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2008_CL・・この試合でのレアルは内容的に順当な敗退・・それに対して、順当で見事な勝ち上がりを魅せたアーセナル・・また拙著六刷りのお知らせも・・(2008年3月6日、木曜日)

やっぱりオランダトリオがいなければ、組織プレーの発想レベルは減退するよな〜〜

 ヨーロッパチャンピオンズリーグの決勝トーナメント一回戦第二試合、レアル・マドリー対ローマ戦を観ながら、ちょっと寂しい思いにかられていました。あの(メンバーさえ揃えば)強いレアルが今年もベスト16で姿を消してしまった。

 まあ、彼らの強さを支えていたオランダトリオがケガで戦列を離れてしまったのだから仕方ないかもしれない。もちろん、ロビーニョやグティーに代表される「美しさ」の演出家はいるけれど、彼らが描く仕掛けの発想を、グラウンド上に投影できないのだから仕方ない。

 やはり、美しい発想を現実のグラウンド上に描写するための最も大事な要素は、シンプルなタイミングの(そして、もちろんタテ方向の!)パスであり、その基盤となるボールがないところでの汗かきプレー(パスレシーブの動き≒フリーランニング)や忠実なパス&ムーブなどを積み重ねていくことなんだよな・・それこそが、スペースを活用するための絶対的ベースなんだけれど、それが十分ではないから、ローマの強化守備ブロックを崩せない(背後のスペースを突いていけない!)・・ASローマの選手は、自分たちの眼前で一生懸命にボールを動かそうとする(でも足許パスが大半!)レアルの攻撃を「余裕をもって」受け止めていたに違いない・・。

 オランダトリオとは、もちろん、ファン・ニステルローイ、ロッベン、そして最も大事なスナイデルのこと。特にスナイデルの不在は大きい。彼が演出する、攻守にわたる質の高い組織プレーこそが、天才たちのイマジネーションをグラウンド上に投影する映写機だったわけだから。もちろんファン・ニステルローイの個の決定力や、ロッベンのドリブル突破という武器を失ったことも痛手だった。

 この試合、たしかにボールポゼッション(ボール保持率)ではレアルが優位にいたけれど、実質的なゲームの流れをコントロールしていたのは完全にローマでした。

 前述したように、余裕をもってレアルからボールを奪い返せるし、その後の攻めも余裕をもって展開できていたからね。たまに攻め上がる状況でも、前後左右のポジショニングバランスを大きく崩して最終勝負を仕掛けていくのではなく、効果的なロングシュートで攻撃を終えようというイメージのローマなのです。何せ、そのうちの何本かは、ポストを直撃したりゴール右端へ飛ぶような決定的シュートになってしまうのだから・・。

 特に、8番のアキラーニ。すごいシュート力だよね。つづけざまに何本も、ホントに危険な中距離シュートをブチかましていた。チームメイトも、彼のシュート力をうまく活用するというイメージで攻撃を組み立てていた部分もある。

 そんなアキラーニの強烈なロングシュートを観ながら、「日本も、もっともっと中距離シュートをトレーニングしなければいけないよな・・特に、肉を切らせて骨を断つ闘いになるワールドカップ地域予選では、セットプレーだけじゃなく、それもまた強力な武器になるし、そのフィニッシュイメージが浸透すれば、(選択肢があることで)もっと余裕をもって仕掛けていける・・そう、山瀬功治・・まあ、そのイメージを浸透させていくトレーニングでは忍耐が必要になるけれど、果実はビックリするほど大きいはずだ・・なんてね。

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 さて次は、ものすごくエキサイティングな勝負マッチになった、ACミラン対アーセナル。全体的な評価は、アーセナルが順当に勝ち進んだというもの。そのサッカーは、見事としか言いようがありませんでした。

 アーセナルのサッカーを観ていて、今更ながらに、ボールを止めることと蹴ることというサッカーの基本がいかに重要な意味を持つのかを再認識させられました。当たり前のことだから、どうしてもその戦術ポイントに対する視座が甘くなる傾向にあります。もっともっと、そのポイントを突き詰めなければならないと思うのですよ。

 例えばトレーニング内容。この試合でアーセナルの選手がいとも簡単に繰り出していた強烈なパスとソフトで素早いボールコントロールを、トレーニングで再現させるのです。もちろん、自分たちの基準ではなく、その(まあイメージ的にだけれど・・)二倍はスピードも強さもあるパスを出させ、いつもの半分の時間で(これもイメージ的・・)正確に素早くコントロールして、次の強烈パスへとスムーズにつなげていく。それも、「二軸動作」を徹底させる(このポイントについては後述)。とにかく湯浅は、この試合を観ながら、そんな地道なトレーニングを繰り替えすことの重要性を再認識していたという体たらくだったのです。

 アーセナルのボールの動きは、素早く、広く、そして正確。その、常にタテ方向へ移動しつづけるボールの動きにため息の連続でした。そして、そのボールの動きと、スペースを活用しようとする人の動きが重なり合う。その攻撃は、まさに有機的なプレー連鎖の集合体。素晴らしい。

 彼らのボールコントロールだけれど、あれほどのレベルにあれば、半径1-2メートルさえあれば有効なスペースになるって感じます。ズバッという強烈なパスを、まさに「ピタリッ!」と止め、間髪を入れずに次へ展開していくのです。

 もちろん「二軸動作」。要は、「トット〜ン」というボールコントロールのリズム。例えば、強烈なパスを右足インサイドでピタリと止め、左の軸足を「踏み換える」ことなく、トッ・ト〜ンというリズムで、そのまま右足アウトサイドでボールを動かしてしまうようなプレーのことです。

 そして次の瞬間には、味方パスレシーバーへ、ズバッというグラウンダーパスを送る。もちろんタテパス。そして、その仕掛けのパスをキッカケに、ダイレクトパスを織り交ぜた夢のようなコンビネーションがスタートする。ため息・・。

 そんなアーセナルの活発な人とボールの動きだけれど、それは、特に両サイドを忠実に活用しつづけるという発想がベースになっている。アデバイヨールを「ポスト」にしたボールの動きでミラン守備網を中央ゾーンに集中させ、そこから素早くサイドへ開くという発想。そこでは、ペナルティーエリアの両角ゾーンがキモになるわけだけれど、アーセナルの両サイドバックは、常にそのゾーンを意識して狙っているというわけです。

 そんなアーセナルに対してACミランは、まず、カウンターや一発ロングパスを狙う。そして、それによる仕掛けの可能性が薄くなってからは、例によって、ポジショニングバランスを崩さずに全体的に押し上げ、急激なテンポアップで最終勝負を繰り出していく。もちろんインザーギという「ウラスペース狙いの職人」はいるけれど、中盤でのパサーが、アーセナルの強力ディフェンスブロックに抑えられているのだから、流れのなかからのスルーパスは難しい。

 言葉にするのは簡単ではないけれど、両チームの「仕掛けの傾向」は、こんな風に言い表せるかもしれない。

 ミランの最終勝負は、限りなく「ソロドリブルの個人主義者」に任せきるという傾向が強いように感じる。カカーやパトなど。それに対してアーセナルには「組織ベースの個人主義者」が揃っている(組織パスプレーにも長けた天才たち!?)。アデバイヨール、エドゥアルド(早期のケガからの復帰を祈念!)、ファン・ペルジー、フレブ、ロシツキー(そろそろケガから復帰!?)、セスク・ファブレガスなどなど。

 そこには、天才たちが、ボールがないところでしっかりと走り、(パス&ムーブも含め)ボールをこねくり回すことなくシンプルに展開しているだけではなく、組織的な守備にもしっかりと参加しているという事実がある。まさにそれは、アーセナルが展開するサッカーの「次元の高さ」の証明ということになるでしょうネ。

 とはいっても、第一戦もそうだったけれど、やはりアーセナルも、ミランの「次元を越えた勝負強さ」を必要以上に警戒していたと思う。要は、アーセナルの仕掛けに、何か一つ「厚み」が足りなかったように感じたのですよ。またアーセナルは、フィニッシュにも課題を抱えていると感じました(ミランダったら決して逃さないようなシュートチャンスも、安易にミスしていると感じられる)。

 とはいっても、アーセナルが、全体的なチャンスメイクの量と質で完全にミランを圧倒したことは確かな事実でした。たしかに今のアーセナルは、美しい内容だけではなく、これまではかなり「淡泊」というイメージがつきまとっていた「勝者メンタリティー」もかなり強化されていると感じます。

 新しいスタジアムが完成し、強力なスポンサーが集まったことで、アーセナルも本当の意味で「世界のビッグクラブ」の仲間入りを果たし、それが「勝負強さ」の心理的なベースになっている!? さて・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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