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2008_「ユーロ08」・・「組織」vs「個」という構図・・チェコ対ポルトガル(1-3)・・(2008年6月12日、木曜日)

「EURO_08」のグループリーグ戦。昨日は、なかなか興味深い対戦がありました。チェコ対ポルトガル。

 サッカーのタイプが違う二つのチームが対峙した興味深い「構図」を、言葉でうまく表現できるだろうか・・。自信はないけれど、とにかく自分自身のデータベースとして残しておくために「も」キーボードに向かった次第。何せ「そこ」には、世界に抗していく日本代表にとっても重要なテーマが内包されているからね。

 たしかに相手からボールを奪い返す守備のプロセスにも発想の違いはあるけれど、ここでは(焦点がボケるのを避けるために!?)攻撃プロセスだけに注目して論を(ちょっと大袈裟かな!?)進めようと思います。

 要は、あくまでも「組織プレー」を前面に押し出して攻めるチェコに対し、より「個の局面プレー」を強調してアプローチしていくポルトガルという構図。

 いつも書いている通り、攻撃の目的はシュートを打つこと。そして、これまた常に表現しているつもりですが、そのプロセスでの「当面の目標イメージ」は、ある程度フリーでボールを持つことです。要は、スペースを活用するということですが、そこに至るプロセスのタイプが、両チームでちょっと違うのです。

 ポルトガルには、デコとかクリスティアーノ・ロナウド(彼のドリブルはチェコ守備陣に完璧に抑え込まれていたけれどネ・・)、はたまたシモンとかヌーノ・ゴメスとか、テクニックに優れた才能が目白押し。それに対して、ロシツキーをケガで失ったチェコでは、目立った個の才能としては、もうミラン・バロシュしか残されていない。

 だからチェコは、なるべく局面での1対1の勝負(身体コンタクト)を避けるように、人とボールを活発に動かそうとする。そのためには、もちろん「人数」が必要になるわけだけれど、(個の才能を単純総計した)総合力で勝るポルトガルの攻撃を抑えるためにも(要は守備にも)人数が必要だから、どうしても攻撃の人数は不足気味になってしまう。それでもチェコは、カウンター以外でも、ポルトガルが全体的に下がったチャンスを「正確に見極め」て、しっかりと「サポート」が上がることで「数的に優位なカタチ」を作り出してしまうのです。

 たしかに、そのチャンスメイクの頻度は低い。でも、個々の強烈な「意志エネルギー」に支えられた「ここぞ!」のサポート(=ボールがないところでのリスクチャレンジの動き)が素晴らしいことで、一つひとつのシュートチャンスの「質」では、ポルトガルに肉薄するのですよ。

 結果として、個のチカラで勝るポルトガルが、ボールポゼッション(ボール保持率)やシュート数でチェコを圧倒したけれど、実質的な「決定的チャンスの質」という視点では、かなり差が縮まってくる・・。この現象は、数字としては明確には表現されてこないよね。もちろん「枠外」と「枠内」のシュート数という数字はあるけれど・・。

 あっと・・ここでは、攻めのプロセスのタイプの違いに焦点を当てるんだっけ。要は、攻撃の最終段階で、ある程度フリーでボールに絡めるような(≒スペース活用)シーンを演出するまでのプロセスの違い・・。

 ポルトガルの場合、例えばデコが(チェコ選手と対峙する状況で)ボールを持ったとします。もちろんシンプルにボールを動かすこと(要はパスを出すこと)の方が多いわけだけれど、それでも、たまにはボールをキープすることで「タメ」を演出したり、相手がボール奪取アタックを仕掛けてきたりしたケースでは、そのまま「アタックをかわす」ドリブルで相手を抜き去ってしまったりするわけです。

 そんな状況でのチェコ守備陣は、デコがドリブルで突破してくることまで想定して対処しなければなりません。要は「そのゾーン」に人数を掛けざるを得ないということです。そのことは、「そのゾーン以外のゾーン」でフリーになるポルトガル選手が出現してしまう頻度が高くなることを意味します。そしてデコは、そこへパスを出す。パスをもらった選手は、「ある程度フリー」で、仕掛けの起点として勝負を仕掛けていけるわけです。そこでは(ある程度フリーであるからこそ)ドリブル勝負やラストパスといった、最終勝負のオプションは多い。フムフム・・

 要は、ポルトガルの(ある程度フリーなボールの絡みシーンを演出するという)チャンスメイクプロセスでは、かなりの頻度で、(相手との身体接触も含めた)個人の局面勝負が基調になっているということです。

 そんなポルトガルに対し、チェコの場合は、ある程度フリーでボールに絡む「仕掛けの起点」を演出するために、パス&ムーブやフリーランニングといった「人の動き」が基調になる。要は、(相手との身体接触も含めた)個人の局面勝負を極力避けるような「組織パスプレー」が主体になるということです。

 このポイントが、コラムのメインテーマです。

 だから、現象的には、ポルトガルの場合は「足許パス」が多くなる。逆にチェコの場合は、動いている味方へのスペースパスが多くなる。

 ポルトガルの決勝ゴール(ロナウドがダイレクトで決めた2点目)シーンは、その典型だったですかネ。

 ・・中盤の高い左サイドゾーンでポルトガルがボールをキープしている・・細かな足許パスの交換と、巧みなタメやボールキープ・・そのゾーンに意識と動きが引き寄せられてしまうチェコ守備陣・・そのことで、その逆の前方右サイドでは、デコがフリーになっている・・そんな「まったく足を止めて待つ」デコの足許へ、案の定といった正確な足許パスが送られてくる・・そして素早いトラップから、間髪入れずに、中央ゾーンの猫の額のようなスペースに走り込むクリスティアーノ・ロナウドへのラスト・グラウンダー・クロスを決めるデコ・・目の覚めるような、グラウンダー・シュート・・

 その勝ち越しゴールは後半18分だったけれど、その後は、チェコが、本来の攻撃的な「組織プレー」を披露するのです。要は、ボールがないところでの(後方からの)サポートの動きを加速させることで「組織的な最終勝負の流れ」を加速させたということです。もちろんポルトガルにとっては、カウンターチャンス。そして、何度かチェコが同点ゴールのチャンスを作り出すのを尻目に、ロスタイムにだめ押しの三点目を決めたという次第。

 世界ランキングでトップ領域を極めた当時のチェコは、ネドベドやロシツキー、はたまたポボルスキーといった個の才能たちが、攻守にわたって、惜しみない組織的な汗かきプレーにも奔走した。だからこそ世界トップネーションとして敬意を払われた。ただ、個の才能が失われたとき、やはり限界が見えてくる。フムフム・・

 極論すれば、現代サッカーにおける世界のトップコーチに課せられた究極のミッションとは、才能連中に、いかに攻守にわたる汗かきをさせられるかという課題への取り組みに収斂されるといっても過言じゃないと思うのですよ。もちろん、チーム構想やトレーニング計画を練ったり、細かな戦術テーマの調整といった個人・グループ・チーム戦術的なミッション等の仕事が山積みであるにしても・・です。

 バルセロナのライカールトにしても、レアルのベルント・シュスターにしても、イビツァ・オシムさんにしても、モウリーニョにしても、アレックス・ファーガソンにしても、アルセーヌ・ベンゲルさんにしても・・(まだまだ、たんさんいるヨ)

 個の才能レベルが減退してしまったチェコ。とはいっても、組織的なチカラは(組織プレーのイメージシンクロレベル)まだまだ侮れない。だから、グループ最後のトルコ戦に勝って決勝トーナメントに進出してくれるに違いないと思います(そう期待するのです)。そう・・日本代表チームが志向する方向性のイメージリーダーとしてネ。

 この原稿には「不備」がたくさんあるように感じます。後で読み返して書き直したり補足することになるかもしれませんが、とにかくインターネットがつながっているうちにアップだけはしておきます。では・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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