トピックス
- 2007_ヨーロッパの日本人・・中村俊輔のプレーコンテンツを、ちょっと深掘りしてみようか・・(2007年3月31日、土曜日)
- すごいフリーキックだったね、中村俊輔。何気なく蹴られたボールが、見事にゴール右隅に決まった。今日おこなわれた、ダンディーユナイテッドとのアウェーゲーム。とにかく見惚れてしまった。
その瞬間、スタジアムが静まりかえった。もちろんそれは、ダンディーユナイテッドのホームスタジアムだったこともあるけれど、私には、(観客にとって)中村のキックが、失点を喰らったことがにわかに信じ難い程さりげなかったからということもあったように感じました。まさに天賦の才という目の覚めるようなフリーキックだった。
その中村俊輔。この試合でも、豊富な運動量をベースに、攻守にわたって高みで安定したパフォーマンスを魅せてくれました。ということで、このコラムでは、オシム日本代表での中村というニュアンスも含めた彼のパフォーマンスを、ちょっと掘り下げてみることにしました。
そのポイントに入る前に、まず攻撃の本当の目的と当面の目標イメージについて再確認しておきましょうか。ここでは、先日アップした、日本オリンピック代表のシリア戦で書いた文章をそのまま載せることにします。
------------
攻撃の目的は「シュートを打つこと」だけれど、その目的を達成するために目指すべき具体的な目標イメージは、スペースである程度フリーでボールを持つこと(触れる、コントロールする、支配下におく等々のニュアンス)です。
それが、相手の最終守備ラインとゴールキーパーの間の決定的スペースだったら、もうシュートを打つしかない。また、他のスペースだったら、ラストパスを出したり、ドリブルシュートにチャレンジしたりなど、その選手が、最終勝負の起点として機能できるというわけです。だからこそ、スペースである程度フリーでボールを持つこと(触れる、コントロールする、支配下におく等々のニュアンス)が、具体的に目指すべき目標イメージになるというわけです。
そのようなシーンを演出するプロセスには、大きく分けて二種類あります。
一つが、ドリブルで相手を抜き去って自らスペースへ入り込むという、魅惑的な個人プレー。世界は「マラドーナ」を熱望しているのです。とはいっても、やはりサッカーの基本はパスゲーム。だからこそ、互いの仕掛けイメージをうまくリンクさせ、ボール絡みだけではなく、ボールがないところでのアクションを有機的に連鎖させることで、しっかりとボールを動かしつづけなければならないというわけなのですよ。
そこでの「主役」は、やはりボールがないところでのフリーランニング(パスレシーブの動きや、味方にスペースを作る動きなど)。私は、パスを呼び込む動きというふうに表現するけれど、それが大事なわけです。
ということで、そのことを理解しているチームの場合は、しっかりとマークする相手ディフェンスの「目を盗んでスタート」するし、ボールホルダーとも、イメージをシンクロさせやすい。逆に、そのような仕掛けイメージが確立しているチームの場合、(そんなハイレベルなコンビネーションを受けて立たなければならない)ディフェンダーも大きく発展するというわけです。攻撃と守備は表裏一体なのです。
-------------
ちょっと前置きが長くなった。さて中村俊輔。その攻撃の目的と具体的な目標を達成することに対する実質的な貢献度は? 私は、中村俊輔が、その視点でも総体的に優れたプレーを展開していると思っているわけです。
たしかに、マークする相手を「置き去り」にしてしまうようなスピーディーな勝負ドリブルでは限界は明らかです。とはいっても、相手を翻弄するボールコントロールと、相手アクションの逆を取るキープは一流。要は、ボールを持ったときには、逃げのパスではなく、そこから実効ある仕掛けパスが出てくるということです。もちろん周りの状況を瞬時に把握しているから効果的なダイレクトパスも出る。たしかに、持ち過ぎでボールの動きが停滞してしまうこともあるけれどね。
攻撃の目的と目標に則った中村のポジティブプレーを、キーワード的に列挙してみましょうか。重複したり、まとまりがなくなったりするかもしれない。そのときは、ご容赦。
積極的にスペースへ入り込むパスレシーブの動き(フリーランニング)・・効果的にボールを動かすシンプルなタイミングの(ダイレクト)パスと次のスペースへの動き・・相手守備の薄い部分を効果的に突いていくサイドチェンジ(展開)パス・・タメからの、最前線の足許への正確なスルーパス・・相手をギリギリまで引きつけて放つ、決定的スペースへの勝負スルーパス・・最終勝負を仕掛けていくコンビネーションの起点としてのパス&ムーブ(あっと、パス&ムーブの全体的な量と質については、まだまだ大いに不満!)・・
・・相手と正対し、そこからフェイントで揺さぶってラストパスやラストクロスを送り込むといった仕掛けの起点としての個の勝負プレー・・彼からのラストクロスは、とにかく危険・・一度ゴールへ向い、次に遠ざかるようなカープを描く「もっとも効果的なトラバース・クロス」・・それも、ゴール前で受ける方が、しっかりと前へ動きながら入り込める最終勝負スポットが明確にイメージできている・・
・・近頃は、自ら決定的スペースへ走り込んでシュートにトライしたり、中距離からのシュートにトライしたりしている・・中村俊輔の「ゴールを決める感覚」は、やはり天賦の才・・シュートチャンスを得たときの決定力は、たぶん日本でも随一・・また中距離シュートの危険度も素晴らしい・・そして、例のフリーキック・・
たしかに、直線的なドリブルで相手守備ブロックを突破していったり、相手をスピードで振り切るようなフリーランニングなどには大きな期待は掛けられないよね。また守備では、走りっこになるようなボールがないところでのマーキングも難しいし、身体を張ったギリギリの競り合いでの期待値も低い。また、攻守にわたって「様子見」になってしまうシーンもまだまだ見受けられる。
それでも私は、総体的に、中村俊輔が価値あるプレーを展開していることは確かな事実だと思っているわけです。いまの彼は、決して「ボール扱いが上手いだけ」のボールプレイヤーではないのです。
そしてオシム日本代表での中村俊輔。ペルー戦では、フリーキックが冴えた。サイドチェンジなどの大きな展開パスや、ショート&ショートの組み立てを演出するコアとしても存在感を発揮した。それでも、彼のところから、人とボールが爆発的に動き出すようなダイナミズムが放散されるという印象は薄かった。ガンガンとドリブルで突っ掛けるようなアグレッシブな若い連中が中心になった最後の数分間の仕掛けで感じられたダイナミズムがね・・。
様々な意味で「動き」つづけている日本代表チーム。私の学習機会としての価値がどんどん高揚しつづける・・。
-
[ トップページ ] [
Jワンポイント ] [湯浅健二です。
]
[ Jデータベース ]
[トピックス(New)] [
海外情報 ]