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2008_「ユーロ08」・・見事な「意志のダイナミズム」でした・・ロシア対オランダ(3-1)・・(2008年6月22日、日曜日)

すごかったね〜、ロシア。もちろん、フース・ヒディンクの「ストロング・ハンド」ぶりも含めてね。

 シュート数ではなく、ゴールの可能性が高いチャンスの量と質という視点でも、まさに順当といえるロシアの完勝でした。特に延長に入ってからの圧倒的なサッカーは見事の一言。まさに、フース・ヒディンクが言う「自らアクションを起こしていくサッカー」そのものでした。

 そんな高質なチャンスを作り出すためには、しっかりと相手からボールを奪い返さなければ(しっかりとした守備を展開しなければ)ならないわけだからね、サッカーの総合的な内容で、完全にオランダを凌駕したロシアだったということです。はい、コラム終わり・・ってなわけにもいかないか。

 まず前回の「スウェーデン戦コラム」をご参照あれ。そこでのメインテーマは、日本代表が志向するベクトルの「先」にいるロシアという発想と、彼らが魅せつづけた強烈な「ロシアの意志」といったところでした。

 そのコラムで、ロシアが展開するサッカーの「現象面」はある程度カバーしたと思うので、ここでは、そのグラウンド上の現象のバックボーンについて、ちょっとコラムを深める(!?)ことにトライします。

 最初の視点が、数的に優位な状況をつくりつづけるロシア。とにかくロシアは、守備でも、攻撃でも、常に「頭数」で勝っているという印象だったのですよ。要は(攻守の目的を達成できそうな)チャンスとなったときの「サポートの量と質」で大会屈指だということです。そして、その現象の分析を深めれば、彼らが、肝心なところまでしっかりと「走り切っている」という事実が見えてくる。

 オランダと比較しても、チームの全体的な「移動距離」に大差はありません。ただ、その「内容」に大きな差異があったと思うのですよ。大雑把にくくったら、こんな感じになるかもしれない。ロシアが自らアクションを起こしていたのに対し、オランダは、どちらかといったらリアクション的な動きの方が多かった。相手に合わせるのではなく、自分たちのフットボールを貫いたロシア・・。

 またまた、「ヤフー・スポーツナビ」でコラムを発表しているヨーロッパ在住のフリーランス中田徹さんを引き合いに出すけれど、彼のコラムによれば、スウェーデン戦後のヒディンクが、「(スペインに)負けた後、チームには2つの方法があった。逃げるか、戦うか。選手は戦うことを選んだ。私はそのことを誇りに思う」と言ったとか。フムフム・・

 その言葉どおり、「闘うロシア選手たち」は、攻守の目的を達成するために、自らの意志で「最後まで」勢いを落とさずに「走り切っていた」のです。この、「しっかりと走り切る」という現象にこそ、イレギュラーするボールを(比較的ニブい)足で扱うという不確実なサッカーにおいて成功を収めるエッセンスが隠されています。しっかりと走り切らなくても(それでチームに不利益が発生しても)ミスとして目立たないのがサッカーだからね。

 よく見掛けるじゃないですか、まあ動いているようには見えるけれど、肝心なところで実効を伴わないような似非(えせ)アクション。

 マークはしているけれど、結局は最後のところでマークを離してしまったり、チェイス&チェックはするけれど、結局は忠実さ(ねばり強さ)が足りないために周りの味方も「次のボール奪取」を狙えなかったり(味方ディフェンスにとっては逆に邪魔なだけのアクション!)、また自分自身がボールを奪えるのに、スライディングせずに足を出すだけだったり・・等々。要は、アリバイ守備プレー。

 攻撃でも、自分がスペースでパスをもらえる状況に「しか」走らなかったり、パス&ムーブをやらなかったり・・等々。もちろんその「動き」は、全力ダッシュでなければ役に立ちません。とにかく、攻守にわたる「全力ダッシュの量と質」こそが意志の象徴・・なのです。意志さえあれば、おのずと道は見えてくる・・けれど、(チームワークに対する)意志が足りない選手は、自分のカッコいいプレーしか見えていないだろうし、チームにとって(攻守の目的達成にとって)邪魔なだけの存在・・。

 もちろん、ロシアが、なるべく高い位置でボールを奪い、そこから(なるべくパスなどの手数を掛けずに)サイドゾーンを活用しながら素早く相手ゴールに迫るというチーム戦術的イメージを徹底的に追求していたことは周知の事実です。

 そのことは、オランダの方が圧倒的にパスの数が多かったという事実が如実に物語っています。仕掛けに手数を掛けるオランダ。それに対して(カウンター気味に)蜂の一刺しを繰り出しつづけるロシア。

 またロシアの場合、カウンターチャンスに、何人もの選手が「全力ダッシュ」でサポートし、ボールを奪われたら、またまた全力ダッシュで戻っていくような「タテの往復動作」を繰り返していたことも確かな事実です(特にキャプテン、セマクの実効ある運動量には舌を巻く・・まさに隠れたヒーロー!)。そんなサポートが、彼らのカウンターの危険度を極限まで引き上げた。

 とはいっても、闇雲に人数を掛けるというのでもありません。数的に優位な状況を作りつづけるとはいっても、物理的に不可能ならば(「その後」に無理が生じそうになったら)人数とポジショニングの「バランス」をしっかりとマネージするような、クレバーでメリハリある「対処戦術的なプレー」も魅せるのですよ。それもまた、スペイン戦での大敗から学習したということでしょうね。

 チーム全体が一糸乱れぬダイナミックな動きを魅せつづけたロシア。もちろんそこには、選手の「意志のチカラ」を高揚させ、それを最高潮に維持しつづける、フース・ヒディンクの優れた心理マネージメントという「魔法」もあった。

 攻守にわたり、全員が「連動して動かなければ」意味がない・・それも、ぬるま湯ではなく、強烈な意志を込めた「全力ダッシュ」の積み重ね・・一人の例外もなく・・そこには、アリバイプレーなど一切ない・・強烈な意志のチカラ・・だからこそ、チームとして機能する・・だからこそ、ヒディンク・・だからこそ、大会のなかでの信じられないほどの成長もあった・・

 それにしてもオランダ。何度か、ロシアを押し込んだ時間帯がありました。そこには、人とボールがスムーズに動きつづける組織プレーの流れに、タイミングよく危険な個の勝負プレーを挿入するような、我々がオランダに期待する「創造性クオリティー」がありました。やっぱりオランダの地力はすごい・・。そう感じたものでした。

 でも結局は、ロシアがブチかましつづけた「意志のダイナミズム」に、自らの意志が呑み込まれてしまったオランダ。実力では明らかに大会随一だったと思います。だから、残念でもありました。いまのオランダが、ロシアくらい走り、闘ったら、まさに無敵・・だよな〜〜。

 何か文章にまとまりがないように感じます(いつものことか!?)。寝不足で(!?)キーボードに向かっても「発想の広がり」に限界を感じるのですよ。フ〜〜。さて、これから埼玉スタジアムへ向かいます。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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