トピックス
- 2008_日本代表・・「リアリスト」岡田武史監督の面目躍如といったゲーム展開でした・・(タイvs日本代表、0-3)・・(2008年6月14日、土曜日)
- 「我々が日本を怖がっていたかって? いや、そんなことはない。日本は、立ち上がりから素晴らしいプレスを仕掛けてきた。それが(タイチームが)自分たちのプレーを展開できなかったことの要因だった。とにかく日本は、立ち上がりから素晴らしいサッカーを見せつけた。この結果は、順当なものだったと思う」
タイ代表のポルチョヴィン監督が、私の質問に対し、そう真摯に答えてくれました。まあ、そういうことだね。また岡田監督も、こんなニュアンスのことを言っていた。「立ち上がりから、我々が志向する積極的なサッカーが出来た・・特に(協力)プレスディフェンスが素晴らしく機能した」
まさに両監督が言うように、こちらも安心して観ていられるくらい、日本が完璧にイニシアチブを握る展開でゲームが立ち上がったのですよ。
ただ、日本が完全にイニシアチブを掌握していたとはいっても、人数を掛けて固めるタイの守備ブロックを崩し切るところまでは簡単にもっていけない。要は、ウラのスペースを上手く攻略できず、最後のところで二の足を踏むといった流れがつづいたということです。
岡田監督も、ゲームのイニシアチブを握ることについては想定できても、その展開を実際のゴールに結びつけられるかどうかというポイントについては確信を持てなかったというニュアンスのことを語っていた。そして、「そんなゲーム展開の可能性も想定し、次の手段は考えていた・・」とも言っていた。まあ、矢野貴章を交替出場させるだけではなく、状況によっては、トゥーリオ&中澤を上げて空中戦を挑んでいく・・なんていう最終手段のことなんだろうね。
ただ実際は、緻密なトレーニングを積み重ねていた(!?)セットプレーから続けざまに2ゴールを叩き込んでしまうのですよ。最初は、遠藤ヤットと中村俊輔のパス交換から、最後は、遠藤ヤットが、ファーポストスペースで待ち構えるトゥーリオへ向けて正確なラスト・クロスを送り込んだ。また二点目も、遠藤ヤットのコーナーキックを、今度は中澤がドカンッ!とヘディング一閃。
本当に目の覚めるような素晴らしい両ゴールでした。このゴールには、言うまでもなく、岡田監督の、リアリスト(現実主義者)としての明確な意志が表現されていたのです。たぶん彼は「夢を見るためには、インフラストラクチャーをしっかりと整備しなければならない・・」と考えているはずです。
・・ギリギリの勝負になったら(どうしてもゴールが必要になったら)、そこで可能性が高いのは何といってもセットプレー・・日本代表には、遠藤ヤットや中村俊輔といった、レベルを超えた高い能力を有するキッカーがいるし、トゥーリオや中澤といった、アジアでは屈指の、空中戦に強い強者もいる・・
・・セットプレーは、サッカーのなかでは唯一「最終勝負イメージを正確にプラン」できるプレー・・その「イメージ・シンクロ・レベル」を、チーム全体がしっかりとした確信を持てるようになるまで高揚させなければならない・・また、そのイメージが確立すれば(チームの確信レベルが十全の域まで達すれば)、そのことがチームに余裕をもたらし、流れのなかでの仕掛けにも良い効果をもたらすに違いない・・そう、人々に夢を与えられるような美しい仕掛けプロセスにしても、セットプレーという「心理的な後ろ盾」が確立していれば、その実効レベルを引き上げることも出来るはず・・などなど・・
とにかく、このゲームにおける(ゴールなどの)勝負の展開には、岡田武史監督の、現実主義者としての面目躍如たるものがありました。あっと・・、誤解を避けるために、もう一度くり返すけれど、そのプラグマティックな(実利主義的な)現実主義は、あくまでも、サッカーの美しさを体現するためのインフラストラクチャーなのですよ。
ということで、ここからは、二つだけテーマをピックアップし、簡単にコメントを述べることにします。
まず松井大輔。素晴らしい才能に恵まれたフットボールプレイヤーです。昨年の(オーストリア)クラーゲンフルトでのプレー内容は、正にインプレッシブそのものでした。
・・忠実でダイナミックな(汗かきも含む)守備参加・・ボールがないところでのスペースランニングの繰り返し・・そしてボールを持ったら、まずシンプルにパスを回して、すぐに次のスペースへ動き、そこからチャンスを見計らったドリブル勝負を仕掛けていく・・その最終勝負プレーが相手にとって危険だからこそ、ドリブル突破とラストパスという複数のオプションを演出できる・・などなど・・
ただ、岡田ジャパンでのプレー内容は、当時のダイナミズムからすれば、かなり減退したという印象を強くするのですよ。
たしかに(岡田ジャパンで)試合をこなしているうちに、徐々に、守備や、攻撃でのボールなしのプレーにも勢いが乗るようになっていきました。また中村俊輔との「シンプル」なパス交換にも、それなりの「イメージ・シンクロ」が感じられるようになってきている。
とはいっても、私は、まだまだ不満。何といっても、ドリブル勝負で、相手守備ブロックをズタズタに切り裂くようなシーンが、未だ全く出てこないのが気に掛かる。彼の持ち味や周りの期待感のコアは「そこ」にあるはずだし、彼自身も、そんなドリブル勝負が出てこないことにフラストレーションを溜めているに違いない。
もちろんその原因は、組織的な組み立てプロセスでのコンビネーションプレー内容が、まだまだ甘いからに他ならない。
ボールがないところでのスペースランニング(パスレシーブの動き)が足りない・・バス&ムーブも不十分・・またボールを持ったとき、不必要に時間を掛けるシーンが多すぎる・・また守備でのチェイス&チェックが甘いから、味方に頼りにされない・・確かにボール扱いは天才的だけれど、そんな自分の持ち味を出せず、結局は相手のプレッシャーに対して、横パスやバックパスで逃げ、そして足を止めてしまうというシーンが繰り返される・・などなど。
たしかに守備でも、相手ボールホルダーやパスレシーバーを「追い掛けはする」けれど、最終的なボール奪取を「自分ができない」となると、その忠実な守備アクションがいい加減になってしまう傾向が強い。たぶん彼は、自分が犠牲になることで、次のシーンで「味方にボールを奪わせる」という裏方の守備プレーには喜びを感じないんだろうね。ちょっと困りものだ。彼は、中村俊輔の忠実ディフェンスプレーにも注目すべきだね。
とにかく、松井大輔については、自分の持ち味を活かすためにも、もっともっと、攻守にわたって「汗かきの組織プレー」にも精進しなければならないと思っている湯浅なのですよ。
もちろん、どんな状況でも、ボールを持ったら少なくても相手一人は抜き去ってしまえるだけの強力なドリブルを繰り出していけるならば誰も文句なんて言わないよ。それは完璧な武器だし、味方も「それ」を頼りにするからね。松井のドリブル勝負をサポートするために、周りの味方は、どんな汗かきでもいとわないでしょ。でも実際は、まったく違うのですよ。松井は、その「事実」をもう一度しっかりと考えるべき時にきていると思っている湯浅なのです。
ちょっと松井についてのコメントが長く鳴りすぎたけれど、もう一つのテーマが、相手守備ブロックの「ウラスペース」を攻略する組織的なコンビネーションということになります。
たしかに日本代表は、前半からゲームのイニシアチブを握っていた。ただ、流れのなかからの組織的なチャンスメイク(ウラのスペースの活用!)という視点では、前述したとおり、うまく機能していたとは言い難い内容だった。
ただ、後半の25分あたりに、中村憲剛と矢野貴章が登場してきてから、状況がガラリと変わる。松井大輔と中村俊輔との交代だったのですが、それだけではなく、中盤での守備の「抑え」が効かなくなりはじめたと感じた岡田武史監督は、香川に代えて今野を投入するのです。これで、その後のゲームの流れは完璧になりました。
要は、中村憲剛と遠藤ヤット、そしてその後方にポジションする守備的ハーフコンビの長谷部誠と今野が、まさにダイナミックという表現がピタリとあてはまるような「カルテット構造」を演出してしまうのです。そこで展開された軽快な人とボールの動きは、もちろん両サイドバック(駒野と内田)をも刺激するのです。
そこから日本代表が展開した、人とボールが素早く・広く動きつづける美しい組織プレーは、まさに秀逸でした。そして、それまでには見られなかった組織コンビネーションで、何度もタイ守備ブロックのウラスペースを攻略してしまうのです。そして、そのうちの一つが、中村憲剛の三点目となった結実した。
ここで、また注釈。ゲームの終盤だから、タイの守備ブロックが疲れ切っていたのは確かな事実だったということと、中村俊輔と松井大輔が抜けたことが、組織プレー活性化の背景にあったというニュアンスでは「ない」こともご確認ください。この「現象」は、あくまでも(偶発的なモノも含め)様々な要因が重なり合った結果だったということです。
それにしても、ケンゴとヤットがコアになった爽快な組織プレーではありました。帰国してから、その時間帯における組織プレーイメージの「活性化現象」を再確認するのが今から楽しみです。
あっと・・ヨーロッパ選手権(EURO_08)がはじまった。今日はまずスウェーデン対スペインからです。時間がないから、文章を読み返しません。乱筆・乱文・誤字・脱字のオンパレードでしょう。ご容赦アレ。ではまた・・
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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