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2008_天皇杯準決勝・・なかなか面白いコンテンツがてんこ盛りだった・・(FC東京対レイソル、1-2)(ガンバ対マリノス、1-0)・・(2008年12月29日、月曜日)

二つの準決勝マッチともに、全体的にゲームを支配した方のチームが惜敗を喫してしまうという皮肉な結果になりました。

 アッと・・そんな結末は、必然と偶然が激しく交錯しつづけるサッカーでは日常茶飯事だから「皮肉」なんていうのは相応しい表現じゃなかったね。そして、FC東京に勝ったレイソルと、マリノスに勝ったガンバが決勝へと駒を進めた。

 それにしても、李忠成が挙げたレイソルの決勝ゴールと、山崎雅人が挙げたガンバの決勝ゴールには「気持ち」だけじゃなく、いろいろな意味が内包されていた。

 李忠成は、フランサからパスを受け、迷うことなく右足を振り抜いた。28メートルの弾丸ミドルシュート。また山崎雅人は、ドリブルで上がってくる寺田紳一の前を、左から右へと角度をつけた「爆発フリーランニング」を繰り返すことで決定的スペースへフリーで抜け出し、寺田からの「丁寧な」ラストパスをダイレクトで決めた。

 この二つの決勝ゴールシーン。李忠成にしても山崎雅人にしても、シュートがゴールへ吸い込まれていくシーンを、脳裏に明確に描写できていたに違いないと感じる。その確信は、シンプルなトレーニングを忍耐強く積み重ねることでしか得られないものです。私は、彼らが放ったシュートを見ながら、そのボールの軌跡に、彼らが、シンプルなトレーニングを忍耐強く積み重ねる日常のシーンを重ね合わせていました。

 それにしても、山崎雅人。彼の、延長の後半に入っても、あのような爆発的な勢いでスペースへ抜け出していく全力フリーランニング(クリエイティブな汗かきランニング!)を忠実に遂行しつづけるプレー姿勢に、一流の個人事業主(匠)のマインドを見ていた筆者でした。

 播戸や山崎など、ガンバでは、忠実な突貫マインド「も」しっかりと育まれている。「使い、使われる」という原則メカニズムに対する深い相互理解・・。要は、華麗なパスサッカーを締めくくる「泥臭いフィニッシャーマインド」も(素晴らしいラストパスと同格で!)しっかりと確立しているということです。そんなメリハリの効いた選手タイプの組み合わせ(というか、誰でも、味方を使うパサーにもなるし、味方に使われるフィニッシャーにもなるという真の組織プレーマインドの浸透!)にも、西野朗監督の「匠のウデ」を感じていました。

 ところで、レイソルのフランサ。レイソルには、攻撃の最終プロセスについて、『フランサの世界』などと感覚的に表現される仕掛けイメージが確立しているのだとか。ナルホド、ナルホド・・

 これは、コーチにとって永遠のテーマだけれど、才能に恵まれたプレイヤーの、攻守にわたる全体的なサッカー内容に対する「組織的」な貢献度と、純粋に勝負「だけ」に徹する個人プレーの貢献度のバランスをどのように考えるのかというディスカッション・・。

 フランサという才能プレイヤーに対しては、守備や、ボールがないところでの組織的な(汗かきの)動きなどはほとんど期待できないけれど、ボールを持ったときの「魔法」が、「結果」という視点で、組織プレーを大きく上回る価値を持っているかどうかというディスカッションとも言い換えられるかな。

 フランサの場合は、たしかに、状況によって「ここ一発」のもの凄い価値を発揮する。準々決勝では、内容では完璧に凌駕されていたサンフレッチェに対し、延長に入ってから、まさに起死回生ともいえる決勝ゴールを挙げたし、FC東京と対戦したこの準決勝でも、エッというタイミングで勝負所に姿を現し、アレックスからのヘディングパスを受けて持ち込み、しっかりと相手GKの股間を抜いた同点ゴールをたたき出した。またフランサは、その数分前にも、大きなクロスボールを逆サイドで待ち受けてフリーシュートを打つというチャンスも作り出した。

 彼の場合は、動かないことで、結果として、逆に相手ディフェンスにとって「消えてしまう」ということになるんだろうね。ゲームが流れていくなかで、動かないフランサをマークするディフェンダーも油断する・・そして最後の瞬間に「爆発」してスペースへ入り込み、まったくフリーでシュートをきめてしまったり、そこを起点に決定的なパスが送り込まれたり・・。

 以前フランサが所属していたドイツ・ブンデスリーガの雄、バイヤー・レーバークーゼンのコーチも、彼についてこんなことを言ったことがあった。「ヤツは、動物的な勘をもっている・・もちろんチームメイトが、ヤツの才能について、自分たちにとって価値あるモノだと思わなければ、まったく役立たずの、邪魔なだけの選手ということになってしまうけれどね・・とにかく才能は、例外なく諸刃の剣ということだけれど、まあ、それをうまく活かせるかどうかも監督のウデの一部というだな・・」

 とにかく、石崎監督は、フランサを「勝負所」でうまく使っていると思いますよ。この試合じゃ、勝負を懸けた交替で送り込んだフランサと李忠成がゴールを挙げたしネ。それにしても、ちょっと出来すぎの采配じゃネ〜〜か!?

 ところで、ガンバ対マリノス。やはりガンバの疲れは、今でもピーク領域にあるということなんだろうね。もちろん、気合いの入った(動きの量と質でガンバを圧倒した)マリノスのプレッシングサッカーは素晴らしかったけれど、普通のガンバだったら「あそこまで」押し込まれつづけることはないでしょ。それに、攻撃でも、パス&ムーブがほとんど見られなかったしね。

 とはいっても、ガンバ守備ブロックが、マリノスの攻撃に「崩され切る」ことはなかった。要は、マリノスのコンビネーションで守備ブロックが振り回されたり、ウラのスペースを活用されたり、決定的ゾーンでフリーなボールホルダーが出現するようなシーンがほとんどなかったということです。それもまた、優れた「感覚的ディフェンスイメージ」の賜物。アタマの後ろにも「イメージ描写力という目」がついている・・ということだけれど、だからこそ彼らの守備プレーは、有機的に連鎖しつづける。

 マリノスは頑張りました。サッカー自体は本当に素晴らしいものだった。木村浩吉監督は良い仕事をしている。

 でも前述したように、ガンバ守備ブロックを、「崩し切る」ところまで追い込むシーンが希だったことも確かな事実だった。たしかに山瀬功治が出てきてからは、組織プレーに危険な個の勝負もミックスされはじめたことで「チャンスの質」は向上したけれど・・。

 ということで、ガンバとレイソルによって、天皇杯カップウィナーの称号と、来シーズンのアジアチャンピオンズリーグ出場権が争われる見所満載の元旦決戦。例によって、ラジオ文化放送で解説します。

 ガンバの疲労回復プロセスは如何に?・・その成功をベースに、運動量豊富な自分たちの攻撃的パスサッカーを復活させられるか?・・またレイソルでは、攻撃的な(そして互いのボール奪取イメージが素晴らしく有機的に連鎖しつづける)ディフェンスからの爆発カウンターだけじゃなく、前述した攻撃の核弾頭を、何時どのように活用するのかという石崎監督の采配は?・・などなど、見所満載じゃありませんか。

 とにかく、お互いに、とことんサッカーを楽しみましょう。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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