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- 2007_アジアカップ・・ハノイでのタクシー事情と、人間的な信頼関係へのチャレンジ・・(2007年7月24日、火曜日)
- どうも皆さん。今日はゲーム前日の監督会見があります。それについては、内容に応じて後からレポートするこもしれませんが、ここでは、ハノイのタクシー事情を少し紹介することにします。本当に多くのタクシードライバーが、何らかのカタチで外国人旅行者をアンフェアにあざむこうとするのですよ。
たしかにメーターはあるけれど、なかには、50メートル行くごとに、カシャン、カシャンと、ビックリするような大きな単位で数字が上がっていくような魔法のメーターがあったりする。また、メーターの数字がはじめからクルクルと回っているような、見るからに怪しいヤツもある。でもまあ一番多いのは、何といっても経路を偽る(わざと遠回りする)ようなアンフェアな行為かな。まったく〜〜。
「いったい何故そんな大回りをしてスタジアムへ行くんだ・・」
そんな怒りの言葉(英語)を何度ぶつけたことか。それに対してタクシードライバーは、ベトナム語でまくし立てる。仕方なく、そのままスタジアムへ行かせるのだけれど、普通だったら「10万ドン(約750円)」で行くはずのところを、わざと大回りすることで「15万ドン」請求したりするといった具合。
ケースバイケースだけれど、あまりにドライバーの態度がヒドかったケースでは、代金を支払わずにそのままクルマから降りてスタジアムのゲートへ向かったことがありました。それでもタクシーの運ちゃんはクルマから降りてこない。そして諦めてクルマをスタートさせ、そこを立ち去ろうとするのですよ。まあゲートには何人もの警官やガードマンが立っているからね。
とはいっても、それじゃこちらも寝覚めが悪い。すぐにとって返してタクシーを止め、身振り手振りで「そんな悪いことをしたらダメだ・・ちゃんと運転すればしっかりとチップもあげるんだから・・」と、12万ドンを渡す。そうしたら、それまで険しい顔をしていたタクシーの運ちゃんが、急に笑顔になり(まあ作り笑い)「ソリー、ソリー」なんて恥ずかしげもなく謝ったりするのですよ。その態度の豹変で、こちらはもっと気分が悪くなる。フ〜〜。
たしかに我々にとっては大した額じゃない。それでも、明らかに騙してカネをふんだくろうとするのだから、気分がいいわけありません。そんなだから、逆にフェアなドライバーに対しては、そのことだけで感謝の気持ちを込めたチップを弾みたい気持ちになったりするのですよ。
またメディア仲間の方から、こんなハナシを聞いたこともあります。
「ホントに騙されるのは気分が悪いですよね・・我々も、英語が少しできるドライバーを見つけて、専属になってもらったことがあるんですよ・・英語でコミュニケーションを取れるし、運転も上手いから大満足だったんですが、そんな彼が二日目あたりから態度が変わりはじめたんです・・そう、細かなところで我々を騙そうとしはじめたんですよ・・そのことを指摘したら、居直ってこんなことを言ったんです・・外国人にとっては1ドルなんて大した額じゃないでしょ・・そういうコトじゃないですよね・・だから結局は彼を使うのをやめにしたんです・・ホントに嫌な経験でした・・」
人はすべて同格です。カネをもっているとか社会的立場なんて関係ない。互いの、人間性を基盤にしたレスペクト(敬意)こそが全てなのです。だから私は、決して物乞いに対してカネをめぐんだり出来ません。そんなアロガントな(高慢な)態度なんて本当に信じられない。もちろんケースバイケースではありますが・・。
同格の人間関係をベースにしたいからこそ、マテリアリズムとはまったく違う次元の人間的な相互レスペクトを標榜するのです。まあ、このテーマには深〜い背景ファクターが山積みだから、ここまでにしましょう。ということで、私も毎日いやな思いを繰り返していたわけです。ところが・・。
そうです。人間的な信頼関係をもてるかもしれないという希望を感じさせてくれるタクシー運転手の方が見つかったのですよ。若いけれど、とにかく態度が素晴らしいし運転もうまい。その方との出会いは、こんな感じでした。
最初は、街中で流しのタクシーを拾って競技場まで行ってもらいました。ルートを観察していれば分かるのですが、決して彼は私をあざむこうとはしていない。メーターがクルクル回転しているわけでもないし、アンフェアにメーターの数字がアップするような気配もない。ちょっと安心してスタジアムに着いて代金を支払ったところ、何かベトナム語で話し掛けてくるのです。これは・・と思ったけれど、ハナシを聞いているうちに、そうか、彼はオレのことをスタジアムの外で待っていると言っているのか・・と気が付いたのです。
そのときは日本代表のトレーニングでした(彼らは、スタジアムに隣接するピッチでトレーニングする)。だから、待つにしても2時間以上ということになる。そんな(待機時間に対する)カネは払えない・・と断ろうとすると、その運転手の方は「ノーマネー!」と言うのです。「待つことに対してはカネはいらないから、アナタをここで待っている・・そうしたら街中までまた私のクルマに乗ってくれるでしょ・・」ってなこと言いたいらしい。
まあ、タクシーの売り上げとしては大きいんだろうね。往復で「20万ドン」だからね。ちょっと迷ったけれど、彼の表情をジッと観察し、そして決めました。「オーケー・・それじゃ待っていてください」。さて・・。
そしてトレーニング後。ちょっと不安な心理で待っていたタクシーに乗り込みました。でも、「何か」が起きることなく、最短のルートを通って(それもスムーズに)ホテルまで送り届けてくれたんですよ。素晴らしい。それに、約束だからと(たしかに、筆談で、待ち時間も入れて総額10万ドンという約束をした)、決してチップを受け取ろうとしない。それもタクティックなのでは・・なんて、うがった思いもあったけれど、とにかく彼の表情がいい。そして思った。これは彼の人間性かな・・ここはひとつ、彼のことを信頼してみよう・・。
そしてその後の彼は、わたしの専属タクシードライバーということになった次第(写真の掲載については彼の同意を得ています)。サッカー以外のことで気分が悪くなることもないし(そのことが一番大きい!)、安心して日本代表のトレーニングや試合に行けるのだから本当によかった。とはいっても、「近場の移動」では、彼を電話で呼ぶのは悪いから普通の流しのタクシーを拾います。そこでは相変わらず高い確率で嫌な思いはしていたけれどネ・・。
そのタクシードライバーの方には、一昨日から昨日に掛けての「マレーシア遠征」でも、空港まで送り迎えしてもらったのですが(空港までも遠いんだ、これが!)、私が空港へいくことを知った彼は、写真のような手書きの絵文字メモを作り、「わたしが行くから・・」と言ってくれました。もちろん「オーケー」。いまでも世話になっているし(感謝もしている!)、彼とは(通常の価値交換の関係には違いないにしても・・)何となく人間的にも近づけているのかも知れない感じています。
昨日などは、携帯電話で話していたかと思ったら、彼がその電話機を私にわたすのですよ。何かなと思って「ハロー」と言ったら、受話器の向こうで彼の友人が私に英語で説明しはじめた。「彼が、アナタを夕食に招待したいと言っているのですが・・」。「いや・・好意は本当に嬉しいのですが、今日はこれから原稿を書かなければならないので・・」と丁重に断った。もちろん携帯電話を彼にわたすとき、しっかりと彼の目を見ながら「サンキュー」と感謝した。そのあと彼は、その友人からベトナム語で説明され、ちょっと残念な表情をしていた。ホントにありがとう・・。
まあ・・ネ、「当たり前じゃないか・・そのタクシー運転手にしても、良い金づるが出来たということだけだよ・・結局はマテリアリズムを背景にした似非の人間関係ということサ・・ホントにナイーブだな・・」なんていう声も聞こえてきそうだけれど・・。
もちろん、そのメカニズムは分かっています。とはいっても私には、人間的な関係に対する「希望」は、どんな状況でも、決して諦めてはならないモノだという信念があるのですよ。
だからこそ、あくまでも「主体的」に、人間的な信頼関係を作り上げるためのチャレンジをつづけるわけです。もちろんそこでは、何度も落胆させられるわけだけれど、でも、誠実さという主体的なチャレンジのないところには、決してホンモノの信頼関係も見いだせない。それは、私の、サッカーコーチとしての基本的な態度でもあります。
サッカーコーチにとって最も重要な資質はパーソナリティー。その優れたパーソナリティーの絶対的な基盤こそが優れた人間性(徳!?)・・なのです。そして、そんな基盤があるからこそ、選手の「人間的な弱さ」とも、とことん闘えるというわけです。
もちろん私にも、ちょっと思い上がった部分(高すぎるプライド!?)があることは百も承知。だからこそ、主体的な信頼関係構築のプロセスは、自分の内面に対するチャレンジでもあるのです。
松木とか都並、ジョージやラモス、川勝、小見や森、ジョルジョンやエジソンなどなど、読売サッカークラブの一時代を為した強者たちも、わたしのそんな言葉を聞いて、「ウフフッ・・エヘヘッ・・」なんて、妙に納得したりして・・。あははっ。
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しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
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