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2007_ナビスコ準決勝の2・・個のアドバンテージ・・そして中村憲剛・・(フロンターレvsマリノス、4-2)・・(2007年10月13日、土曜日)

あ〜あ・・結局「乾貴士」がチャンスを与えられることはなかった。マリノスが、吹っ切れた心理状態でフロンターレを追撃しなければならなくなったことで、ギリギリの闘う意志を前面に押し出して積極的に仕掛けていかざるを得ないというポジティブな心理環境になったから、乾貴士にとっても闘いやすい雰囲気が整ったと期待していたのだけれど。まあ、仕方ない。

 ということで、今回はまずゲームの内容を、全体的な視点で把握することからはじめることにしました。私は、サッカーの内容で、フロンターレが順当に決勝へ駒を進めたと評価してます。

 第一戦が終了した直後のインタビューでジュニーニョが言っていたとおり、チーム全体が、高い守備意識をベースに組織プレーに精進した成果だということです。フロンターレは、ジュニーニョ、マギヌン、中村憲剛といった「個の才能」を擁している。だからこそ、攻守にわたる組織プレーがうまく機能することで、個の才能も、より効果的に活かされたということです。

 マリノスは、攻守にわたる組織プレーのコンテンツでは互角だったけれど(部分的にはフロンターレを凌駕しているケースも多かった!)、組織パスプレーを主体にした最終勝負プロセスでは、その多くがフロンターレの忠実なディフェンスに抑え込まれていました。組織プレーは、ある程度はうまく機能していたけれど、最終勝負プロセスで相手ディフェンスを振り回せるような「仕掛けの変化」が足りなかった。そう、個の勝負能力で差が見えていたということです。マリノスを代表する「個の才能」山瀬功治にしても、うまく抑え込まれていたからね。

 そこには、攻守の組織プレーが互角レベルならば、最後は「個のチカラ」の優劣が結果を大きく左右するという事実があるというわけです。

 ということで、今回は、中村憲剛という、フロンターレが誇る「個の才能」にスポットを当てようと思います。

 彼は、着実に発展していると思います。アジアカップ、オーストリア、クラーゲンフルトでのオーストリア戦とスイス戦、アジアチャンピオンズリーグ戦、そして今回のナビスコカップ。もちろん「J」でも存在感を発揮する。

 とにかく彼がボールを持ったときには、何かが起きるかもしれないという期待がふくらんでいくのですよ。シュートにつながる何らかのリスクチャレンジプレーが・・。勝負ドリブルあり、ロングやショートの勝負パスあり、彼がコアになったコンビネーションあり。

 ナビスコカップ準決勝の第一戦でも、立ち上がにに魅せた鄭大世へのロングパスがマリノス守備陣の度肝を抜いた(そのパスが、マリノス守備ブロックの押し上げイメージを中途半端なモノにした!?)。また、その後に何度も繰り出した素晴らしいサイドチェンジパスや、ジュニーニョとの軽快なコンビネーション。中村憲剛は、この試合(準決勝第二戦)でも、鄭大世の勝ち越しゴールを演出した(ズバッという音がするくらい鋭い)スルーパスや、ドリブルからジュニーニョへ決定的クロスを送り込んだ鄭大世へのサイドチェンジパスなど、決定的なリスキーパスを何本も繰り出していた。

 その、スキルフルで確実なボールキープから繰り出されるシンプルな展開パスや決定的なコンビネーションパスは観る者を魅了して止みません。それだけではなく、相手の視野からスッと消えながら決定的スペースへ入り込んでシュートを放ったり、後方から自ら持ち込んでロングシュートを放ったりする。危険この上ない「牛若丸」じゃありませんか。

 そんなプレーを観ながら、中村憲剛の日本代表での役割(価値)について考えてみた。私は、鈴木啓太とともに、中村憲剛は欠かせない中盤プレイヤーだと思っているのですよ。とはいっても、たしかに守備では(特にボール奪取勝負では)稲本潤一の方が一枚上手。また、インターナショナルレベルでは、身体的に厳しくなるケースも多いだろうしね。それでも、攻守にわたって「仕事を探す」プレー姿勢は、まさに超一流。いまの日本代表チームにとって、中村憲剛の存在意義はものすごく大きいと思います。

 「中村は、こちらの(ベンチの)意図をすぐに理解し、戦術的に効果のあるプレーをしてくれる・・」

 フロンターレ関塚監督が、そんなことを言っていた。監督のエクステンションハンド(グラウンド上の右腕)。同感だね。例えば、守備ブロックに穴が空けば、率先してポジションを修正し、穴を埋めしてしまう・・人やボールの動きが停滞気味になったら、すぐに自分が中継ポイントになって再び加速させる・・組み立てが安全パスばかりという後ろ向きの流れになったら、率先してリスキーなパスにチャレンジする・・仕掛けフローが停滞したら(仕掛けが相手守備ブロックに抑え込まれたていたら)ドリブルにチャレンジしたり、タメを演出するなど変化を演出する・・などなど。

 中村憲剛がボールを「持ちそうになった」次の瞬間には、最前線の選手が、決定的フリーランニングをスタートするのもよく分かる。彼らは、憲剛だったらリスキーなチャレンジパスにもトライしてくれるに違いないと確信しているのですよ。「主体的」な相互信頼こそがコンビネーションを進化させるのです。

 中村憲剛は、良いサッカーに対する確固たるイメージを脳裏に描写し、常にそれをトレースしているということなんだろうね。だから、そのイメージに逆行するような流れをすぐに察知し、自らが主体になって、効果的に調整してしまうのです。いかにそれがリスキーなプレーであったとしても・・。いいね。

 日本代表の中盤だけれど、中村俊輔も含めて、その絶対的な基盤が「優れた守備意識とその実行力」にあることは言うまでもありません。要は、一人の例外なく、主体的に汗かきの仕事「も」探せなくてはならないということです。そんな姿勢こそが、(日本代表の生命線ともいえる)組織プレーをうまく機能させつづける(≒効果的に個の勝負を仕掛けていける状況を演出する)ための原動力なのです。

 フムフム・・やっぱり中村憲剛は外せない。エジプト戦での彼の活躍に期待が高まります。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。

 基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)ビジネスマンの方々をターゲットにした、本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というコンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。

 蛇足ですが、これまでに読売新聞や日本経済新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」です。

 




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