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2009_CWC(クラブワールドカップ)決勝・・徹底的ゲーム戦術と天才集団・・(バルセロナvsエスツディアンテス, 延長、2-1)・・(2009年12月20日、日曜日)

「美しさと・・勝負強さが・・これ以上ないほどの高いレベルでバランスした(今シーズンの)バルセロナ・・総合的なチカラで世界屈指であることは、誰もが認めるところだと思う・・そんなバルセロナが、守ってカウンターというゲーム戦術を徹底する相手のワンチャンスに沈んでしまう・・わたしも含め、世界中の多くのサッカーファンは、この結果に落胆していると思う・・ライカールト監督・・そんなファンを、慰めていただけませんか?」

 いまから3年前、横浜で行われたクラブワールドカップ決勝。インテルナショナル対バルセロナ。1-0でインテルナショナルが勝利を収めた後の記者会見で、当時のバルセロナ監督、フランク・ライカールトに、そんな質問を投げかけた(それが協同記者会見の締めの質問になった)ことを思い出します。

 そしてこの試合。一点をリードされた後半は、圧倒的に攻め込みながらゴールを奪えずに時間だけが過ぎていく。そんな展開を観ながら・・

 ・・またバルサは、相手のゲーム戦術にはまり込んで一敗地にまみれてしまうことになるのだろうか・・たしかに一発勝負マッチのときは、相手がガチガチのゲーム戦術で臨んでくることも含め、強い方のチームがハンディーを抱えることになるけれど・・なんてことを思っていた。それが・・

 ところで、冒頭の質問。それに対してフランク・ライカールトは、それもサッカーさ・・ってなニュアンスのコメントを出したと記憶します。

 平坦で詰まらないコメントのように聞こえるけれど、オランダ代表だけではなく、アヤックスやミランなど、世界トップレベルサッカーで、常に「強い方のチーム」で中心的な存在だったライカールトだからこそのコメントだったとも捉えられる。同じような顛末のゲームをくり返し体感しつづけたからこその、実感が詰め込まれた本音コメント!? まあ、互いの極限のゲームプランがぶつかり合う一発勝負マッチは、常に(自分たちのサッカーを押し通そうとする、強い方のチームにとって!?)難しいゲームになるということです。フムフム・・

 あっと・・試合。前述した「結局バルサは、同じような顛末で・・!?」というネガティブな思いだけれど、それは試合が進むなかでフツフツと沸き上がってきたモノです。でも、そこに至るまでには、様々な「ポジティブな紆余曲折」はありましたよ。

 例えば、立ち上がりの7分。そこで、シャビが、全くフリーで決定的スペースへ抜け出し、相手GKと一対一になったたシーンを観ながら、まあ、ボールがないところでの勝負の動き(人の動き)が引っ張るコンビネーション(イメージ)が機能している(シンクロしている)限り、バルサの順当勝ちは堅いだろうな・・なんてことを思っていた。

 ちなみに、このシーンでは、シャビが、後方から(三人目として!)右サイドスペースへ飛び出し、そこで、イブラヒモビッチからのヒールパスを受けて全くフリーになったわけだけれど、そのシャビを最後までマークしなければならなかったのが、エスツディアンテスのベテラン、ヴェーロンでした。

 たしかにヴェーロンは、バルサ右サイドバックでブラジル代表のダニ・アウベスからのタテパスは狙っていたけれど(そのタテパスがシャビへ出ていたら、確実にアタックを仕掛けていた!)結局それが最前線のイブラヒモビッチへ出されたことで、そのまま右サイドスペースへ上がりつづけるシャビを行かせてしまった。だからシャビがまったくフリーで、イブラヒモビッチからのヒールパスを受けることができた。

 要は、自分がボールを奪い返せる状況にしか必死のディフェンスに入らないという天才の悪癖というテーマですかネ。天才に汗かきプレーをさせるのは至難のワザ!?

 そして私は、そのシーンを観ながら、こんなことも思っていた。

 ・・エスツディアンテスは、人数を掛けた守備ブロックを基盤にしてゲームのイニシアチブを握ろうとはしているけれど、最終勝負シーンで気を抜いてしまう(忠実マインドに欠ける!)ヴェーロンのようなベテラン選手がいる限りバルサの勝利は堅いよな・・たしかにヴェーロンは中盤の明確なリーダーだけれど、だからこそ諸刃の剣になってしまうという見方も出来る!?・・

 ・・バルサの強さのバックボーンは、強い意志をもって忠実に守る相手のイメージを超越してしまう素晴らしい組織プレーにある・・それも、「あのクラスの天才連中」が、忠実な組織コンビネーションにも精進する・・天才たちが展開する、スペースへの三人目、四人目のフリーランニング・・勝負はボールのないところで決まる!!・・そんな天才の饗宴を抑えられるチームはいない・・

 でも、時間が経つにつれて、そんな期待が、徐々に霧散していくのですよ。人数を掛けたエスツディアンテス守備ブロック・・忠実なチェイス&チェックと、周りのマーキングと協力プレスへの忠実アクション・・もちろん、ワン・ツーで抜け出そうとするバルサ選手も、ことごとくタイトにマークされてしまう・・フムフム・・

 いつも書いているように、攻撃の目的はシュートを打つことだけれど、そこに至るプロセスでの当面の目標イメージは、ある程度フリーでボールを持つこと(=スペースを活用すること)なのです。相手を置き去りにしてしまうような勝負ドリブルで抜け出していっても、コンビネーションや、シンプルなタテパスで、スペースに入り込んでいってもいい。

 ただ前半のバルサは、そんなスペース活用が、まったくといっていいほど出来ないのです。そして逆に、エスツディアンテスにワンチャンスを決められリードを奪われてしまう。フ〜〜・・

 たしかに後半は、同点ゴールを奪いにいかなければならないという危急の心理パワーに突き動かされるように、バルサの「ダイナミズム」は向上していった。

 立ち上がり3分には、これぞ天才!・・というイブラヒモビッチのドリブルシュートが飛び出したり、何度か、サイドゾーンを切り崩したクロスに(後半から交代出場した)ペドロが飛び込むといった決定機もつくりだした。でも、まだまだ何かが足りない・・

 後半のバルセロナが魅せたペースアップの基盤は、もちろん「危急の心理パワー」による全体的な動きの量と質の向上です。守備でも、攻撃でも。だから、組織パスのスピードも広さも向上した。だから、相手守備の人数とポジショニングバランスが欠けたゾーン(=スペース)を、うまく使えるようになった。そして、だからこそ(これが一番大事なことだけれど・・)天才たちが、より良いカタチで個人勝負を仕掛けていけるようになった。

 個と組織のバランス・・。このところ、よく使われるようになった表現だけれど、その、もっとも大事なコノテーション(言外に含蓄される意味合い)は、何といっても、『より高い実効レベルで、個の才能を活用できる!』ということなのですよ。

 もちろん日本代表の場合は、攻守にわたる究極の(徹底的な)組織(コンビネーション)サッカーというのが基本コンセプトだから、ちょっと「バランスのニュアンス」は違ったモノになるけれどネ。もし日本代表が、南アWCにおいて、「そのサッカー」で存在感を発揮できれば、いままでになかったタイプのサッカーとして、日本代表が、組織コンビネーションサッカーの代名詞として、サッカーの歴史に刻み込まれるかもしれない。まあ・・とはいっても、日本の場合は、個の才能が足りないという背景要因がスタートラインの「歪んだデベロップメント」ではあるけれど・・あははっ・・

 あっと・・ハナシが外れかけた。ということで、後半は、よりペースアップして同点ゴールを奪いにいくバルセロナというテーマ。とはいっても、何度かのチャンスもモノに出来ず、時間だけが過ぎていくのですよ。でも、ほぼ諦めかけた後半43分。コトが起きてしまう。

 そのとき「高くこぼれた」ボールを、バルサのピケが競り合う・・そこに二人のエスツディアンテス守備プレイヤーが寄せていく・・この動きで、そのすぐ左にポジションをとっていたペドロが全くフリーに・・その状況が、ピケに見えていないはずがない・・誰よりも高くジャンプしたピケは、その、まったくフリーになったペドロへ、ヘディングでラストパスを送る・・これで勝負あり・・

 もちろん後半でも、半ばを過ぎた頃からエスツディアンテス守備の「足」が止まり気味になっていったのは誰の目にも明らかなことだったでしょう。

 足が止まり気味になる・・。

 チェイス&チェックの勢いが減退する・・次のインターセプトを狙うアクションの勢いが落ちる・・ワンツーで抜け出す相手選手をマークし切れず、そのままスペースを使われてしまう・・ドリブルするバルサ選手に(疲れから!)安易にアタックを仕掛けて置き去りにされてしまう(前半から後半の半ばまでは、しつこくチェックしつづけていたのに・・)・・などなど・・

 こうなっては、もう、組織イメージと個の才能が最高レベルにバランスするバルサの相手ではありません。続けざまにチャンスの芽を演出しつづけるバルサ。とはいっても、実際のゴールに結びつけられるかどうかというのは別物だけれどネ・・。

 そんな緊迫した展開がつづいていた延長後半の5分。やってくれました、スーパースター。それまで、かなり「消えている時間」が長かったメッシ。要は、運動量が落ちたということなんだけれど、『そのとき』だけは、何かが匂ったんだろうね、右サイドやや後方ゾーンで、ダニ・アウベスが、まったくフリーでボールを持ち、ルックアップした瞬間、爆発した。まさに、スーパースターの面目躍如・・

 ・・自分をマークする相手と、眼前の決定的スペースをめぐり、両手両足を使って「せめぎ合う」メッシ・・そして、瞬間的なダッシュ力で上回る彼が、そのマーカーを置き去りにし、エスツディアンテスのゴール前、ファーサイドゾーンから中央ゾーンへ、決定的フリーランニングを敢行して入り込んでいく・・そこへ、完璧なアイコンタクトで最終勝負イメージを(メッシと)共有していたダニ・アウベスが、正確な、まさに数ミリの狂いもないほどの「天才的クロス」を送り込んだ・・美しい糸を引くクロス・・そして勝負が決した・・

 このゲームの底流には、昨シーズンのUCL(準決勝!?)、チェルシー対バルセロナ同様、強者どもの徹底的なゲーム戦術と、それを打ち破ろうとする天才集団のせめぎ合いというテーマがあった。

 でも最後は、バルサがCWCカップを手中にした。この勝利は、世界のサッカーにとって、とてもポジティブな出来事だと思う・・たぶん・・

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 最後になりましたが、年明け元旦に国立競技場で行われる天皇杯の決勝。例によって、ラジオ文化放送で解説します。

 メイン・キャスターは、文化放送のスーパーアナウンサー、長谷川太さん。今年で、コンビを組んで(マイクを奪い合って!?)何年目になりますかネ。まだオファーがあるということは、放送の内容が、そんなに悪いモノじゃないということなんですかネ。あははっ・・

 ポジティブシンキングの湯浅でした。それでは、また・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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