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2009_UCL・・バルセロナという学習テーマ・・(2009年4月9日、木曜日)

あ〜あ、たったの12分で「終わって」しまった・・

 前半12分、メッシからの決定的スルーパスを受けたエトーのスーパーゴールを観ながら、そんなことを思っていました。まあ、このゲームを観戦された方々も、同様に、ため息をついていたに違いない・・!?

 ということで、バルサが提供してくれた学習テーマ。ここでは、強化守備を崩すお手本・・っちゅうところですかね。何せバイエルン・ミュンヘンは、フィールドプレイヤー9人で、2重3重のディフェンスブロックを築いていたわけだからね。そんな要塞を、いとも簡単にズタズタに切り崩していったバルセロナ。空恐ろし・・(まあ、ここでは明確な根拠のある『恐ろし』だけれど・・)。

 バイエルンは、最終ラインと中盤ラインをうまくラインをコントロールしながら、チェイス&チェックを基盤に、選手たちが忠実に集散を繰り返してはいたのですが・・

 集まっては(協力プレス)、そこで崩れかけた互いの人数とポジショニングのバランスを、素早く、クレバーに回復していく。

 サッカーは、常にバランスが崩れるボールゲーム(極力バランスを崩さないようにプレーする安定志向のサッカーではホンモノの発展は望めない!)。だからこそ、素早く平衡状態を調整する『バランス感覚』を発展させることも、コーチにとっての重要な課題の一つなのです。そんなコノテーション(言外に含蓄される意味)が、選手たちのポジショニングの「集散」という表現の背景にあるわけです。

 とはいっても(うまくバランスを取るような機能性だけは魅せていたバイエルン守備だったけれど)相手はバルセロナだからね。

 普通の相手だったら、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実なマークを積み重ねることでミスを誘ったり、パスをインターセプトしたり、次のパスレシーバーへの効果的なアタックなどで(要は、相手の仕掛けプロセスを自分たちの眼前ゾーンに限定してしまうことで!)自分たちのイメージ通りに、安定してボールを奪い返せるものです。

 でも相手は、メッシ、アンリ、エトー、イニエスタ、シャビ、ダニエル・アウヴェス、ヤヤ・トゥーレといった天賦の才。彼らは、まったく次元が違う。そんな天才連中が、攻守にわたって、素晴らしい組織(汗かき)プレーを積み重ねながら、ココゾ!の局面では、どんどん個の天才を光り輝かせるのですよ。

 バイエルン選手の視線と意識を「釘付け」にしてしまうタメ・・変幻自在のボールコントロールでバイエルン選手を翻弄するボールキープ・・そして、バイエルン選手の顔が恐怖に引きつる勝負ドリブル・・などなど・・

 メッシがセンターゾーンへ向けて「仕掛けのドリブル」に入る・・彼をマークするバイエルン選手は、簡単にアタックできずに一緒に付いていくだけ・・その間合いでは、ちょっとでもスキをみせたら、すぐにメッシは急激なテンポアップで勝負ドリブルに入られてシュートされてしまう・・それに対する恐怖もあって、バイエルンのマーカーは、まったくアタックできない・・次の瞬間、エトーが「斜めに」決定的フリーランニングを敢行する・・そして同時に、ボールコントロールに余裕があるメッシが、ノールックパスを、エトーがイメージする決定的スペースへ送り込んだ・・

 それが二点目シーンだったわけだけれど、とにかくバイエルン守備ブロックは、バルセロナが展開する、組織プレーと個人勝負プレーが夢のようにハイレベルにバランスした仕掛けプロセスに完全に翻弄されていたということです。そりゃ、そうだ。何せバイエルンは、まったくといっていいほど「守備の起点」を作れないんだからね。

 別な言い方をすれば、バイエルンは、ボールを奪い返すための「グループ戦術」としての「選手の動きの集散」を、まったくコントロールできていなかった・・逆から言えば、バルセロナが、変幻自在の仕掛けプレーによって完全にイニシアチブを掌握し、彼らの意図する通りに、バイエルン選手たちを「動かして」いた(振り回していた)ということです。

 たしかにこの試合では、バイエルン最終ラインの重鎮コンビ、ブラジル代表のルシオとベルギー代表のファン・ブイテンが欠場していたけれど(また両サイドバックのレルやオッドの出来も散々!)ただ全体としては、主力選手を欠いたということよりも、バルセロナの仕掛けコンテンツが次元を超えた凄さを発揮したといった方が正しい評価でしょうね。ホント、凄かった。

 ということで主要テーマ。強化守備の崩し・・

 「それ」は、人とボールが素早く広く動きつづける組織パスプレーを絶対的な基盤に、その流れに、世界トップレベルの個の勝負プレー(以前わたしは、エスプリプレーなどと表現していた)がタイミングよくミックスされている・・ということなんだろうけれど、まあバルセロナでは、組織プレーと個人プレーの「ミックス状態」に対して、チーム内に明確な「あうんの呼吸」が成立している・・また、それぞれが、それぞれの個の才能を存分に発揮させられるようにプレーしている・・なんていう表現が適当なのかもしれないね。

 もちろん、グアルディオラ監督の優れたウデに対しても拍手ではあります。

 そしてディスカッションは、もちろん日本代表へと戻っていく。そう、アジアでは、日本に対して強化守備ゲーム戦術で臨んでくる相手が多いからね。そして日本は「それ」をうまく崩し切れない。

 もちろん素早いコンビネーション(組織パスプレー)を繰り返し積み重ねることでも決定的スペースを突いていけるだろうけれど、その場合は、どうしても、相手の(ボールがないところでの)忠実マークに四苦八苦してしまうことの方が多い。

 昔とは違い、世界的な情報化によって、彼らもまた様々な「戦術テーマ」を視覚的に学習しているし、世界から優秀なコーチを招聘してもいるからね。

 だからこそ日本代表は、相手守備のバランスを崩すための「効果的な個人勝負」を、リスクを冒してでも仕掛けていくというテーマを、もう一度見つめ直さなければならないのですよ。もちろん、代表監督とクラブ監督との話し合いによる「能力(感覚)再開発マネージメント」という意味合いも含めてネ。

 いまの日本チームでは、勝負ドリブルやタメ、仕掛けのボールキープなどで、相手守備ブロックのバランスを「意図的に崩せる」ようなプレイヤーは限られているのが現状でしょう。田中達也・・玉田圭司・・

 わたしは、中村俊輔に(以前のように!)もっと個人勝負を仕掛けていって欲しいと思っています。彼の場合は、スピードではなく、フェイントと逆モーション取りによる「ウラのスペース突き」だけれどネ。

 そんな勝負プレーが効果的に機能すれば、相手の守備ブロックのバランスを、こちらの意図するように崩せるし、決定的スペースを突いていくオプションにも格段の広がりが出てくるでしょう。それがあってはじめて、ホンモノの「攻撃の変化」を演出できるというわけです。そう、バルセロナのように・・

 ということで、バルセロナを観ながら、やっぱり確信だよ・・勇気だよ・・なんて心のなかで叫んでいたわけです。

 そこでは、やはりトレーニングによる「覚醒」あるのみ。それについては、以前よく採りあげられた、こんな例がある。

 ブラジルの天才ドリブラーの「ガリンシャ」。彼が、ドリブルに自信をなくしていたことがあった・・そこで当時の監督がやらせたトレーニングが、高校生10人を相手に、彼一人がドリブルで対抗するという無謀なトレーニング。最初は何もできなかったけれど、でも日を追うごとに「ガリンシャの天才」が甦っていったのですよ。

 まあ一つの例だけれど、とにかく「個人勝負の感覚」は、トレーニングをしつこく繰り返すで先鋭化していかなければ、すぐに錆びてしまうしまうものだからね。

 とにかく、メッシやアンリ、はたまたエトーやイニエスタの「次元を超えた自己主張プレー」を観ながら(また朝日を感じながら)様々な思いに耽っていた筆者だったのです。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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