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2009_中村俊輔・・グラスゴーダービーの「伝統パワー」を超えようとする意志は感じられたけれど・・(2009年2月17日、火曜日)

まわりは華麗なパスサッカーを期待するんだろうけれど、レンジャーズとのダービーでは、どうしても気合いの方が先行する(肉弾戦も含む・直接的な!?)仕掛け合いになってしまう・・

 試合前に、セルティックのゴードン・ストラカン監督が、そんなニュアンスのことを言っていたとか。ナルホドね、現場の人間も、ダービーでの特別な心理メカニズムによって突き動かされる積極攻撃姿勢については、アンコントローラブルな(制御が難しい)伝統的な「何か」による自然発生的な現象だと捉えているということか。まあ、観客のマジョリティーも「それ」を期待しているんだろうしネ。

 「それ」・・。要は、ボールを奪い返したら、誰もが、すぐに相手ゴールへ(直接的に)向かう仕掛けプロセスをイメージしちゃう攻撃的なマインド・・っていうことでしょうかね。グラスゴーダービーを制することに対する高いモティベーションと闘争心・・。もちろんレンジャーズには、昨シーズンリーグでの「信じられない大逆転惨敗ドラマ」に対するリベンジというビッグモティベーションもあることでしょう。

 もちろん一方が、攻守にわたって超攻撃的なマインドをぶつけてくれば、相手も、それに対抗して燃える・・。まあ、特に守備だよね。とにかく両チームともに、相手からボールを奪い返すことに対する意志だけは150パーセントにまで高揚しているっちゅうわけです。だから、グラウンドの至る処で、ガシンッ!ガシンッ!っちゅう肉弾戦が展開される。まあそんな雰囲気だから、クレバーでロジカルな組織パスによる組み立てプロセスというイメージが希薄になっていくのも道理ということなんだろうね。

 だからこそ中村俊輔も、日本で行われたオーストラリアとの勝負マッチを中3日でこなすというハードスケジュールを消化しながらも、「彼なりのテーマ」を成就させることへのモティベーションが上がるのですよ。

 そう、直接的に仕掛けていこうとする攻撃マインドをクールダウンさせ、次の、より効果的で危険な最終勝負を繰り出していくための「緩衝機能」としての(要は、決定的スペースを攻略していくような)組み立てプロセスをリードすること。それが出てくれば、勝負ドリブルにしても(スペースからスタートできることで!)より効果的に仕掛けていけるハズだからね。とにかく中村俊輔は、今までのダービーでは、そんな組み立てイメージをうまく機能させられなかったわけだからネ。

 ゲーム立ち上がりから、「この試合では絶対にやってやるぞ!」という中村俊輔の「強い意志」がよく感じられた。

 左サイドをベースにしながらも(そしてもちろん汗かきディフェンスもしっかりと繰り返しながらも)グラウンド全体を前後左右に動き回って「パス・ターゲット」になったり「組み立てコンピネーション」を演出しようとする。

 もちろん彼がボールを持ったら(彼にパスが回されてくる前のタイミングで)すぐにでも相手がアタックを仕掛けてくる。そんなアタックエネルギーを「スッとかわす」ように、相手アタックの鼻先でチョン!と組み立てパスを回し、自身は、次のスペースへズバッと動いてリターンパスをもらおうとする。

 この一連のアクションで、俊輔にアタックを仕掛けた相手は「置き去り」になってしまう。遠藤ヤットも得意の、柔道でいう「空気投げ」的なパスコンビネーション。それは決して「逃げの横パス」なんかではなく、相手のアタックエネルギーをうまく活用し、逆に、相手にとって痛いスペースを活用してしまおうというプレーイメージなのですよ。もちろん、ワンツーや壁パスも基本的には同じ意味だけれど、彼らの場合は、それらを複数リンクさせることで、三人目、四人目のフリーランニングまでも効果的に活用していこうという「決定的スペース攻略コンビネーション」までもイメージしているからネ。

 あっと・・空気投げ。それは、柔道の嘉納治五郎師範が名付けた「隅落(すみおとし)」の一般的な呼ばれ方だそうです。柔道は素人の筆者ですから、後はウイキペディアなどを参照してください。

 さて、中村俊輔のシンプルなタイミングのパス。それは、もちろん味方も明確にイメージしている。だから、中村俊輔がパスを出す前から、実際にパスが送られてきたときのことを明確にイメージし(中村からのパスを受けて自分がボールを持ったときの)次のプレーを脳裏に描いて準備をしている。

 そこまでの「流れ」は、いつもの通りだからいいんですよ。でも、やっぱり、俊輔からパスを受けた味方の「次のプレーイメージ」は普段とは明らかに違う。普通だったら、俊輔にリターンパスが戻され、そこから、次、その次というふうに「人とボールの動き」が活性化するはずだけれど、(ものすごい守備プレッシャーが押し寄せてくる!?)ダービーでは、そんな(緩衝的なタメとしての)クリエイティブなボールの動きが「割愛」されちゃう傾向が強い。

 だから俊輔のパス&ムーブの動きが空回りしてしまうシーンが続出する。俊輔は、明らかに普段よりも「より自由」に動き回ることで、組織パスプレーのコアになろうとしている。そんなイメージが、どうも「分断」されてしまう傾向が強いのです。ダービーの爆発的な心理エネルギーの饗宴!? フムフム・・

 守備については、いつもの通り、忠実なチェイス&チェックだけじゃなく、相手のパスを「読んだ」素晴らしいインターセプトや、タイミングを見計らった「スリのようなボール奪取」のテクニックなども健在。とにかくボールを奪い返すことに対する「意志」は非常に高質です。まあ、それがなければ、チームに認められるはずもないけれどネ。

 それでも、攻撃での効果レベル(そしてこのゲームに対して抱いていた目標イメージ)という視点では不満が残るでしょう。もちろん、部分的には、例によっての才能ベースの個人勝負(俊輔の魔法)が効くシーンもあったし、彼がコアになった組織的な「動き」も連動しはじめるような流れもあった。でも、これまでのダービーでの(俊輔自身の)ネガティブイメージを払拭するには、明らかに何かが足りなかったことも確かな事実でした。

 とにかく「意志」は明確に感じた。それは大事なことです。意志さえあれば、おのずと道が見えてくる・・ものなのです。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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