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2008_日本代表・・このコラムの主題は、中村俊輔とトータルフットボールといったところかな・・(オマーンvs日本代表、1-1)・・(2008年6月7日、土曜日)

そのとき、中村俊輔が(一気に2速)シフトダウンしてフル加速に入った・・ドリブルする相手を追い詰めるチェイス&チェック・・その追い詰めアクションに(確か・・)遠藤ヤットも参加してくる・・全力チェイス&チェックからの(相手の前への勢いを抑制できたからこそ仕掛けられる)協力プレス・・

 ・・そして最後は、俊輔が、例によっての「スリ感覚」で足をチョンと出してボールを奪い返してしまう・・俊輔には、相手の「次の」ボールコントロールアクションが明確に見えているに違いない・・だから「チョン」で、相手のボールコントロールを壊滅的に攪乱できてしまう・・フムフム・・

 この試合での中村俊輔の(物理的&精神的な)充実ぶりは頼もしい限りだった・・だからこそ俊輔には(チーム内タスクという視点で)次の段階へステップアップして欲しい・・というのが、私のコラムのスタートテーマなのです。

 俊輔のプレーの充実ぶりは、まさに全方位でした。ボール絡みの「魔法」にしても、ボールがないところでの、サポートやパスレシーブの動きの量と質にしても、また何といっても、ボール絡み&ボールなしの状況における実効ある守備コンテンツにしても(何度スライディングでボールを奪取したことか)。

 中盤でのコマンダーは、もう彼しか考えられない。俊輔は「そんなこと」は好きではないのだろうけれど、日本サッカーのために(そして彼が、深い本格的な意味で日本サッカーの歴史に名前を刻み込まれるために!)そろそろ一肌脱ぐという覚悟を決めなきゃいけないと思うのですよ。そう、ホンモノのリーダーシップを目指して・・

 ホンモノのリーダーは、ゲームが厳しい展開になればなるほど、味方を叱咤するといった「ポジティブな刺激」を与えつづけるなど、存在感を発揮する・・例えば、怠惰な「アリバイ守備」を見つけたら、殴りかからんばかり勢いで諫(いさ)めたり、味方の「目立たないスペースランニング」に対しては、心から感謝したりする・・また、中澤やトゥーリオに代表される、闘魂が込められたギリギリの「局面勝負」には、心からの敬意を表し、それをチームの雰囲気に反映させる・・などなど。

 中澤とトゥーリオ。たしかに後方には、この二人の強面がいるけれど、これまでは、どうも「その前」のリーダーシップ(まあ、スピリチュアルエネルギーレベル)が希薄だった。

 そこで、中村俊輔なのですよ。アクションの優れた量と質を絶対的なベースに、攻守にわたる抜群の組織プレーコンテンツと、誰もが認めレスペクトする個のチカラの最高のコラボレーション。まあこれまでも、知らず知らずのうちにリーダーシップを発揮しているはずだけれど、そのレベルをもっともっと明確に引き上げていくべきだと湯浅は主張するのです。そうすれば、確実に、歴史に残るリーダーになれる。

 これからは、攻守にわたる抜群のプレーコンテンツだけではなく、そんなリーダーシップにも大いなる期待を込めて中村俊輔を観察していこうと思います。

 さてゲーム。(内容は)良かったと思いますよ。特に、少し涼しくなった後半はね(前半は、座って観戦していても汗がにじみ出てくる!)。もちろん一点を追いかけるという展開だったこともあるわけだけれど、それにしても、組織プレーのコンテンツが、格段に向上したことは特筆モノだった。

 とはいっても、前半にも「変化点」はあった。もちろん失点という刺激によって自然発生してきた変化・・。

 立ち上がり5分に中村俊輔が魅せたスーパースルーパスからの、玉田の完全フリーシュートチャンス(これは止めた相手GKを誉めるべき!)。そのシーンを見ながら、まあ余裕のゲームになりそうだな・・なんてイージーなマインドになっていたのですよ。それほど、相手ディフェンダーを翻弄する俊輔のプレーは見事の一言だったのです。でもその7分後には、フリーキックからのこぼれ球を、「ドカン!」とパワフルに決められて先制ゴールを奪われてしまうのです。

 ただ、その後から、日本代表のサッカーの流れが好転しはじめたと感じました。そのエネルギー供給源のもっともコアになっていたのは、守備的ハーフコンビの長谷部誠と遠藤ヤットによる、後方からのバックアップ。この二人は、失点の後から、本当に目まぐるしく「上下動」を繰り返すようになった。特に長谷部が魅せつづけた、攻守にわたる忠実な「ボールがないところでのアクション」は特筆モノ。やはり「環境こそが人を育てる」のだと再認識していた次第。

 まあ、長谷部が所属するヴォルフスブルクの監督は、バイエルン・ミュンヘン監督として抜群の存在感を誇ったフェリックス・マガートだからね。あの強面に高く評価されていることは、長谷部の「究極の組織プレイヤー」としての優れた価値の証明だと思いますよ(友人のドイツ人ジャーナリストやサッカー関係者のコメントについては、以前の長谷部に関するコラムを参照してください)。そんな彼の「発展プレー」が、この試合でもいかんなく披露されたということです。

 そんな長谷部に対して、もちろん遠藤ヤットも負けてはいない。彼の場合(そのプレーの見え方が、ちょっと緩慢に映るケースが多いせいで!?)走っていないとか、闘う意志が欠けているとか、ネガティブに評価されるケースも多いけれど、実際には十分走っている。そして、「いなければならないところ」にもしっかりと顔を出すし、局面でも、ギリギリの勝負を魅せつづけている。また攻撃でも、泥臭くチャンスを作り出すようなプレーも繰り出すようになっている。

 そんな質実剛健な攻撃プレーの背景には、中村俊輔、松井大輔というヨーロッパ組がチームに組み込まれたことが大きいはずです。

 「オレのところには(ガンバでのように)自動的にボールは集まってこない・・いまの代表では(以前と同様に!?)中盤での守備的なタスクを求められている・・ヨシ!、そんな状況だからこそ、汗かきでも目立ってやるぞ・・また攻撃では、演出家のタスクは俊輔に任せるとして、オレは、ボール絡みシンプルプレーだけじゃなく、ボールがないところでの効果的なプレーを心がけるぞ・・」ってな前向きのマインドということですかね。

 そしてヤットのプレー内容が、よりダイナミックなモノへと(要は、より目立つモノへと)ポジティブに変容していった。そんなヤットに対する期待も自然と高っていくよね。

 さて、ということで松井大輔。

 私が知っている彼のベストマッチは、何といっても、昨年、オーストリアのクラーゲンフルトで行われたトーナメントでのもの。トレーニング中から(フランス語で)イビツァ・オシムさんから多くのアドヴァイスを受けていた(何度もキツイ指摘をされていた!?)。そんな刺激を背景に(!?)トーナメントでは本当に目の覚めるような(攻守にわたる)組織プレーを披露した。その後、ル・マンに戻っても、組織プレーの流れの演出家・・ってな存在になりはじめていたと記憶する。でも・・

 まあ、このところの彼のプレー内容については、全体としては、ネガティブな方向へ振れているのは、皆さんもご存じの通りです。ニュアンス的には、「あれほどの才能に恵まれているのだから、もっと出来るはず・・(クラーゲンフルトでのプレーイメージを基盤に)何故もっと『粘り強く忠実な』守備アクションをしないのか・・攻撃でも、もっともっとボールがないところで動かなければならない(この動きの量と質については「前回のホームでのオマーン戦コラム」を参照してください)などなど。

 でもこの試合での印象は、どんどんポジティブな方向へと振れだしていったのですよ。

 たしかに前半は、まだまだカッタるかった。彼は、俊輔とともに、チームのリズムを高揚させていかなければならない存在なのに・・どうも、ボールがないところでの動きが単調だし、絶対的な量が少ない・・それに、シンプルなパスだしと爆発的なバス&ムーブを基盤にした組織プレーでも、どうも勢いが足りない・・あんな「個を前面に押し出すプレータイプ」だったら、常にドリブルで相手を抜き去ってしまうような勝負プレーを繰り返さなきゃ、チームメイトが納得しないだろう・・などなど。

 それが後半になって、どんどんと、勇気と責任感が感じられる個の勝負が目立つようになっていったのです。また、攻撃でのボールがないところでの「汗かきの動き」の量と質も向上ベクトルに乗るようになった。とにかく、後半の日本チームのペースアップについては、ある部分、松井の「積極的な仕掛けプレー」も貢献していたと思っていたのです。「そうだ・・それだよ・・アンタは、それがなきゃゲームに出ている意味はないんだよ・・」ってなことを、口の中で何度も小声で繰り返していた湯浅だったのです。

 またまた長くなりそうだから、今日はこのあたりで締めに入ろうと思います。

 とにかく、あの暑さのなかで「これほど」のサッカーが展開できたことは、大いなるプラスだったと思います。そのベースは、もちろん攻守にわたる組織プレーの優れた量と質。全員守備、全員攻撃を標榜する岡田武史監督の面目躍如といったところでした。

 この試合でのサッカー内容をイメージ的に表現したら、チェイス&チェックや(集中プレスや)ボール奪取勝負、人とボールの動きとスペース攻略プロセスの量と質などの「組織プレーのコア要素」が、全体的に「縮小したカタチで表現された」といったところですかね。

 質的には(目標イメージ的には)高みを維持しているけれど、それを達成するためのグラウンド上の現象の「量」が、気候条件に応じて、少し「小ぶり」になった・・っちゅう表現なわけです。このことは、次のタイ戦でも有効だからね。その視点で「も」ゲームを観察しましょう。あくまでも、サッカーの目標イメージは高みを維持するのですよ。

 最後に、GK楢崎正剛について。

 素晴らしく安定したゴールキーピングでした。決して、PKを止めたから書くワケじゃありません。ポジショニングやキャッチング、前へ飛び出すギリギリの勝負など(この試合でも素晴らしい飛び出しセービングを決めた!)とにかく安定していた。

 とはいっても、この2試合では、イージーなボールをキャッチするシーンで、不可解な「不安定さ」がかいま見られるケースがありました。それには、ボール制作技術の進歩という背景があるのです。要は、ボールの「真球度」が高まったことによる、ボールの不安定な変化のことです。

 中東の連中は、吹っ切れたロングシュートをガンガン打ってくるじゃないですか。それも「無回転」が多いからね。そうなれば、もちろん(ボールの真球度が高まったことで)ボールの表面に「カルマン波」が生じてボールを「無秩序」に変化させるというわけです。でも楢崎は、そんな厳しい状況にもかかわらず、しっかりとボールを「止めて」いた。

 「ありゃ、もう身体で止めしかないよな」。ドイツの伝説的ゴールキーパー、オリバー・カーンでさえ、無回転シュートについて、そんなことを言ったことがあった。楢崎が先発したこの2試合で、二度ほど、ボールをしっかりとキャッチできないシーンがあったわけだけれど、それは、もちろん「カルマン波」による「魔球」のせいだったに違いありません。本当に、正確にキャッチするのが難しいのですよ。だから日本も(たしかに俊輔や松井、長谷部やヤットたちのトライしていたけれど)もっともっと中距離シュートをブチかますべきだよね。

 もう一つ、楢崎については、とにかくハイボールでの対処が抜群に安定しているというポイントも見逃せません。相手GKも素晴らしかったけれど、楢崎も、決して負けていなかった。守備ブロックにとっては、本当に心強い限りだと思いますよ。

 さて、ということで(引き分けというゲーム結果によって)これからのワールドカップ予選マッチにも、まだ、ある程度の「緊張感」が残ることになりました。要は、これからの予選ゲーム結果によっては、まだまだ不穏な事態に陥ってしまう可能性を否定できないということです。本当によかった・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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