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2007_ナビスコ準決勝・・マリノス、乾貴士という諸刃の剣・・(マリノスvsフロンターレ、1-2)・・(2007年10月10日、水曜日)

「乾にとっては辛い45分間だったに違いない・・ハーフタイムで交代を告げたとき、彼は涙を流していた・・」

 マリノス早野監督が、乾貴士についてそうコメントしていました。最近は、ドリブルやスルーパスなども含め、プレーの向上が著しいとも言っていた。だから先発で送り出したということでしょう。でも結局は、その決断が裏目に出てしまう・・。

 この試合でのフロンターレは、例外なく全員が、攻守にわたって有機的に連鎖しつづけていました。もちろん、その「有機連鎖プレー」でもっとも重要なポイントがディフェンスにあることは言うまでもありません。

 最前線のジュニーニョ、マギヌン、鄭大世によるチェイス&チェックからはじまり、その「波」がチームメイトたちへとスムーズに波及していく(まあ、同時発生的な組織ディフェンス!)。まさに、有機的なプレー連鎖の集合体と表現するにふさわしい素晴らしい組織ディフェンスじゃありませんか。そしてそのプレー内容が、そのまま結果へとつながっていくのですよ。

 この試合については、最初から中盤でのディフェンス合戦になると思っていました。たしかにマリノス早野監督は、メッセージを発信するのがうまい。器用ではないからこそ、全員守備、全員攻撃のプレッシングフットボールを志向する・・そこでの絶対的なキーワードは運動量・・攻撃的に動き回るサッカーをシーズンを通してやり通す・・などなど、とにかく分かりやすい。だから、マリノスのサッカーは表現し易く、メディアでも取り上げられる頻度が高い。たしかに上手いよね。

 でも基本的には、フロンターレのコンセプトも同じような方向性にあることは皆さんもご存じの通り(まあ、情報発信の実効プロセスについては、早野監督の方が一枚上だけれどネ・・)。まあ、ということで私は、ゲーム展開のキーポイントが(より明確に)中盤でのディフェンスのせめぎ合いになると確信していたのですよ。そして、まさに思った通りのゲーム展開になり、フロンターレが(特に前半では)そのせめぎ合いを制したのでした。

 そして、そのせめぎ合いの優劣を左右した決定的な要因になったのが乾貴士だったというわけです。彼は、攻守にわたる組織プレーで、実効レベルが低すぎた。

 後半から登場した坂田大輔は、最前線からしっかりとボールを追うし、攻撃では、ボールがないところで全力フリーランニングを繰り返す。特に、タテスペースへの、後ろ髪を引かれない全力での走り抜けは、タテへの勝負パスを呼び込むだけではなく、二列目に、味方が使えるスペースを作り出すという素晴らしい効果を生み出します。チームメイトたちも、そんな坂田のフリーランニングをイメージしてプレーする。でも、この試合では、そんな攻守にわたる「イメージ・リーディング(汗かき)プレー」がなくなったことで、マリノスの攻守にわたる機能性が大きく減退したと感じました。

 特に守備が重要だった。最前線からの坂田のチェイス&チェックがなくなったことで(要は、乾貴士がそれを十分に補えていなかったことで)中盤でのディフェンス機能性が大きくダウンしたのです。だから次の攻撃にも勢いが乗っていかなかった。

 また乾は、スペースへ飛び出すのではなく、常に足許パスを「待つ」ようなプレーに終始しました。たしかに「有利なカタチ」でドリブルに入れば、かなりの威力は発揮する。左サイドでの中村憲剛との競り合いは見応え十分だった(そこでは互角以上の存在感を発揮した!?)。とはいっても、ほとんどのケースでは、フロンターレ守備にピタリとマークされた状況での「ごり押しドリブル」になってしまっていたから、結局は潰され、そこからカウンターを喰らう羽目に陥っていた。

 そんなネガティブなプレーを観ながら、彼が秘める素晴らしい才能を考えて、残念で仕方なかった。彼は、もっともっとディフェンスに積極的に参加しなければならなかった。特に、ボールがないところでの汗かきディフェンスと協力プレスへの積極的な参加。それが大事なのですよ。たしかに協力プレスに参加した場合には、味方が「集中」してしまうけれど、そこからの素早い攻守の切り替えが、次の、有利なカタチでパスレシーブにつながるのです。

 矛盾するように思われるかもしれませんが、集中ディフェンスに参加することは、次の攻撃での「効果的な絡み」への絶対的なベースであることは、サッカーの歴史が如実に証明しているのです(世界トップサッカーの常識!)。

 サッカーは本物の心理ゲームだからね。「主体的・積極的」にアクションすれば、その自分主体プレーの(マインド的な)流れが、例えば素早くエネルギッシュな守備から攻撃への切り替えプレーや、ボールがないところでのダイナミックな動き(その量と質のアップなど)といった効果的な組織プレーが自然と出てくるようになるのです(≒オートマティゼーション)。

 しかし乾は、あまり動かず、積極的にディフェンスに参加するわけでもなく、足許パスぱかりを「待って」いた。それでは、ボールを持っても、有利なカタチで彼の才能を発揮できるはずもない。動き回って頻繁にボールに触り、シンプルに「タッチ&パス&ムーブ」を繰り返せば、必ず、有利なカタチでドリブル勝負を仕掛けられる状況を(自ら)作り出せたのに・・。

 ゲームだけれど、後半のマリノスのサッカーを観れば、彼らが、三日後の第二戦で大逆転を成し遂げられるだけの潜在力を秘めていることは誰もが認めるところでしょう。「もう我々は攻めるしかなくなった・・その意味では、逆に良い状態にあるとも考えている・・」と早野監督。今から楽しみです。

 その勝負マッチだけれど、私は、あるコトを心から期待しています。それは、乾貴士に、もう一度チャンスを与えることです。

 もちろん彼は、今日のゲームの二倍は走らなければなりません。また、「まず」守備からゲームに入っていかなければならない。全力でのチェイス&チェック。そしてボールを奪い返したら、「集散の原則」に基づき、素早く守備から攻撃へ切り替え、まず自分が、全力でスペースへ抜け出していくのです。

 また組み立てプロセスでは、動き回ってボールに触り、シンプルな展開プレーを繰り返すなかで、タッチ&パス&ムーブ&タッチ&・・を繰り返し、自分の才能を発揮できるシチュエーションを自ら作り出す(我慢強く待つ!)ことに全力を傾注しなければなりません。

 私は、乾貴士が第二戦で「ブレイク」することを楽しみにしています。才能が覚醒するプロセスの証人になることほど血湧き肉躍ることはありませんからネ。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。

 基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)ビジネスマンの方々をターゲットにした、本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というコンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。

 蛇足ですが、これまでに読売新聞や日本経済新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」です。

 




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