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2008_ヨーロッパの日本人・・中村俊輔と稲本潤一・・(2008年9月1日、月曜日)

久しぶりの「ヨーロッパの日本人」コラム。まず、中村俊輔から。

 いいね、前節のフォルカーク戦でも、今節のグラスゴーダービー(レンジャーズ戦)でも、忠実な組織プレーと、冴えわたる個人勝負プレー(ボール絡みの魔法)が素晴らしくバランスしつづけていた。

 まあ、昨日のレンジャース戦では、相手の当たりが(例によって)尋常じゃなかったから、フォルカーク戦のように(ボール絡みの局面プレーで)自由自在というわけじゃなかった。彼自身も、立ち上がり数分でのアフタータックル(パスをした後の、意図的な脅しアタック)で吹っ飛ばされた瞬間に、この試合が持つ特別な雰囲気を思い出していたに違いない。

 何せ、昨シーズンのグラスゴー・レンジャースは、手が届いていた全てのタイトルを最後の最後で「全て」失ってしまっただけじゃなく、彼らにとってもっとも重要なタイトルであるスコットランドリーグでは、憎き(!?)地元ライバルに大逆転劇ドラマを完遂されてしまったわけだからね。中村俊輔にも、何度も手痛い目に遭わされたし・・。

 だから、中村俊輔の「いま」を計るうえで、レンジャース戦はとても参考になりました。そして全体的な印象として(2-4という大敗を喫してしまったにもかかわらず)冒頭の「いいね・・」という表現が出てきたのです。

 とにかく守備意識が素晴らしい。「互いに使い・使われるメカニズム」をしっかりと理解しているからこそ、ボール扱いが上手いだけのサーカス選手(まあサッカー用語じゃボールプレイヤーなどと言われる)じゃないということをエネルギッシュにデモンストレーションできるわけです。味方からの信頼の対象が「広く」そして「深いものになる」のも道理。

 その信頼は、彼へのボールの「集まり方」に明確に表現されています。味方のボールホルダーが俊輔を「探す」のは自然な流れだけれど、そこでは「次のパスレシーバー」もまた、俊輔へのパスが送られると同時に「次のアクション」を起こしているのですよ。俊輔に対する信頼コンテンツは、本当に広く、深い。

 攻撃での彼は、様子見になることなく、常に動き回ってチャンスを狙っている。自らスペースへ入り込んでパスを受け、ドリブル勝負やタメを演出する「仕掛けの起点プレー」だけではなく、自分が「壁」になって味方をスペースへ送り込むコンビネーションの「コア」になる起点プレー、はたまた、前戦での(ボールを奪い返した)相手の最初のパスのインターセプトを狙う「究極のカウンター返しプレー」や、味方がボールを奪われることを想定したサポートの動きなどなど、とても魅力的です。

 実際に、前戦でのパスカットから自らシュートまで行ったシーンや(相手に身体に当たってしまった!)味方が奪われたボールを次の瞬間に「再び」奪い返し、そこからノーステップで正確なクロスボールをサマラスへ送り込んだシーンなど、実効レベルがとても高い「個&組織のバランス勝負プレー」を披露してくれる。

 コンビネーションのコアになる起点プレーにしても、局面でのボールコントロールが「一味」違うから(ジネジィーヌ・ジダンのテイスト!)相手の予測のウラを突くような流れを演出できるし、観ている方にとっても魅力的なことこの上ありません。

 まさに、攻守にわたる泥臭い(忠実な)実効プレーと、攻撃での魅惑的な「魔法プレー」のハイレベルなコラボレーション・・ってな感じ。

 ハイレベルな魔法プレー。それは、彼が「逃げない」からに他なりません。彼は、常に、リスクにチャレンジしていく攻撃的なプレー姿勢を志向しているのですよ。

 もちろんボールを持った状況で相手に取り囲まれたら、スッという横パスで逃げたりすることもあるけれど、一対一の状況で「横パスに逃げる」ことはほとんどありません。常に相手に突っ掛けていく。だからこそ、ドリブルで抜け出したり、味方とのワンツー&スリーコンビネーションを駆使して決定的スペースを突いていけるのですよ。

 この攻撃的なプレー姿勢は非常に大事な資質です。誰もが「勝負!!」と思っている状況で、ビビッて横パス(安全な責任回避パス)を出して足を止めてしまうような、才能あるテクニシャン・・なんて呼ばれて「勘違いしている選手」。いるよね。ホントにアタマにきますよ。

 もちろん「たまには」誰にも真似できないような美しい個人勝負プレーを魅せることもあるけれど、こちらは「常に」失敗を恐れずにチャレンジしていくことを期待しているわけだし、そこにこそ「その才能プレイヤーの価値」があるわけだからね。

 失敗する確率が低いとき「だけ」カッコつけるような「意気地のない才能」。そんな選手に限って、攻守にわたる汗かき(クリエイティブなムダ走り)などに代表される全体的な貢献度(実効レベル)は、「普通の才能」の選手に比べて低いものなのですよ。そう、チームにとって邪魔なだけの存在!

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 ということで稲本潤一。久しぶりに日本代表に招集されました。さて・・

 まだまだ私にとっては疑問符のオンパレードだね。もちろん局面での強さは(ボール奪取勝負の内容では)日本トップレベルだろうけれどね。でも、攻守にわたる「ダイナモ(発電器)」としての機能も果たさなければならない守備的ハーフとしては!?

 たしかに、ボール奪取勝負のポイントの「絞り込み」という視点ではクレバーなポジショニングをしますよ。要は、インターセプトや相手がトラップした瞬間にアタックを仕掛けるという(次の!)ボール奪取勝負を狙うディフェンダーという点ではなかなか良いと思うのですよ。でも守備的ハーフの仕事は、それだけじゃない。

 一番大事な仕事は、何といっても「守備の起点」になること。要は、チェイス&チェックに代表される、中盤ディフェンスでの「汗かきプレー」の量と質。その視点では、これまで何度も繰り返してきたように、稲本の守備プレー内容にはダイナミズム(活力・迫力・力強さ)が足りない。また状況によっては、一度捉えた相手を最後の最後までマークし続けるというねばり強さも必要だしね(この試合でも、何度か、最後のところでマークが甘くなったシーンがあった!)。

 フランクフルトの場合は、ポジショニングバランス・オリエンテッドな守備のやり方だから(だからマークの受け渡しが頻繁に起きる)周りの味方との協力作業というニュアンスが強いことで、自分のポジショニングのバランスを考えることが先決のような感じだね。でも日本代表の場合は、それじゃ足りない・・というか、基本的な発想が違う。

 日本代表の守備的ハーフは、物理的にも、心理・精神的にも「安定したエネルギー供給源」でなければならないのですよ。ダイナミックなチェイス&チェックを繰り返しながら守備の起点になるだけじゃなく、ダイナミックなディフェンスを繰り返すために味方を叱咤激励したり・・とかね。

 その視点で、稲本潤一のプレーには、味方をリードしていく「パワー」が感じられないのですよ。いま日本代表の中盤に(特に守備的ハーフに)求められているのは、何といっても(物理的&心理・精神的の両面というニュアンスの)リーダーシップだからね。

 ただ、稲本潤一の、局面でのボール奪取勝負(競り合い)の強さや、ボールを持ったときの安定したプレーぶりは頼りになる。いっそのこと最終ラインで試したらどうだろうか。以前にも、そんなアイデアを書いたことがある。足許でもヘディングでも、その競り合いの強さは確かに「世界レベル」だし、ボール扱いについてもかなりのレベルにあるわけだからね。

 とにかく稲本潤一には(フランクフルトでレギュラーポジションを奪い取るためにも!)もっともっと積極的に、攻守にわたって「クレバーに仕掛けていくプレー姿勢」を期待する筆者なのです。もっと、もっと静かに燃えろ!

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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