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2008_日本代表・・中東とのフィジカルの差を、いかに「組織」でカバーしていくのかというテーマ・・(バーレーンvs日本、1-0)(2008年3月26日、水曜日)

フ〜〜ッ・・。まあ仕方ない。

 失点シーンでクロスを上げた相手選手のプレーを、オフサイドだったとか(トラップが)ハンドだったなどと言ったって何も生まれない。それよりも、川口能活の中途半端なプレーを反省すべき。この試合での川口のプレーは、本当に良くなかった。前半でも、(飛び出さなければならない状況で)中澤との意志の疎通がうまくいかずに大きなピンチを招いたり(川口が、大声の指示とともに飛び出してボールを確保すべきだった!)、コーナーキックをキャッチしそこなったりと、ミスを重ねていた。

 ある一瞬に「極大」の集中力を発揮することが要求されるゴールキーパー。彼らに求められる心理・精神的な「容量」は並大抵のものじゃない。だから、ミスがミスを呼ぶという心理的な悪魔のサイクルにも陥りやすい(一つのミスによって心理的に不安定な状態に陥りやすい)。だからこそゴールキーパーには「年輪」が求められる。川口能活には、そんな「ベテランの味」が期待されているのに・・。

 川口能活は、ビデオを何度も見直し、そのシーンをイメージしながらハードトレーニングを積み重ねることで「トラウマ」を解消する努力をしなければいけません。人間は、失敗からしか学べないモノ。だからこそ、脅威と機会は表裏一体なのです。

 ということで試合の「ポイント」だけれど、私は、何といっても遠藤保仁(ヤット)に注目したいですね。彼が登場したことで、明らかにゲームの流れが変わったからね。彼が交替出場したことで、日本代表チームが再びゲームのイニシアチブを握れるようになったのですよ。

 まず遠藤ヤットが登場するまでのゲームの流れを把握しておきましょう。ゲーム立ち上がりの時間帯は、日本がペースを握っていました。そんなポジティブな流れを観ながら、こんなことを思っていました。

 やっぱり日本とバーレーンでは「ボールの動きの量と質」が違う・・チーム戦術的なチカラでは、やはり日本の方が数段上・・要は、日本の組織パスプレーはバーレーンを完全に凌駕しているということ・・その基盤は、言わずと知れた「ボールがないところ」での人の動き・・守備においても、攻撃においても・・

 ・・バーレーンのボールに「活発な動き」が出てこないから、日本のボール奪取が効率的にいくのも道理・・たしかに、スピードとパワーでは(フィジカルでは)バーレーンに一日以上の長があるけれど、それにしても、日本を凌駕できるレベルにあるというわけではない・・結局は、中東は変わらない(変われない)ということか・・なんてことを思っていたのですよ。ところが・・

 でも、前半も15分を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなっていく。バーレーンの「パワフルでラフ」な守備がうまく機能しはじめ、今度は彼らがゲームの主導権を握りはじめたのです。まあ、それには、グラウンド状態が悪く、日本のパスサッカーがスムーズに連鎖しなくなっていったという側面もあっただろうね。徐々に「人とボールの動き」が鈍くなったことがバーレーンを勢いづかせてしまったという見方もあるということです。

 そして、うまく回りはじめた守備をベースに、バーレーンの攻撃に勢いが乗っていく。力ずくの(個の)仕掛けドリブルや、(個人勝負をベースにした)思い切りのいいロングシュートなどなど。もちろん日本守備ブロックがウラスペースを突かれるというシーンはないけれど、「力ずくのサッカー」に日本が押し込まれるという不安なゲーム展開がつづくのです。

 後半の立ち上がりには、左からのクロスボールを飛び出した川口が確保し切れず(キャッチングミス!?)そのこぼれ球から「ポスト直撃シュート」を打たれてしまうといったジリ貧の展開がつづくのですよ。

 そんな状況で、山瀬功治との交替で投入されたのが遠藤ヤットだったというわけです。後半の11分だったから、岡田監督は、後半立ち上がりの流れが好転しないことを確かめた上で早々に決断したということでしょう。的確な采配でした。

 遠藤ヤットの登場で、何が変わったのかって? それは、中盤のダイナミック・トライアングル(鈴木啓太、中村憲剛、遠藤ヤット)が再び結成されたということです。それによって、中盤での攻守にわたる相互信頼ベースも確立した。このことについては、東アジア選手権で、日本代表のコアメンバーについて述べた「このコラム」を参照してください。

 遠藤ヤットが入ったことで、彼とのタテのポジションチェンジに関して「あうんの呼吸」がある中村憲剛の「上下動」にも勢いが出てきたというわけです。どのタイミング(状況)で遠藤とタテにポジションをチェンジすべきかを、中村憲剛は完璧に理解しているのですよ。もちろん、遠藤ヤットの「優れたパスセンスや守備意識」に対する絶対的な信頼もあるから、後ろ髪を引かれることなく最前線へ飛び出して行ける。それが「攻守にわたる相互信頼ベース」の意味合いです。

 この試合では、鈴木啓太が、相手の攻撃のキーマンである「4番」をマークしていたから、そのカバーリング(守備での穴埋め作業)も意識しなければならなかった中村憲剛にとっては、遠藤ヤットの攻守にわたる高いマネージメント能力は、この上なく頼もしいモノだったに違いありません。

 あっと・・。誤解を避けるために付け加えておきますが、ここで取り上げたポイントでは、決して山瀬功治のパフォーマンスが悪かったという意味合いを内包したつもりはありません。そうではなく、これまでに、鈴木と中村と遠藤によって構成される「ダイナミック・トライアングル」が培った「相互理解と相互信頼」こそが、いまの日本代表チームの「組織的な機能性」の絶対的な基盤になっているということが言いたかったわけです。

 要は、遠藤ヤットが入ったことで、日本代表のミッドフィールド(中盤)に心理的な基盤(複数のプレーイメージが有機的に連鎖する状況)が再構築され、そのことで、攻守のダイナミズム(活力・迫力・力強さ)が大きく増幅したということです。

 サッカーは、意識と意志の内容によって、チーム戦術的な機能性やパフォーマンスに雲泥の差が出てしまうような「ホンモノの心理ゲーム」ということです。

 ところで遠藤保仁。思うところがあって、彼のプレー内容について、先の東アジア選手権も含め、ビデオで何試合か観察しました。

 たしかに彼のプレーには「冷静に過ぎる雰囲気」があるし、攻守の目的を達成しようとする「強烈な意志の発露」としての全力ダッシュもあまり目立たない(クリエイティブなムダ走りも目立たない!?)。要は、彼のプレースタイルが、あまり動かずに様子見になったり、トロトロとジョギングしている(闘う意志が前面に押し出されてこない!?)という印象を持たれ易いということです。

 でも実際は、ちょっと違う。(攻守にわたり)必要な状況では、全力ダッシュで必要な局面へ急行して勝負アクションを繰り広げるし、ボールがないところでも、しっかりと動いて効果的な仕事をしている(この試合でも、ボールがないところで抜け出す相手を最後まで全力マークしたり、攻撃でも、自ら決定的スペースへ全力で抜け出すシーンがあった!)。もちろん、攻守にわたるボールがないところでのプレーや、ボール奪取勝負での「粘り」などにはまだまだ不満はあるけれど・・。

 かなり舌っ足らず。別の機会に、遠藤ヤット独特のプレー(プレーリズム)について、もっと明快に分析することにトライしますので・・。

 さて日本代表。この試合でも、中東とのフィジカルの差を、いかに「組織」でカバーしていくのかというテーマにおいて、まだまだ道半ばであることを強烈に認識させられました。要は、悪い流れになったときに、いかにチームの意志を(主体的に)統一し、一人の例外もなく積極的にプレーしていくのか(リスクへチャレンジしていくのか)というテーマのことです。優れたサッカーは、有機的な(積極的な)プレー連鎖の集合体・・なのです。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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