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2007_ヨーロッパの日本人・・松井大輔と中村俊輔・・日本の「個の才能」の発想は組織ベース?・・(2007年10月31日、水曜日)

やっと時間ができたので、数日前(今節)の松井大輔(トゥールーズ戦)と中村俊輔(マザーウェル戦)のプレーぶりについても簡単にレポートすることにしました。

 まず松井大輔から。前節のレンヌ戦、レポートしようとは思っていたのですが、ちょっと内容が低級に過ぎたこともあって、ゲームを観ているうちに(自分のメモとしても)書きつづるモティベーションを喪失してしまうという体たらくでした。

 松井大輔については、日本代表のオーストリア遠征(スイス戦)で魅せたプレー内容が、私にとってのベーシックな評価基準ということになります。あの試合での松井は、攻守にわたる組織プレーで「躍動」しつづけていた。私にとってその試合は、それまでの松井大輔に対する「ネガティブなイメージ」が大きく払拭されるイメチェンゲームになったのですよ。

 ということで大いなる期待をもって観戦した前節レンヌ戦だったけれど、そこでのパフォーマンスは、レポートするモティベーションが地に落ちるのも当たり前という、まさに「以前のイメージへ逆戻り」というプレー内容だった。そんな背景があったものだから、今節のトゥールーズ戦には注目していたというわけです。前節のパフォーマンスについて、ル・マン監督さんからも、守備がなってない・・など、かなり手厳しい批評を投げられたとも聞くしね。

 ということで、トゥールーズ戦。たしかに前節レンヌ戦と比べたら、攻守にわたり、積極的に仕事を探そうという主体的なポジティブ姿勢は見えていた。とはいっても、まだまだ組織プレーの内容は「基準」を凌駕するには至っていない。守備でも攻撃でも、局面ではまあまあの勝負プレーは魅せるけれど、組織プレーがうまく機能していないという視点も含めた全体的なパフォーマンスでは、まだネガティブな印象の方が強いのですよ。

 その原因は、これまで何度も書いたように、ル・マンに浸透しているプレーイメージにあると思います。要は、あまりにも「個のプレー」が前面に押し出され過ぎるということです(まあ、基本的なプレーゾーンに関しては臨機応変にチェンジするようになってきたとは思うけれど・・)。

 とにかく全体的に、ボールを持ったときに時間を掛けすぎるのです。特に、チャンスメイカーのロマリッチは明らかに持ち過ぎ。そんなんじゃ、彼の周りの仲間によるボールがないところでの勝負の動き(≒勝負イメージの描写プロセス)を阻害してしまうばかりじゃネ〜か。

 ある程度フリーでボールを持つ選手が出来る。要は、攻撃の起点になる選手のことですが、ル・マンの場合は、そこから仕掛けていく際のオプションが少な過ぎるのですよ。パスを受けた者は、例外なく、まず自分が「一人で何か出来ないか・・」と、個人勝負の可能性を探ります。だから、次のプレーが遅くなってしまう。もちろん、後方からタテのスペースへ飛び出していく味方がいれば、そこへパスが出ることもあるけれど、それにしても、自分のチャンスがなくなった場合に限られるよね。

 そんなだから、ル・マンの場合、ボールがないところでの動きが、二重、三重に絡み合うなんていうコンビネーション(複数の選手が絡んだ、ボールなしの動きとボールの動きが複合的にリンクするような素早く広いコンビネーション)は本当に希。彼らの仕掛けでは、例えば「こんな」組織プレーはめったに見られないのですよ。

 ボールを持った選手がドリブル突破と見せ掛ける・・次の瞬間「ワン」のパスが出され、その選手は、間髪を入れずにパス&ムーブでタテのスペースへ抜け出していく・・同時に(ワンのパスが出される直前のタイミングで)三人目の味方も、別のタテスペースへフリーランニング(パスを受けるボールなしの動き)を仕掛ける・・そんな状況で、ワンのパスを受けた選手は、ダイレクトで、その三人目へパスを出し、すかさず自分は、次のリターンパスを狙ってパス&ムーブで次のスペースへ飛び出していく・・そんなコンビネーションに、一番最初に「ワンのパス」を出した味方も絡みつづける・・などなど。

 そのように「個のプレー偏重」のル・マンだから、松井大輔は苦労している。もちろん彼も、よいカタチでパスを受ければ、積極的にドリブル勝負を仕掛けていくけれど(何度か、ドリブル勝負から効果的なクロスを上げていた!)、それだけではなく、松井は、組織的なコンビネーションプレーの流れも演出しようとしていた。

 何度も、前述の例で示したようなコンビネーションを「自分がコアになってスタートさせよう」としたり、自ら大きく動き回り、コンビネーションのキッカケになるタテパスを「呼び込もう」と奮闘しつづける松井大輔。でも周りのチームメイトたちが、その流れに乗ってくることは希でした。そして結局は、松井も局面ドリブル勝負を積み重ねるような矮小なプレーに陥ってしまうというわけです。

 フムフム・・難しいね。私は、そんなチームのプレーイメージのなかで、とにかく松井大輔には、組織コンビネーションをリードすることにチャレンジしつづけて欲しいと願っていますよ。彼が中心になってコンビネーションの流れを演出する。でもちょっと難しいかな・・。

 オーストリア(クラーゲンフルト)でのスイス戦では、まさに「活き活き」と組織プレーにも精進していた。最前線からのチェイス&チェック(積極的な守備参加)を忠実に実行したり・・全力ダッシュでタテのスペースや中盤スペースへ入り込んだり(リスキーパスを呼び込むボールなしの動き)・・。トレーニングでのオシム監督とのコミュニケーションを通して、スムーズに、日本代表のプレーイメージに入っていった松井大輔。センス(インテリジェンスと学習能力)を感じます。

 そんな攻守にわたる組織プレーがあったからこそ、良いカタチでパスを受けてからの「ここぞのドリブル勝負」も効果を発揮したのです。でも、個の勝負ばかりのル・マンでは・・。

 やはり松井は、組織プレー(コンビネーション)をチームに浸透させることにチャレンジするしかないでしょう。それを「目標イメージ」にすればいいんですよ。動き回り、シンプルなタイミングでボールを動かす「支点」になることで、自身は、良いカタチでパスを受けて、有利なドリブル勝負を仕掛けていく・・。そんな、組織プレーと個人プレーが 高い次元でバランスしたプレーを積み重ね、それに「結果」が伴ってくれば、かならずチームの「イメージ傾向」にも変化が出てくるはず。

 そんな目標イメージがあれば、松井自身のやり甲斐(セルフモティベーションレベル)は何倍にも増幅するでしょう。やっぱり意志ですよ。意志さえあれば、おのずと道が見えてくる・・のです。

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 さて中村俊輔。レンジャーズとのダービーマッチで、試合の流れに乗り切れずに交代させられ、その後のチャンピオンズリーグ(ベンフィカ戦)でもベンチを温めることになってしまった。さて・・

 この試合(マザーウェル戦)では、気合いが入っていた。とにかく、ボールがないところでの動きが大きく、鋭い(意図と意志の現出としての全力ダッシュ!)。また守備への「戻り」でも、たまには守備的ハーフかと見まがうような全力マーキングまで魅せていたし、安易なタックルを仕掛けるのではなく(アリバイ守備ではなく!)、しっかりとした責任感と勇気に支えられたウェイティング(相手に簡単に抜かれないようにキッチリと構え、粘り強くチェックをつづける守備プレー)で対処する。

 そんな「忠実プレー」をつづけていたからこそ、徐々に、彼が中心になった組織プレーの流れも出来てくるのです。そう・・、中村俊輔は、自分がイメージする組織プレーの流れを、自らが演出しなければならない立場にいるのですよ。

 左サイドに張り付くのではなく、どんどんと中央ゾーンや左サイドゾーンへ移動し、シンプルで鋭いタテパスでマクギーディーを走らせたり、自らドリブル突破にチャレンジしたり、サイドチェンジパスを決めたり。前半22分には、この試合で最初の、美しく危険なコンビネーションを演出した(後方からワンツーで抜け出し、リターンパスを受けてタメを演出し、そこから、タテの決定的スペースへ抜け出したハートリーへ素晴らしいスルーパスを決めた!)。

 そして「そこ」から、思い出したように、セルティックの攻めに「組織マインド」がよみがえってくるのですよ。ゴリ押しの個人勝負で突っ掛けていくのではなく、シンプルにパスをつなぐことで、人とボールをしっかりと動かす。そんな展開イメージの中心に中村俊輔がいた(俊輔のプレーイメージを仲間がシェアしはじめた)ことは言うまでもありません。
 そして、組織プレーが機能しはじめたからこそ、マクギーディーに代表される「個の勝負能力」もより一層活かされるようになったというわけです。ル・マンの「天才」ロマリッチには、俊輔の爪の垢を煎じて飲んでもらいましょうか・・あははっ。

 最後に、皮肉な「現象」について一言。それは、日本を代表する「個の才能」である松井大輔と中村俊輔が、所属するクラブでは、チームの「組織プレーマインド」の牽引役になっているということです。まあ、松井大輔については「牽引役になるべき・・」というニュアンスだけれどね。要は、日本的な個の才能は、(社会文化的にも!?)プレー発想的に組織ベースだということ(組織と個の発想が、うまくバランスしているということ)なのかな。さて・・

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、『サッカーを語り合うための基盤整備・・』。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。

 




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