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2007_CWC・・やはりそこには、厳然たる「世界トップとの僅差」があった・・(ACミラン対レッズ、1-0)・・(2007年12月13日、木曜日)

まあ・・ね、純粋に勝負という視点では、前半の鈴木啓太のフリーシュート、後半に入ってからの阿部のミドルシュートやワシントンの持ち込みシュート、交代出場した山田暢久のシュート、細貝からワシントンへの決定的クロスなど(途中でミラン選手にクリアされてしまった!)、得点チャンスは何度か作り出したわけだから、たしかに残念な結果だと言える。でも実質的なサッカー内容としては、やはり「世界トップとの僅差」を明確に体感させられてしまった・・というのが本当のところだろうね。

 人とボールを動かす組織的なサッカーという視点では、確実にレッズの「発想」の方が高質だった。でもミランには、実績のあるイタリアサッカーという巨大なバックボーンがあるからね。まあ、レッズが志向する「組織サッカー」が「イタリア的なバランスサッカー」に呑み込まれてしまった・・ということかもしれない。

 とにかくミランには、局面プレーの(個人プレーの)質で一日以上の長があった。素早く巧みなトラップ・・二軸動作ベースでのボールキープと仕掛けパス・・迫力満点のココゾの勝負ドリブル・・などなど。また守備でも、効果的なチェイス&チェック(追い込み)から、複数の選手のイメージが有機的に連鎖しつづける素晴らしいボール奪取勝負が展開されていた。

 局面勝負で勝るシーンを積み重ねることで、全体的なゲームの流れを支配するミランという構図!? 決して、流れるような(人とボールが動きつづける)組織プレーを基盤にしたゲーム支配ではないけれど、イタリア的な年輪(!?)を感じさせるゲーム支配ではありました。

 さて、ここからは、なるべく簡単に、ACミランのサッカーを描写していくことにしましょう。

 まず、彼らの最大の特長である勝負強さから入っていくことにします。しっかりとオーガナイズされた守備ブロックをベースに、「ハチの一刺し攻撃」を仕掛けて値千金のゴールを奪い、後は重厚に守り切る・・。要は、そんなゲーム運びイメージで選手全員のマインドが統一されているからこその勝負強さだということです。

 ハチの一刺し攻撃だけれど、カウンターやセットプレーだけではなく、彼らの場合、組み立て(遅攻)でも、「ハチの一刺し」と呼べる仕掛けイメージで統一されているところがスゴイ。わたしは、その統一された仕掛けイメージについて、「ポゼッションからの爆発」なんていう表現を使いたいね。

 ミランは、フォーバックの前に、ピルロ、アンブロジーニ、ガットゥーゾで構成する「中盤の底」トリオが陣取り、その前に、ワントップのジラルディーノを使って最終勝負をマネージする二列目コンビ、カカーとセードルフがいるという基本的なポジショニングバランス(あまり使いたくないけれど、4-3-2-1というクリスマスツリー布陣)でゲームに臨んでいく。彼らは、そのポジショニングバランスをなるべく崩さずに、アンチェロッティー監督の表現である「一番良い瞬間」を待つのですよ。フムフム。

 そのやり方は、本当に首尾一貫している。最終勝負のチャンスを「待っている」状況では、なるべくポジションを変えずに(まあ、二列目のカカーとセードルフは頻繁に入れ替わっているけれど)しっかりとパスを回してボールをキープしつづけます。要は、前述した、個人能力に支えられた素晴らしい局面プレーで足許パスをつなぎながら(ボールをキープしながら)チームを全体的に押し上げていくのですよ。まさに我慢強いボールポゼッション。そして、チャンスを見計らった最後の瞬間に「爆発」する。

 足許パスを積み重ねるなかで、チャンスとなった次の瞬間に、決定的スペースへ向けた一発ロングパスを送り込んだり、瞬間的にトップスピードに乗るような超加速コンビネーションで決定的スペースを突いていったり。

 例えば前半17分。ミランの左サイドバック、ヤンクロフスキーの「ココゾ!」のオーバーラップに、一瞬、細貝のマークが遅れ、その状況で、ヤンクロフスキーが走り込むタテのスペースへ正確な超ロングパスが通されたシーン。細貝は、身体一つ遅れている。そして最後は、ヤンクロフスキーがヘディングでボールを折り返してしまうのです。味方のカバーリングでクリアされたから事なきを得たけれど、それは、細貝の、決定的なスペースを突かれたマークミスでした。

 世界のミランが相手だからネ。彼らは、針の穴を通すようなチャンスを辛抱強く狙っているのですよ。それは、レッズ選手たちの「体感レベル」を超越するチャンスメイクイメージということなんだろうね。だからこそマークミスを犯してしまうし、その小さなマークミスが大きな失点につながってしまうということです。

 また後半10分には、ヤンクロフスキーから、ピタリのタイミングで決定的スペースに抜け出したセードルフへの浮き球パスが通されるという決定的ピンチもあった。この最終勝負に対する「あうんの呼吸」こそがミランの真骨頂。その「爆発」シーンでは、セードルフのフリーシュートがサイドネットに外れたから事なきを得たけれど・・。

 やはりミランの「最良のときを待つポゼッションからの爆発」はレベルを超えていると感じました。もちろん、あれ程の才能に恵まれた選手を抱えているのだから、人とボールを動かす(縦横無尽のポジションチェンジが繰り返されるような)ダイナミックな組織サッカーをやらせたら、それでも世界トップに君臨できるはずなのに・・という思いはありますよ。そう、バルサやレアルのようにね。でもまあ、それがイタリアだし、それによって世界サッカー地図がカラフルに色分けされるわけだから・・。もちろん、世界サッカーの潮流は、ある一定の方向へ進んでいるのは確かな事実だけれどネ・・。

 ということでアンチェロッティー監督に質問してみることにしました。

 「いま監督は、一番良い瞬間を待つというキーワード的な表現をされました・・チーム全体が一つのユニットになって動くミランのサッカー・・そこではポジションチェンジなどはほとんど行われません・・ただ、ポゼッションをつづけるなかで、(ココゾという)最後の瞬間に、ズバッと(テンポアップして)爆発することで危険な最終勝負を繰り出していく・・私は、ミランのサッカーをそのようにイメージしているのですが、それについて監督はどのように思われますか(そのイメージ表現にアグリーですか)?」

 それに対してアンチェロッティー監督は、こんなニュアンスのことを言っていた。我々はボールをキープしながら一番良い瞬間を待っている・・我々の能力をベストに発揮できる瞬間を待っているのだ・・大事なことは、しっかりとしたリズムを保持し、我々のクオリティーが最高に発揮される瞬間(状況)を待つこと、そしてそこに至るまで集中を切らさないことだ・・などなど。フムフム。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。NHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました(その記事は「こちら」)。またサボティスタ情報ですが、最近、「こんな」元気の出る書評がインターネットメディアに載りました。

 




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