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2007_ヨーロッパの日本人・・中村俊輔、高原直泰、稲本潤一・・(2007年10月23日、火曜日)

まず中村俊輔から。レンジャーズとの「グラスゴー・スーパーダービー」だったけれど、後半13分に、マクギーディーと交代ということになってしまった。まあ、全体的なプレー内容からすれば仕方なかったという評価が妥当ですかね。

 中村俊輔がセルティックへ移籍して最初の「グラスゴー・ダービー」でもそうだったけれど、この試合でも中村俊輔は、両チームの「プライドベースの強烈な意志の激突」という激しいゲームの流れにうまく乗れず、攻守両面で効果的なプレーを展開できずにいました。彼は、特別な期待を背負ってプレーせざるを得ない存在だからね。

 中村俊輔には、ゴツゴツした肉弾戦というフィジカルなゲームの流れを、スマートな組織プレーへと上手くリードしていくことに対する期待も掛けられているということです。にもかかわらず、このゲームでの中村俊輔は、そのミッション(使命)を、うまく果たすことができなかった。

 両チームは、中盤での激しい(ディフェンスの)肉弾戦をベースに、組み立てプロセスを省いた強引な仕掛けを繰り出しつづける。もちろん中村俊輔も、ディフェンスの肉弾戦に参加してはいくけれど、どうも効果的にボール奪取シーンに絡んでいけない。そんなこともあって、次の攻撃での組織的な組み立てをうまくリードできない中村俊輔なのですよ。

 そして、レンジャーズの激しいプレッシングに、どちらかといったら「逃げニュアンス」の方が強い横パスを出してしまったりする。もちろん彼は展開(≒仕掛けゾーンの移動と、そこからの新たなコンビネーションの流れの演出など)をイメージしていたんだろうけれど、パスを受けた味方は、突破ドリブルを仕掛けたり勝負のタテパスを送り込むなど、脇目も振らずにレンジャーズゴールへ一直線に向かっていってしまうのです。

 もちろん展開パスを出した中村俊輔は、(組織的な人とボールの動きをイメージして!)すぐに動いて次のスペースへ入り込んではいくけれど、いかんせん、パスを受けた味方の視線と意識は、一直線にレンジャーズゴールへ(最終勝負へ)向かっているのだからどうしようもない・・という次第。彼らのプレーからは、(俊輔がイメージしているように)もう一度ボールを動かすことで相手守備ブロックを振り回し、それをベースに決定的スペースを突いていく可能性を拡大させるなんていう余裕はありませんでした。

 そんな「激しい」流れをコントロールできなかったことで、中村俊輔も攻守にわたって空回りしつづけることになってしまったという次第。要は、レンジャーズの激しいディフェンスを、うまく「いなす」ことが出来なかったということだろうね。人とボールを(シンプルに)素早く広く動かせば、いつもの実効ある仕掛けのリズムを取り戻すことが出来たのに・・。まあ、そのリーダーたるべき中村俊輔がうまく機能できていなかったのだから仕方ない。

 私は、中村俊輔はもっと声を張り上げて仲間をリードしなければならなかったと思っています。「つなげ〜!!」とか「もどせ〜!!」とかネ。そろそろ、イニシアチブを掌握してもよい頃なのではないだろうか? そんな声が出るようになれば、(仲間を叱咤するのだから!)自分自身にとっても、闘う意志を高揚させるための最高のモティベーションになるだろうしね。まさに、セルフモティベーションといったところ。

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 さて次は「ドイツ組」。古豪アントラハト・フランクフルトで先発を張りつづける高原直泰と稲本潤一です。

 高原直泰については、相変わらずパフォーマンスが高みで安定した良いプレーをしているという評価がスタートラインだね。攻撃においても、最前線からのディフェンス絡みにしても。

 特に、ボールがないところでのプレー(その量と質)が充実していると感じる。要は、スペースを活用するためのボールがないところでの動きに「強い意志」が感じられるということです。だから、パスを受けても(ボールを持っても)、攻撃の起点として自信にあふれたプレーが展開される。自信のオーラが放散される・・。

 単純なミスを犯すことなく、しっかりとボールをキープすることで、仲間の次の仕掛けオプションを広げたり(クリエイティブなポストプレー)、自ら勝負ドリブル&シュートにチャレンジしたり、タメからの勝負パスを送り込んだり。もちろん、自ら決定的スペースへ飛び込んで「組織プレーベースのゴール」を狙ったりする。この試合でフランクフルトが挙げた唯一のゴールは、本当に素晴らしいピンポイント最終勝負でした。

 これまで何度も繰り返してきたように、たしかに「個のチカラ」では限界がある高原だけれど、これほど高い頻度で、自分の限界値を「極めた」プレーを展開している選手は希だと思いますよ。それも、攻守にわたる積極的な組織プレーを絶対的なベース(イメージベース)にしているからこそのパフォーマンス。だからこそ「個のチカラ」も限界まで活かすことが出来る。その意味では、高原は、「組織と個のバランス」を極めつつあると言えるかもしれないね。もちろん、まだまだ発展しなければならないし、その余地も十分にあるから、決して満足してはいけないけれど・・。

 さて稲本潤一。どうも、クラーゲンフルトでの「静的なプレー」の印象が、そのまま投影されていると感じる。それは「フジ739」がフランクフルト戦を生中継しはじめた最初のゲームでも感じたことでした(たしかカールスルーエ戦・・この試合を境に、高原と稲本がケガの治療に入ってしまった!)。要は、無為な様子見(カカトを付けて歩くような状態)が目立ち過ぎるということです。

 それでも、狙いが定まれば、それはそれで大迫力のボール奪取勝負を展開する。1対1の競り合いにも強い(あの身体能力と競り合いテクニックは確かにインターナショナルレベル!)。また、最前線まで飛び出してボール奪取勝負を仕掛けるような積極的なディフェンス姿勢も魅せる。でも・・。

 難しいね・・。要は、彼に対する期待値が高いということなのですよ。彼だったらもっと出来る・・っていう確信があるからね。だから、殊の外、稲本潤一の「様子見」に対する不満がつのるというわけです。もちろん「それ」は、チーム戦術的なイメージに則ったプレーなのかもしれないけれどネ・・。

 素晴らしい迫力で相手からボールを奪い返してタメを作り、相手を引きつけてから、チョンという「ワン」の展開パスを出す。そんな稲本のプレーに、「素晴らしいコンビネーションのスタートだ!」なんて鳥肌を立てたのに、当の稲本は、そこで足を止めて様子見に入ってしまう。「後は任せたよ・・」ってな雰囲気。パス&ムーブで前のスペースへ飛び出せば、確実に稲本が、次の仕掛けコンビネーションのコアとして機能できる状況なのに・・。

 また、自分がボールを奪い返すというイメージが強すぎるのか、どうも、守備の起点になるような(仲間にボールを奪い返させることをイメージした=ディフェンスの起点を演出する)チェイス&チェックへの姿勢が弱いとも感じる。それと、ボールがないところで動く相手を忠実にマークすることに一生懸命ではない部分もあるし(要は様子見になって足を止めてしまうという現象)、最終勝負場面でも、相手のシュートを阻止するとか、危急アクションの(最終勝負におけるイメージ描写の)量と質が十分ではないと感じる。要は、汗かきプレーに対する意志のレベルが、そんなに高いわけではないということです。

 そんな「小さなこと」を、繰り返し目撃することで、こちらは(まさに現場的とも言えそうな)不満を鬱積(うっせき)させるのですよ。もちろん、たまに魅せる爆発ディフェンスによってズバッとボールを奪い返したり、相手のボールを追いかけ回すことで味方のディフェンスの可能性を広げたりするダイナミックな汗かきプレーは、そんな私の鬱積した不満を少しは解消してくれるけれどネ。

 とにかく私は、稲本はもっと出来る・・いや、もっと「やらなければ」ならないと思うのですよ。観ている限り、フランクフルトの中盤ディフェンスについては、チーム戦術的な自由度はかなり高いと思うしね。要は、仕事を探してアクションを起こしつづける者が、中盤のリーダーになりスターになるということです。稲本には、その可能性をギリギリまで追求してもらいたいと思うのです。

 今の総合的なプレーコンテンツでは、ボールを奪い返すための「組織的なプレーの有機連鎖」にしても、次の攻撃での「組織プレーへの貢献コンテンツ」にしても、中村憲剛の方がワンランク上でしょう。まあ、身体的な(競り合い能力的な)部分とか、ボール奪取テクニック的な部分では稲本潤一の方が優っているだろうけれど・・。

 もちろん中盤ディフェンスでの、クリエイティブな(創造性と想像性にあふれる)汗かきリーダーとも表現できそうな鈴木啓太は、決して外すことの出来ない存在だけれどね。まあ、もう何度も書いているように、私は、鈴木啓太を(その忠実で実効ある組織プレーパフォーマンスを)代替できるとしたら、それは今野泰幸しかいないと思っているのですよ。とにかく、鈴木啓太(そのパフォーマンス・タイプ)が機能しているからこそ、中村憲剛や稲本潤一といった「守備ベースのリンクマン・タイプ」の機能性も最大限に発揮されるというわけです。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。

 基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)ビジネスマンの方々をターゲットにした、本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というコンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。
 




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