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2008_北京オリンピック_その1・・この「脅威」をしっかりと次の「機会」として活用しなければ(米国vs日本、1-0)・・(2008年8月7日、木曜日)

フ〜〜、男女ともに残念な結果になってしまった。

 私の目には、結局「主体的な闘う意志」という(日本にとっては)文化的、社会体質的な課題を乗り越えられなかったという試合のバックボーンが見えていました。

 勝たなければならない試合で、それも相手にリードされている状況で、どうしても効果的な前からの協力プレスを機能させられない・・攻撃でも、押し上げが(その勢いが)十分じゃないから人数を掛けることが出来ない・・要は、攻守にわたる肝心の勝負所で「数的に優位なカタチ」を作り出せなかったということ・・

 闘う意志・・。最後の10分間を見れば、誰もが、必死にギリギリのところまで闘えばアメリカを凌駕する底力を発揮できることに確信を持てたはずです。ただ、残念ながら、その「意志」が(要は決断力と行動力が)見えなかった。

 攻撃での「三人目の動き」にしても、ワンのパスが出された時点でタテの決定的スペースへフリーランニングするのではなく、常に「様子見」になってから(要は、パスが出る確実な状況になってから)アクションをスタートしていたし、守備でも、ボールがないところでのマーキングの際、予測して「相手との間合いを詰めていれば」確実にボールを奪い返せたというシーンを何度も目撃した。

 ムダに終わるかもしれない・・それでも、そんな「クリエイティブなムダ走り」がなければ、良いサッカーなど展開できない・・そう、特に日本の場合は・・

 もちろん「あの厳しい自然条件」のなかで、90分間プレッシングサッカーを展開しろなんて言っているわけじゃない。そうではなくて、プレスするところと、セットパックして守備ブロックを組織するところをしっかりと「使い分ける」ことが出来ていなかったということが言いたかったわけです。

 セットパックして落ち着いてしまったら、次のチャンスに、人数を掛けて攻め上がっていけない・・。日本のサッカーのやり方は、攻守にわたって、出来る限り高い頻度で「数的に優位な状況」を作りつづけるというもの。また、出来れば、相手との「フィジカルコンタクト」をすることなくシュートまで行ってしまうようなコンビネーションサッカーも理想的なイメージだよね。そんなコンセプトが、最後の10分間にしか感じられなかったことが残念でなりませんでした。

 プレスと、守備ブロックをキッチリと組織する「落ち着き」という守備のタイプの使い分けだけれど、チームが一体となって、その二つのタイプをメリハリ良く繰り替えることが出来るようになるのが理想型なのですよ。だからこそ中盤のリーダーという存在が重要な意味をもつのです。

 そのリーダーは、前からいくべき状況では、自ら数十メートルの全力ダッシュで相手ボールホルダーに詰め寄ったり、チーム全体を『今だ〜! 前から〜〜!!』と強烈に鼓舞しながらプレスの輪を活性化することで、味方に次のパスをカットさせたりする。また、状況に応じて、今度は「ゆっくり〜〜!!」と、すぐにチーム全体が意思統一されるような強烈な指示を飛ばすことで、チーム全体が落ち着いたディフェンスアクションへスムーズに「移行」するようにリードする。フムフム・・

 そんなリーダーシップを期待されたのが、オーバーエイジ枠でノミネートされた遠藤ヤット(保仁)なんだろうね。それと、もう一人ノミネートされた大久保嘉人には「ゴール感覚」が期待されていた。ただ結局は、この二人ともダメになってしまった。

 ところで、オーバーエイジ枠を二人だけ「しか」ノミネートしなかったというテーマだけれど、私は、そこにこそ、反町監督の「意志」が込められていたと思っています。自分の作り上げたチームに(チーム内にみなぎる共通の意志とイメージに対して!)確信があったということなんだろうね。

 とにかく攻守にわたって組織プレーを徹底する・・走らない(目立たない細かなところでサボる)選手は使わない・・個の才能にしても、あくまでも組織プレーを絶対的なコアに、ココゾ!の勝負所で、勇気と責任感をもって、強烈な勢いでリスキープレー(勝負ドリブル等)にチャレンジできる・・などなど。

 まあ、考えてみれば(オーバーエイジの)個の才能にしても、「世界」に抗して(高い確率の)ドリブル突破が期待できたり、個のチカラでシュートまで行けるような力ずくの勝負プレーを期待できるようなオーバーエイジ選手は見当たらないというのも事実だよね。もちろん、ご存じのように、局面で相手のアタックを「かわす」こと(だけ!)が上手いような「似非のテクニシャン」は多いけれど・・。

 オーバーエイジ枠だけれど、私見を言えば、心理的、物理的の両面で、トゥーリオは確実に戦力になったはずだし、また組織プレー(中盤のリーダーシップ)という視点では、中村憲剛も「実効レベル」の高い候補ではあったと思いますよ。

 さてゲーム。まず最初に、アメリカが強いチームだったということを認識しましょう。

 前半は日本が支配した・・なんてことが言われているそうだけれど、決してそんなことはなかった。たしかにボールキープ率では日本が上回ったけれど、それでも、実質的なシュートの「量と質」では、アメリカが完全に凌駕したからね。日本はボールを持たされたいたと言えるかもしれない。

 日本に攻め込まれながらも、ココゾ!という勝負所では、蜂の一刺し(鋭いカウンター)だけじゃなく、しっかりと人数を掛けて攻め上がり、確実で創造的な組織パスプレーを魅せていた。また、そんな組織プレーに、アドゥーやロジャースに代表される(あっと・・右サイドバックのウィンも!)個人の勝負プレーも効果的にミックスできていた。

 とはいっても、何度も繰り返すけれど、最後の10-15分間に魅せた日本代表のサッカーには、大いなる可能性を感じたことは確かな事実なのです。

 ということで、アメリカに輪を掛けた実力チームであるナイジェリアとオランダとの戦い。たしかに厳しいゲームにはなるだろうけれど、吹っ切れた日本には大いに期待できると思っているのですよ。脅威と機会は表裏一体だからね。もう「やるっきゃない」日本が、ガンガンの積極サッカーを(もちろん硬軟をメリハリ良くコントロールした意志のサッカーを!)魅せてくれることを確信しています。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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