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2009_UCL決勝・・ゲーム展開の逆流、黄昏れた選手交代、そして仕掛けイメージの微妙な違いといったテーマをピックアップしました・・(2009年5月28日、木曜日)

さて、バルセロナが勝利を収めた2008/2009年シーズンUCL決勝。ここでは、いくつかのポイントに絞ってピックアップしました。

 まず、試合の流れからすると「まさに唐突」だったエトーの先制ゴールと、その直後からのゲーム展開の「逆流」。次が、ユナイテッド、ファーガソン監督による「黄昏れた」選手交代。そして最後が(まあこれがもっとも興味深いポイントかもしれない)両チームで微妙に違う、仕掛けフローにおける「プロセスイメージ」。

 最初は、エトーの唐突なゴールと、その後の「ゲーム展開の逆流」。

 試合は、立ち上がった次の瞬間からマンチェスター・ユナイテッドが完全にゲームの流れを制圧します。もちろん、そのベースはダイナミックで忠実なディフェンス(ボール奪取プロセス)。とにかく、鋭いチェイス&チェックを「アクション起点」にした一連の守備コンビネーションが、まさに有機的に連鎖しつづけるのです。

 そして、フリーキックだけではなく、流れのなかからも、クリスティアーノ・ロナウドが絶対的なチャンスを作り出す(彼にチャンスが回ってくる!)。誰もが、「エッ!?どうしてゴールにならないの??」というチャンスがつづくユナイテッド。

 対するバルサは、どうも守備の勢いがアップしていかない(チェイス&チェックがうまく機能しないから周りのボール奪取アクションも連鎖しない)。だから次の攻撃でもボールの動きがままならず、局面での「単発アクション」がユナイテッドの組織ディフェンスに潰されつづける。

 そんなジリ貧の展開のなかで、バルサが、まさに「起死回生」ともいえそうな先制ゴールを奪ってしまうのだからサッカーは面白い。

 中盤の高い位置で、マンU最終ラインのポジショニングバランスを引きつけるような「タメのボールキープ」で前進しながら相手守備(視線と意識)を十分に引きつけたイニエスタが、右サイドでフリーになったエトーの足許へのタテパスが送り込まれる。

 その状況で、エトーの切り返しも含む様々なアクションに対応できるように万全な対応イメージでチェックに入ったマンU最終ラインの強者センターバック、ビディッチだったけれど、最後は、エトーが繰り出した「シュートフェイント」の方が優ってしまう。

 タテへボールを「運び」ながら、流れるように「右足でシュート」するようなモーションに入るエトー。そのアクションに、ユナイテッドの強者センターバック、ビディッチの「防御アクションイメージ」が「シュート・ブロック」へと傾いてしまうのです。そして次の瞬間、エトーの「右足カット(切り返し)アクション」が炸裂し、ビディッチが置き去りになってしまったという次第。

 そこから(つま先を巧みに使った)シュートまでのアクションは、「これぞエトー!」という、素早く鋭いモノでした。シュートされたボールは、マンUスーパーGK、オランダの英雄ファン・デルサールの左手と左足の「すき間」を抜けてゴールへ吸い込まれていった。まさに、エトーの才能が、これ以上ないほどに光り輝いた「個のゴール」ではありました。

 そう・・「個のゴール」と「組織のゴール」というテーマ。たしかに明確に分類はできない。「個」のなかにも組織要素が入っているし、「組織」のなかにも個の要素が含まれているからね。とはいっても、このゴールが、多分に「個の要素」が主導したものだったという評価に異論をはさむ方はいないでしょ!?

 あっと・・またまたハナシが逸れた。とにかく、この「ゴールという刺激」が、バルサが本来秘める自信という心理エネルギーを増幅することになるわけです。

 バルサ守備での忠実マインドが活性化された!? まあ、そういう面もあるだろうけれど、わたしは、それまでマンUが放散しつづけていた、激しいチェイス&チェックに代表される「ダイナミックな守備エネルギー」が、唐突な失点によって明らかにダウンしたというニュアンスの方が強いと思っています。

 あれだけゲームを支配し、決定的なチャンスを何度も作り出していたからね、マンUの士気は極限まで高まっていたに違いない。そんな昂(たか)ぶる気持ちが、エトーの唐突な一発によってポキッと折れてしまう。フムフム・・

 わたしは、そんなゲーム展開の逆流現象を体感しながら、またまた、「不確実な要素が多いからこそサッカーは本物の心理ゲームだ」という普遍的なコンセプトを噛みしめていたというわけです。

 もちろん、サー・アレックス・ファーガソンは、そんなネガティブな流れを何とか盛り返そうと、できる限りの策(刺激策)を講じたはず。そのなかで代表的なモノが、言わずと知れた選手交代でした。

 まず後半の立ち上がりから、アンデルソンに代えてテベスを投入します。私は、この交代には少なからず期待を抱いていました。このところのテベスは好調を維持しているし、その攻守にわたって放散されるダイナミック・エネルギーが、チームにとっての強烈な刺激になるはずだと確信していたのです。

 期待に違わず、忠実でダイナミックな守備からゲームに入っていくテベス。そう、全力スプリントによるチェイス&チェック。後半の立ち上がりは「テベス効果」が花開く気配がプンプンしていたものです。でも・・

 そんなテベスだったけれど、結局は、チーム全体の「沈滞した雰囲気」に呑み込まれてしまうのです。次に登場したベルバトフ。優れた才能は認めるけれど、チーム全体の「エネルギーレベルを増幅させるような刺激プレー」という視点じゃ、まさにミスキャストだった。また、意地のエネルギーで何かをやってくれそうな雰囲気をかもし出していたギグスに代わってスコールズが出てきたときには、わたしのなかでは、「黄昏の選手交代・・」といった感覚が支配するようになっていったものです。そして実際に、サッカー内容が黄昏れていった。フ〜〜・・

 最後に、ちょっと難しいけれど、仕掛けフローにおける「プロセスイメージ」というテーマについても、簡単に触れておくことにします。

 そのテーマを実際のプレーを例に取って表現すれば、マンUの方が、中盤での「パス&ムーブとダイレクトコンビネーション(パスコンビネーション)」がバルサよりも圧倒的に多いということになるでしょうかネ。

 いつも書いているように、最終勝負がスタートする「キッカケ」になるのは、前戦ゾーンのスペースで、ある程度フリーでボールを持つ「仕掛けの起点」が演出されたときです。そんな、有利な体勢でボールを持つフリーな選手が出現したとき、チームも、観客も、「何かが起きるに違いない・・」という期待に包まれる。

 もちろん、その「スペース」が、相手最終ラインとGKとの間に広がる『決定的スペース』だったら、即シュートということになるけれど、ここでは、その前段階のスペース活用という視点でハナシを進めたい。

 「前戦ゾーンのスペース」において「ある程度フリーでボールを持つ」ためには、そのスペースへフリーで入り込んでパスを受けるか、ボールもった選手が、対峙する相手選手をドリブルで抜き去って「ウラを取る」かの二つしかない。

 マンUの場合、仕掛けの起点を作り出す「プロセス」として、「パス&ムーブとダイレクトコンビネーション(パスコンビネーション)」を主に活用し、バルサの場合は「個の勝負」を前面に押し出すというケースが多いということです。

 もちろんマンUのクリスティアーノ・ロナウドとかルーニー、はたまたテベスやギグスといった強者は、個の勝負でもスペースを活用できるけれど、それでも、前半立ち上がりのマンUが魅せつづけたように、素早く鋭い「ダイレクト・パス」をポンポンポ〜ンとつなぐなかで(もちろんそのとき、人もパス&ムーブで動きつづけている!)バルサの守備ブロックにとって「危険なスペース」を攻略するプレーは、本当に素晴らしい魅力にあふれていた。

 もちろん先制ゴールをゲットしてからのバルサも、しっかりと人とボールを動かすなかで、持ち前の「天才的なエスプリ個人プレー」を効果的にミックスしていくのです。エトーが、メッシが、アンリが、はたまた、後方から押し上げたイニエスタやシャビが、まさに夢のような「仕掛けドリブル」を披露する。もちろん周りの味方が動きつづけているから、ドリブラーには、そのまま抜け出すだけではなく、ラストパスを出すというオプションの可能性もある。フムフム・・

 ゲーム全体の(内容的な)流れとしては、まあ、バルセロナが順当に勝利を収めたということになるでしょうね。それでも、ゲーム立ち上がりの時間帯にマンUが魅せつづけた、彼ら本来の素晴らしい組織プレーをつづけることができていたならば・・なんていう「タラレバ感覚」からも逃れられなかったりして・・。

 とにかく、近年まれに見る、しっかりと攻め合ったエキサイティング・ファイナルでした。堪能しました。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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