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2007_岡田武史が監督に就任した日本代表について・・(2007年12月19日、水曜日)

本日のデイタイム、岡田武史が監督に就任した日本代表チームの初めてのトレーニングを観察してきました。昨日から今日にかけての二日間合宿で、本日は、2試合のトレーニングマッチだけが行われました。

 イビツァ・オシムさんが脳梗塞で倒れた直後のJリーグ・コラム(第32節、レッズ対エスパルス)では、マッチレポートにつづけて、こんな内容のことを書き足しました・・

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 「ところで、最後に一言だけ・・我々にとってかけがえのない友人であり、サッカー仲間でもあるイビツァ(オシム監督)が、いま病床にある・・心から、本当に心から、彼の回復を祈る・・」

 ホルガー・オジェック監督が、その言葉で記者会見を締めた。それに対して、こみ上げてくるものがあった。そしてそのすぐ後に、ある雑誌や新聞の編集部から電話が掛かってきた。

 「湯浅さん・・オシム監督についてですが・・いまサッカー協会では、彼の後任について話し合われはじめたと聞くのですが・・」

 その質問に、話しが止まらなくなりました。「イビツァ・オシムが日本サッカーにもたらしたものは、多分みなさんはしっかりと理解していないでしょう・・彼は、考えることと走ることの大事さを、日本全国に、広く、そして深く知らしめたのです・・それこそが、サッカーにとってもっとも大事な根源的コンセプト・・彼のおかげで、日本全国で、目指すべきサッカーの共通イメージが固まり、ユースからプロまで、日本のサッカーが本当の意味で進化しはじめていると言っても過言じゃない・・いま日本サッカーは、彼のおかげで、世界へつながる大きなステップを踏み出している・・日本は、イビツァ・オシムという、かけがえのない贈り物を天から授かったのです・・」

 その後に何を言ったのか、よく覚えていないけれど、とにかく言葉が止まりませんでした。「イビツァ・オシムは、代替が効かないプロコーチです・・彼のインテリジェンスとパーソナリティー・・それは決して代替が効くものじゃない・・とにかくいまは、言葉がしゃべれるまで回復してくれることを心底願っている・・思考と言語さえ大丈夫だったら、物理的な仕事は誰でも出来る・・彼をサポートする組織的な機能を拡充していけばいい・・彼の後任どうのこうのなんて議論するよりも、彼の回復に対して最高のエネルギーを投入し、同時に、サポート体勢に関するプランを練るべきだ・・」などなど。

 もちろん組織(サッカー協会)としては、すべての可能性を考慮し、それに対する準備を整えておかなければなりません。それはよく分かる。でもいまの私は・・ちょっとエモーショナルに偏った(!?)考えや言葉しか出てこない・・。もちろん私も、心から、本当に心から、イビツァ・オシム監督の回復を願っているのです。でも今は祈るしかないというもどかしさ・・。フ〜〜

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 実はそのとき、何度も粘り強く聞かれたこともあって、「・・オシム監督の後を任せられるとしたら?・・日本人でアタマに浮かぶとしたら岡田武史くらいでしょう・・でもやはり優れた外国人プロコーチに任せる方が優先順位は高い・・オシム監督の路線をしっかりと継承でき、様々な意味でバランス感覚に優れた人材が・・すぐには名前が出てこないけれど・・」などと口走ったことを覚えています。

 そして、岡田武史が代表監督に就任した。知識と経験、インテリジェンス、勇気と決断力、責任感、誠実さ、そして(それらの総体としての、バランス感覚あふれる)パーソナリティー。どれをとっても、日本人のなかでは彼ほどの適任者はいないでしょう。

 わたしは期待していますよ。オシムさんの哲学を(少し踏み込んだ詳細な意味合いでの)大筋で継承し、日本全国へ向けて明確な「メッセージ」を放散してくれるに違いないという視点で・・。

 もちろん、その目標イメージへ向かうアプローチの「ニュアンス」については、イビツァ・オシムさんとは異なったモノが見えてくるに違いありません。その「ニュアンス」にこそ、これまで岡田武史が学習した「様々なコンテンツ」が詰め込まれているのです。

 学習だからね、もちろんネガティブな現象からの方が、より多くの深い「有意義なコト」を学べるものなのですよ。フットボールネーションには、こんな格言があります。良いコーチのバックボーンには、多くの失敗体感がある(良いコーチは、複数のチームを潰した経験をしているものだ!)。もちろん、失敗から学ぶことが出来るだけのインテリジェンスやパーソナリティーがなければハナシにならないけれどネ。

 岡田武史の場合は、例えば・・ギリギリで成し遂げたワールドカップ予選(結局は成功裏に完結したけれど、そこに行き着くまでには多くの隠された失敗があったはず!)、惨敗したフランスワールドカップ本大会、うまくイメージ通りに機能しなかったコンサドーレでの1年目、理想型とは違う様々な妥協の産物としてのコンサドーレでの「J1」昇格、これまた理想型からはちょっと距離があった(!?)マリノスでのサッカーコンテンツ・・などなど。

 優れたコーチは、失敗から多くを学べるものなのですよ(自ら学習コンテンツを選別し、分析して『プロとしての瞬発力』を養う)。同じ失敗を繰り返すような学習能力のないコーチは問題外だけれど、岡田武史は違う。それだけは、確かなことです。そんな岡田武史が目指すサッカーは・・

 主体的に考え、決断し、実行するというプレー姿勢を絶対的なベースに、攻守にわたる「数的に優位なカタチの演出」をイメージした組織プレーを志向する・・そこでは、とりもなおさず、アクションの優れた量と質が要求される・・そして、その組織プレーを絶対的なベースに、個人の才能を効果的に組み込んでいく・・もちろん、その個の才能は、攻守にわたって、ボールがないところでもしっかりと動きつづけ(汗かきプレーへの精進)、守備にも全力で取り組まなければならない・・そう、優れた守備意識こそが、優れた組織プレーの絶対的なバックボーン・・などなど、そんなコンセプトを書きはじめたら止まらない。

 とにかく私は、攻守にわたる「リスクチャレンジの量と質」というポイントこそが、岡田ジャパンのメインテーマだと思っているのです。もちろん、リスクチャレンジをバックアップするクレバーな「戦術」というテーマも含めてネ。(選手モティベーションとしての)美しさと、(前進エネルギーリソースである勝利を得るための)勝負強さのバランス・・組織プレーと個人プレーのバランス・・などなど。

 要は、日本サッカーが抱えている課題を大前提にした(!?)優れたバランス感覚こそが、(勝ちにこだわる岡田武史の!?)本当の意味での成果の糧だということです。

 あっと・・今日のトレーニングマッチ。なかなか良かったですよ。全員が、前から積極的に仕掛けつづけていた。もちろん、ダイナミックな(様々なプレーが有機的に連鎖しつづける)守備を絶対的にベースにしてネ。

 この試合内容を見る限り、岡田武史がチームへアプローチした「様々な刺激」がポジティブに作用しているように思えます。期待しようじゃありませんか。

 ところで、イビツァ・オシムさん。日に日に元気になっているようです。本当によかった。これまでに彼が成した大きな成果に対する感謝も込めて、100パーセントの回復を願って止みません。そして、もしできれば、日本サッカーに対する「俯瞰アドバイザー」として、これからも色々と貢献して欲しい・・。そう願っているのは、私だけではないはずです。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。NHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました(その記事は「こちら」)。またサボティスタ情報ですが、最近、「こんな」元気の出る書評がインターネットメディアに載りました。

 




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