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2007_アジアカップ・・なかなか見所の多いオープニングマッチでした・・(タイ対イラク、1-1)・・(2007年7月7日、土曜日)

「信じられない勢いの豪雨だよ・・これじゃゲームはキャンセルだよな・・そうしたら明日ダブルヘッダーってことになるのかな・・」。メディアセンターの受付に陣取るAFC(アジアフットボール連盟)マネージャーと軽口を叩いていました。とにかくものすごい強雨。まさに、天空の神様がバケツをひっくり返した・・ってな具合でした。

 タクシーでスタジアムへ向かいながら、「オレ・・傘もってないゼ・・一体どうなってしまうんだろう・・」なんて、柄にもなく弱音がちらついていました(ホテルを出発した直後に降りはじめたのです!)。何せ、スタジアムパークの入り口からプレスセンターまで10分は歩かなければならないのですからね。この豪雨では、一体どうなることやら。だから、二つある検問所で交渉し、結局、屋根のあるメディアセンター受付の真ん前までタクシーで乗り付けた次第。検問所にの皆さん、タクシーの運転手さん、どうもありがとうございました。

 このスコールの様子ですが、一枚だけ掲載します。私よりも先に到着していた宇都宮徹壱さんからいただいた写真。この「?宇都宮徹壱フォト」で、何となく雰囲気だけは伝わるでしょ?

 さて、タイ対イラク。1980年代までのタイは、日本もタジタジというアジアの強豪でした。そのことを象徴していたのが、1984年ロス五輪の最終予選で、日本が「2-5」という大敗を喫した勝負マッチ。エースは、ピヤポン。堂々たる体躯。素晴らしいスピードとテクニック。まさにタイの巨星でした。その彼に、井原正巳、岡田武史、加藤久、都並や松木といった日本サッカーを代表する面々が深いトラウマを与えられた!?

 とにかく、タイは高い潜在力を秘めているということが言いたかったわけです。それにこの試合は、ホストカントリーがオープニングマッチに臨むのですよ。いやが上にも盛り上がろうというものじゃありませんか。

 対するイラク。自国の厳しい状況に希望の光を(もちろん自分自身のためにも!)・・と、彼らが高いモティベーションで大会に臨んでくることは自明の理。試合開始前は、期待が高まりつづけたものです。そして実際に、ゲームの流れなど、なかなか興味深いコンテンツを発見しました。

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 試合は、イラクがゲームを掌握する流れで立ち上がりました。もちろんそのベースは素晴らしい守備にあります。素早く、激しく、そして適度にダーティーなディフェンス。とにかく、次、その次と、素早くボールへ寄せて激しいアタックを仕掛けるのです。立ち上がりの時間帯、タイ代表は、擬似の心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまった!?

 そんな流れのなかで、イラクが二つの決定機を作り出してしまうのです。右サイドゾーンでの「18番」の鋭いドリブル突破からのクロスボールを、中央で待ち構えていた(確か)6番がオーバーヘッドで爆発シュートを見舞う。またその1分後には、タテパス一本で抜け出したイラク選手が、タイのディフェンダーよりも半歩早くボールに触ってシュートを放つ。この二つの決定的シュートは、タイGKが鋭く反応して弾きました。まあ、奇跡的なセービングといったところ。

 そんな流れだったから、「こりゃ、地元のタイにとっては厳しい試合になるな・・攻めでも(味方がビビッて上がってこないことで)サポートの人数が足りていない・・これじゃ、すぐにイラクにボールを奪い返されてしまうのも道理・・これって典型的な悪魔のサイクルじゃないか・・ホントに、そんなに大きな実力の差があるんだろうか・・」なんて思っていたわけです。

 でも、その次の瞬間には、素晴らしいロビングパスが、イラク最終ラインのウラに広がる決定的スペースへ出され、それに反応してフリーで抜け出したタイのフォーワードが、遅れてチェックに来たイラクのディフェンダーに後ろから押されて(完全に後ろから突き飛ばしていた)倒されてしまうのですよ。PK!! 正しい判定でした。それをキッチリと決めるタイの17番。

 その先制ゴール以降は、イラクの拙攻ばかりが目立つようになっていきます。先制ゴールで余裕のできたタイ守備ブロックが、イラクの攻めを完全に掌握してしまうのですよ。立ち上がりの流れからは考えられないゲーム内容の変化でした。

 それは、イラクの攻めが「個人勝負」に偏りすぎているからです。まあこれは、(イランを除いた)中東各国に見られる傾向ですよね。要は、一人ひとりが、オレが相手をドリブルで抜いて数的に優位な状況を演出してやる!と、ボールを持ちすぎるということです。それでは周りが動かなくなるのも道理。パスレシーブの動きは、完全に相手ディフェンスブロックのウラを突いて決定的スペースへ抜け出せるようなケースでしか見られないからね。彼らの攻めでは「クリエイティブなムダ走り」が少なすぎる・・というか、そんな発想は、ハナから持ち合わせていないということなのかもね。

 これでは、相手の背後のスペースを攻略するための組織プレーが十分に機能するはずがない。もちろん単発の「ワンツー」は、たまには出てくるけれど・・。というわけで、タイの守備ブロックも、イラクの攻めの傾向を把握し、正確に対処できるようになったというわけです。そしてイラクの攻めから危険なニオイが霧散していく・・。

 でも、そこは強豪のイラク。セットプレーから何とか同点に追いつきました。その同点ゴールは、完全にタイGKのミスが原因でした。イラクのフリーキックが蹴られた瞬間にゴールマウスを飛び出したタイGK。でも、イラク選手がヘディングしたときには、そのスポットとゴールとの中間地点にも達していなかった。そして自分の頭上を越えていくボールを力なく見送るのです。そりゃないだろう・・。まあ、ゲーム立ち上がりにイラクが作り出した絶対的なゴールチャンスを二度もセーブしたから、プラスマイナスゼロといったところですかね。そんな流れが前半でした。

 そして興味深い後半がスタートします。最初は、前半最後の時間帯のような互角の展開から立ち上がりました。それでも、徐々にタイの勢いが高揚しつづけていく。彼らのサッカーは、まさに東南アジアサッカーのオーソドックスそのものです。素早くはありませんが、しっかりと人とボールを動かして攻め上がります。ダイレクトパスを入れた素早いコンビネーションはほとんど出てこないけれど、ボールの動きのなかに、適当に「個人の勝負プレー」をミックスするなど、東南アジア独特の組織プレーのリズムで攻め上がるのです。ちょっと、今日はアタマが回転しなくなっているから、これよりも良い表現が思いつかない。悪しからず・・。

 そしてタイ代表が、そんなゲームフローの逆流に乗って主導権を完全に掌握していくのですよ。私は、そのプロセスの背景に、タイ代表が自信を深めて積極的に(人数をかけて)攻め上がるようになったという側面と、急激にイラクチームの「フォーム」が減退して走れなくなっていったという要因があったと思っています。

 まあ、ゲームの流れが変化した背景としては、やはりイラクの(守備の)勢いの減退の方が大きかったですかね。(走れなくなった)彼らのチェイス&チェックや協力プレスの勢いが大幅に減退したことで、タイ代表が、より楽に、そして効果的にボールをキープできるようになったからね。そしてそのことが彼らの自信レベルを押し上げ、攻撃にも人数をかけられるようになっていった・・ってな具合。

 それでも、さすがにイラク。攻め込まれてはいるけれど、最後の瞬間には、しっかりとタイが仕掛ける最終勝負を止めてしまうのですよ。もちろん「様々な手」を尽くしてネ。それだけは、サスガだなと感嘆しきりの湯浅でした。人の死を間近に体感しながら生活している者たちのギリギリの闘う意志・・!?

 ところで、イラクの勢いが減退した背景要因だけれど、それは、疑いもなく、気候的なファクターだったよね。気温は28度だったけれど、とにかく湿度が高い。それが原因で、イラク選手の運動量が目に見えて減退していったと思うのですよ。チェイス&チェックにまったく勢いが乗らなくなり、周りの選手も、タイ選手の動きを目で追うばかりになってしまっていた。これではタイにペースを握られるてしまうのも道理です。

 最後に、彼らのキーになる選手を何人か列挙しておきましょう。まずイラク。彼らのなかでは何といっても6番と5番が目立っていた。6番は(中盤上がり目センターの)チャンスメイカーだけれど、よく走るし、ドリブルもスピーディーで上手い。またシュートも強烈。とはいっても、組織プレーのイメージリーダーというわけじゃなく、やはりドリブルを駆使した突撃隊長ってな趣(おもむき)ですけれどね。

 またワントップの10番も、身体の大きさやスピード、テクニックにも素晴らしい能力があると感じました。あっと・・5番だけれど、最初はボランチとして登場し、ボール奪取に威力を発揮するだけじゃなく、前方へ正確で効果的なボールを配球するゲームメイカーとしても抜群の存在感を発揮していました。後半の最後の時間帯では、6番の代わりにチャンスメイカーとしてもプレーし、そこでもなかなかの存在感を魅せていた。日本が当たるときには要注意だね。後は、両サイドハーフの11番と18番も、ドリブラーとしての能力は素晴らしいですよ。

 対するタイ代表。彼らのなかでは、二列目トリオとして機能していた10番(左サイド)7番(センター)9番(右サイド)が良かった。特に10番は、何度も、左サイドから決定的な仕掛けをリードしていました。もちろん彼らの攻めのリズムにおいてというニュアンスでの「リード」ですけれどね。

 もう一人。後半の残り20分くらいで登場した14番にも注目しましょう。ものすごくボール扱いが上手い選手。エレガントでスピードもありそう。登場したとき、スタジアムが拍手でつつまれたから、たぶん誰もが注目するスターなんだろうね。たしかに、彼のボール扱いを見ていたら、スター要素バッチリでした。でも、組織プレーにとっては、邪魔なプレーも多い。要は、天賦の才という「諸刃の剣」だって〜ことだね。どんなチームにも、そんな、扱いの難しい選手はいるものだね。彼が、攻守にわたって、ボールがないところでもしっかり走りゃ、本物のスーパースターになるのにね・・。

 それは監督のウデの見せ所。才能がチームに参加してきたら、それは監督にとっての大いなるチャレンジ機会なのだ・・ってなことです。

 もう二時をまわってしまった。疲れ気味で、アタマも回転しなくなったから、今日はこのあたりで止めにします。明日はオーストラリア対オマーンをバンコクで観戦し、明後日の朝、ハノイへ移動。日本の初戦(対カタール戦)に間に合えば良いんだけれど・・。

 とにかく、そんなリスクを冒してでも、絶対にこの二試合は見ておかなければいけないと思っているのですよ。何せ、Aグループの4チームとは(もちろんそのなかの1チームとという意味だけれど)、日本が決勝トーナメントへ勝ち残ったら、その準々決勝で対戦することになるんだからね。それでは、オヤスミナサイ。
 




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