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2008_日本代表・・カタチ(ステレオタイプ発想)からの解放・・(日本vsボスニア・ヘルツェゴビナ、3-0)(2008年1月30日、水曜日)

「前半は、プレスが弱いこともあって(余裕を持てたから)相手のペースに合わせてしまった・・キレイなカタチをイメージし過ぎていた・・ハーフタイムでは、それではゴールを奪えない・・キレイごとではなく、勝負に徹し、しっかりとゴールを奪いにいかなければならない・・ゴールを奪うんだという強い気迫と強い意志が必要だと強調した・・後半は、徐々に左右のスペースを使えるようになった・・そしてタイミングよく、CKから先制ゴールを挙げることができた・・そこから(コンディションの悪い)ボスニアの足が止まり気味になっていった・・」

 岡田監督は、そんなニュアンスのことを言っていた。私は、キレイごとではなく、ゴールを奪うためには泥臭いプレー(粘り強く、ボールがないところでの汗かきプレーを積み重ねていく強い意志)も必要だという岡田監督の言葉に、深く納得し、ホッと胸をなで下ろしていた。やっぱり岡田武史は(高いインテリジェンスを基盤に)発想を柔軟に組み合わせることが出来るプロコーチだ・・。私にとってその言葉は、もっとも聞きたかった表現の一つだったのです。

 チリとボスニア・ヘルツェゴビナのサッカー内容がまったく違うモノだったから単純に比較することは出来ないけれど、たしかにチリ戦では(相手のプレスに押される状況がつづいたこともあって!?)カタチにこだわり過ぎていた(≒戦術コンセプトというエクスキューズに逃げ込んでいた≒未必の故意というマインドもあった)という印象が強く残ったのですよ。

 ボールを持った選手が、「さて、ここから数的に優位な状況を作り、狭いゾーンのなかでパス&ムーブを繰り返すことで(接近)、相手守備が薄くなった逆サイドを突いていくぞ(展開)」というイメージが先行し「過ぎて」いた。だから、一瞬の「様子見や躊躇」が、スムーズな仕掛けの流れ(スタート)を塞き止めたと思っているのです。だからこそ「やり直そう」という逃げに入ってしまったシーンが続出した!?

 ここでちょっと、「接近プロセス」について、わたしのイメージを言葉で表現することにトライしてみることにします。たぶんベーシックなプレーイメージは、こんな感じでしょう。

 素早いパス&ムーブ(タテ方向のボールの動き)を基盤に、出来るかぎりダイレクトで、相手選手の「眼前スペース」へ、どんどんとボールを展開していく・・だから、ダイレクトパスには出来る限りバックスピンを掛ける・・またそのパスは、スペースを視認してからでは遅いから、とにかく「まず出す」という発想がベース・・

 ・・ということで、そのパスがミスになったら、それは、走り込まなければならなかった味方の「ミス」だという発想になる・・またタテパスを受けた味方は、迷うことなく、イメージされた横のスペースへダイレクトパスをつないで「次のアクション」を起こし、そのパスを受けた味方は、これまたダイレクトでタテへ展開して次のムーブへ入っていく・・流れるようなコンビネーション・・そうなったら、もちろん相手も、そのサイドに寄せて来ざるを得ない・・そして「展開」のチャンスが・・

 でも、そんな「接近」仕掛けコンビネーションを常にスタートできるとは限らない。味方との関係でうまく「キッカケのタテパス」を出せないとか、リスクチャレンジに自信がないとか(中途半端な逃げのアクションが、足が止まり気味になる悪魔のサイクルを呼び寄せる!)、チリ戦やボスニア戦での前半では、どうも「様子見や躊躇」のマインドが目立っていたのですよ。だから、うまく「流れ」を演出することができなかったし、無為な「横への展開」が目立っていた。もちろん、何本かは、素晴らしいサイドチェンジからチャンスを作り出したけれどね。

 「キレイなカタチ」ばかりをイメージし過ぎていた日本代表。それは、戦術コンセプトを意識し過ぎることでの、リスクチャレンジマインドの減退(逃げマインドという心理ビールスの活性化!)なんて表現できるかもしれない。そんなときに、岡田監督が動いたのですよ。キレイごとではない・・泥臭いプレー・・強い気迫と強い意志・・。そして日本代表のプレーも「動き」はじめた。

 とにかく、チャンスがあれば、接近状況など関係なく、ズバッ!と味方の最前線へタテパスを出す・・そしてパス&ムーブのサポート・・接近コンビネーションが出来なくても、そこから次、その次へとボールを動かしていく・・それによって、もちろん人も動くようになるし、スペースも効果的に使えるようになる・・そのことによって、ダイナミズムが善循環をはじめる・・。

 やっぱり「カタチ」から入ったら、確実に選手のマインドは停滞してしまうものだよね。攻撃の原則は、シュートを打つという目的を果たすために、豊富な運動量と高い守備意識をベースに、人とボールを活発に動かすことで、出来る限り数的に優位なカタチを演出しながら、組織的にスペースを攻略していく・・というイメージなのですよ。決して「接近コンビネーション」を展開することが目的じゃない。

 ということで、このゲームのキーワードは、「カタチからの解放」ということだったですかね。岡田監督の「フレキシビリティー(柔軟なインテリジェンス)」が発揮されたということです。さてこれでタイ戦が楽しみになってきた。これからは、出来る限り代表チームのトレーニングも観察しに行こうと思っています。それでは・・

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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