トピックス


2007_ナビスコ決勝・・後半に両チームが取った基本タスク(ポジション)の変更は興味深かった・・(フロンターレvsガンバ、0-1)・・(2007年11月3日、土曜日)

「我々は、決定機では、ガンバの上をいっていたと思う・・前半の得点機にゴールを決められていたらゲームの展開は大きく変わっていた・・たしかに相手のウラ(スペース)を効果的に突けていたわけじゃないけれど、コーナーキックからは(セットプレーからは)決定機を作り出せていた・・」

 フロンターレ、関塚監督の弁です。その言葉を補足すると、フロンターレは、セットプレーだけじゃなく、ジュニーニョへの(主に中村憲剛からの)一発スルーパスなどでも決定機を作り出していた・・ということになる。前半と後半の立ち上がりには、まさに決定的といえるチャンスがあったからね。だから、フロンターレも「持ち味」を存分に発揮したという評価がフェアだと思う。

 とはいっても、攻撃コンテンツ(内容)の戦術的な比較という視点では、ちょっとニュアンスが違ったものになる。シュート数という統計では、両チームは完全に互角だったけれど、サッカー攻撃の王道である「スペース攻略」という視点では、ガンバに一日の長があったのも確かな事実だったということです。もちろん、このゲームに限って言えば・・のハナシだけれどネ。要は、シュートの、そしてそこに至るまでのプロセスの内容では、明らかにガンバに軍配が上がるということです。

 個の才能レベルでは、ガンバが(少しだけ!)優位に立っていることは誰もが認めるところでしょう。たしかにジュニーニョや中村憲剛は素晴らしい才能に恵まれているけれど(とにかくマギヌンの穴が目立っていた!)、ガンバには、マグノ・アウベス、バレー、二川孝広、遠藤ヤット、安田理大と加地亮といった個の才能が揃っているからね。

 そんな才能たちが、組織としても上手く機能しつづけるのですよ。人とボールを活発に、そしてスムーズに動かしながら、フロンターレ守備ブロックの薄いゾーン(要はスペース)で、より効果的に「仕掛けの起点」を作り出してしまう。そしてそこから、マグノ・アウベスや二川、遠藤ヤットや両サイドが危険な個人勝負プレーを繰り出していく。たしかに、流れのなかで決定的スペースを攻略していくという最後の仕掛けコンテンツでは、明らかにガンバの方が上でした。

 その意味で私は、(要は、純粋にチーム戦術的にサッカー内容を比較するという視点では)順当な結果だったと思っています。もちろん「一発勝負のゲームの流れ」というポイントでは、フロンターレにも十二分に優勝のチャンスがあったわけだけれどネ。

 ここで、ちょっと話題を変えて、後半になって両チームが取った、チーム戦術的な「変更」について議論しておきましょう。それも、勝負を大きく左右したファクターだったからね。

 後半のフロンターレは、寺田周平を守備的ハーフへ「上げる」ことで、スリーバックからフォーバックへと最終ラインの構成を変えました。多分その変更には、ガンバが、バレーのワントップ気味(要は、マグノ・アウベス、バレー、二川によるスリートップ気味)ということもたっただろうし(まあ、サイド封鎖など、それ以外の守備的な意図もあっただろうけれど・・)、中村憲剛を、より高い位置でプレーさせたいという意図もあったのでしょう。流れに乗れない大橋正博に代えて久木野聡を投入してからは、中村憲剛は縦横無尽に「牛若丸ぶり」を発揮し、フロンターレの仕掛けを効果的に牽引していましたよ。

 それに対してガンバは、前半のフォーバックから、加地を最終ラインに組み込むことでスリーバックにした。守備的ハーフの橋本は右サイドへ移動させ、前半ではボールタッチが少ないという評価(西野監督)だった遠藤ヤットの基本的なポジションを少し下げたのです。その変更でもっとも重要だった西野監督の意図は、何といっても、安田理大を、より高い位置でプレーさせるというものでした。

 この両チームの基本ポジショニング(タスク)の変更だけれど、両チームともに、ある程度はうまく効果を発揮してはいた。とはいっても、総合的には(このチーム戦術の変更でも)ガンバに軍配が上がったと評価するのがフェアでしょうね。

 たしかに(前述したように)中村憲剛のプレー内容は高揚したけれど、それ以上に、ガンバの遠藤ヤットと安田理大の実効レベルが大きく増幅していったからネ。遠藤ヤットについては、やはり後方から(要は本物のボランチとして)、中盤ディフェンスへの関わりをより強くイメージすることをベースにプレーする方がいいと再認識していましたよ。彼はオールラウンド(ハイレベルなポリヴァレント性を内に秘めた≒高いインテリジェンスを持つ)プレイヤーだから、攻守にわたる「プレーの自由度」を拡大してやれば、主体的に、より多くの(実効レベルの高い)仕事を探し出すだろうからね。そして安田理大。彼は、もう完全にノリノリになっていった。

 前半から、ガンバ左サイドの安田理大とフロンターレ右サイドの森勇介のバトルは火花を散らしていた。互いに主導権を奪い合うという、ものすごく興味深いバトルだったけれど、フォーバックになったことで森勇介のプレーイメージは「下がり気味」になり、逆に安田理大のそれは、完全に「ウイング」的になっていった。

 こうなったら、もう誰も安田を止められない・・。安田が魅せつづけた仕掛けプレーからは、そんな吹っ切れた積極マインドが強烈に放散されていましたよ。後半の立ち上がりから、何度も、ドリブルでフロンターレ守備ブロックを切り裂いていった。また、ドリブルで中央ゾーンへ切れ込むと見せ掛けて、自分が作り出したタッチライン沿いのスペースへバックパスを送ったりする(もちろんそのスペースへは仲間が入り込んでいる!)。ノリノリの雰囲気が無限大に拡大していく・・。

 安田理大にとってこの試合は、「世界」へ向けた本物のブレイクスルー路線を継続していくための大きなエネルギー源になったに違いありません。要は、自信コンテンツの進化と深化。そして安田理大には、肉を切らせて骨を断つというギリギリの勝負(オリンピック最終予選)という、素晴らしいステップアップ機会も用意されている。

 こんな「波に乗った」状態でホンモノの勝負に臨める彼は、本当にラッキーだと思いますよ。脅威と機会は表裏一体。必ず安田理大は、脅威という緊張感を糧に、それを自分自身のステップアップ機会として、とことん活用してくれるはずです。オリンピック最終予選で残された二試合が楽しみになってきたじゃありませんか。

=============

 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま四刷り(2万数千部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]