか(前述の中村憲剛のシーンもその一つ)、そこを味方に使わせるプレーもある・・そしてもちろん、最高のスペース活用プレーである「サイドチェンジ」も、より効果的なものへと進化しつづけている・・。

 そんな、スペース活用トレーニングを、強烈な刺激とともに実行しつづけているオシム日本代表。選手の「仕掛けイメージ」が、どんどんとハイレベルに高揚していくのも道理です。

 数日前に行われたトレーニングでの素晴らしいコンビネーションでは、こんなことを思っていた。「ホントに例外なく、三人目や四人目までがクリエイティブなムダ走りを繰り返している・・ボールを持った選手も、そんな味方の動きを正確にイメージできているから、効果的なサイドチェンジパスも含めて、見事にスペースパスを決められるようになっている・・もしこんな素早く広いコンビネーションが本番でもうまく機能したら、中東のチームはひとたまりもないだろうな・・」

 いまのオシム日本代表は、そんな次元を超えたコンビネーションが、本当の意味で発展をつづけていると思います。だからこそ、個人プレーも活きるようになっている。そして、選手たちの主体的な判断による「仕掛けの変化」がうまく機能するたびに、イビツァさんから、例によっての「ブラーボ!」というモティベーションが飛ぶ。

 ということで、オシムさんが行うトレーニングの普遍的な法則は、言うまでもなく、継続こそチカラなり・・なのです。

 蛇足だけれど、前述した原則的なアイデアを絶対的なベースに、選手が主体的に考え、そして走る(ボール絡み、ボールなしでのリスクチャレンジプレー!)ことがテーマだからこそ、オシムさんのトレーニングは「非公開」にする必要はないという視点もあります。

 もちろんオシムさんも、前述したように様々なアイデアを選手に伝授するし、戦術的な細かな指示もするけれど、原則は、それを選手が「主体的」に自分のモノにしなければならないということです。だから、コンビネーショントレーニングにしても、型にはまった「ステレオタイプ」の仕掛けになるなんてことは考えられない。そこでは常に「変化」のオンパレードなのですよ。だから次の相手チームに観られても基本的には心配ない。

 もちろんフリーキックのアイデアを確認したり、具体的なゲーム戦術プランの確認などを徹底させるときには、外野のノイズの排除という意味合いも含めて「非公開」にすることはあるんだろうけれどね・・。

 宇都宮徹壱さんからの問いかけをキッカケに、こんな長いコラムを書いてしまった。ということで、今日はこんなところです。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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