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2009_以前「2002 Club」の連載で発表したコラム・・たった一人の選手が、ゲームの流れを逆流させる(堀孝史という現象!)・・(2009年5月5日、火曜日)

ビシッ!

 レッズの守備的ミッドフィールダー、土橋から、ペナルティーエリアへ入り込む(フリーランニングをする)ベギリスタインへ素晴らしいスルーパスが通った。このままでは直接シュートされてしまう・・と、たまらずマリノスの永山が身体ごと押さえにいく。

 「ピーッ!!」

 それは、明らかなファール。ペナルティーエリアの中だからPKだ。そして「例によって」福田が冷静に右隅へ。ゴ〜〜〜ル!!

 1997年シーズン、セカンドステージ第二節、マリノス対レッズ。その先制点の場面を再現してみた。それは、後半に、レッズが生き返ったことを象徴するゴールだった。

 というのも、前半のレッズが、典型的な「悪魔のサイクル」に陥っていたからだ。マリノスに押し込まれ、ボールを奪い返しても、攻撃の押し上げがあまりない。選手たちは、「どうせスグにボールを奪われちゃうに違いない。ここで押し上げても、また必死に戻らなくちゃならないし・・」ってな心理状態。

 そんなことでは、攻撃がうまく回るはずもない。最前線の福田、岡野の動きも単調だ。そして「悪魔」に見据えられるように動きも緩慢になっていく。また守備も「受け身」。本当は、相手のパスを「読み」、インターセプトなど、積極的にボールを奪い返しにいかなければならないのに、ほとんどの場面で「相手のアクション」に反応するだけになってしまっていた。その原因はいろいろあったが、そのもっとも大きなモノが「中盤でのモビリティー(活動性)」の欠如だった。

 私は、ハーフタイムに入ったところで、この流れを逆流させるためには、モビリティーの権化、堀孝史を入れるしかないと思っていた。そして案の定、後半の最初から堀孝史が登場してくるのである。期待に胸が膨らむのも道理である。

 彼が入ったことで、前半は「悪魔の魔術」で、攻守にわたって消極プレーをくり返していた永井が最前線へ上がる。「今の」彼がもっとも能力を発揮できるポジションだ。

 「ボールをキープできる福田と、突破力のある永井がベストコンビだと思った」。ケッペル監督の采配は、堀孝史を入れたことも含めて的確だった。

 そして後半開始のホイッスルが吹かれた次の瞬間から、堀孝史の「積極プレー」に呼応するかのように、レッズの大逆襲がはじまるのである。

 堀孝史は、左サイドでチェイシング(ボールを持つ相手を追いつめる守備プレー)をしていたかと思えば、今度は右サイドで必殺タックルを見舞う。また最終守備ラインまで下がってカバーリングをしていたかと思えば、中盤に上がっての「穴埋めプレー」に精を出したりする。

 そして、ボールを奪い返したら、単純なクリエイティブ・パスを回すだけではなく(彼が入ったことで、レッズのパス回しも格段に速くなった)自らも最前線へ飛び出していく。そして、相手にボールを奪われたら、今度は40-50メートルの「チェイシング」だ。素晴らしい!

 とにかく、そんな堀孝史のプレーが、レッズの選手全員に「自信」と「勇気」を与えたことは確かな事実だった。守備は「ボールを奪い返す」積極プレーに大変身。そして、ボールを奪い返した後の攻撃も、大胆で積極的なものへとポジティブに変容していく。

 それまで数えるほどしか攻撃のサポートに上がっていかなかったチームメートたちも、「ヨシ、やれるゾ!」と、どんどん前戦へ押し上げていくようになる。もちろんそのカバーリングには「守護神」ブッフバルトがいる。土橋がいる。そして堀孝史がいる。

 サッカーは、ホンモノの心理ゲームだ。そのときの心理状態で、チーム力が「150%」に跳ね上がったり、「20%」にまで落ち込んだりする。ひとつのゲームのなかでも、チーム力が「150%」から「20%」の間を行ったり来たりするのも日常茶飯事なのだ。

 「今はAチームのペース・・今度はBチームの・・」ということの繰り返し。はやく悪魔のサイクルを断ち切った方がゲームを支配できるものなのだ。そしてそこには、「心理的ポテンシャル(自信・勇気ベースの積極性)」を高揚させる何らかの「刺激」がある。

 それは、大胆で惜しいシュートだったり、素晴らしいインターセプトだったり、監督の「パフォーマンス」だったり、はたまた、レフェリーの「ミスジャッジ」だったりする。

 このゲームにおけるレッズ最大の「刺激」は、明らかに、後半から登場した堀孝史だった。彼は、たった一人で、ゲームの流れを逆流させてしまったのである。

 1998年フランスワールドカップ本大会へ向けた最終予選。

 どんなに素晴らしいチームでも、かならず一度は「悪魔のサイクル」に陥ってしまうのがサッカー。ましてそこは、ワールドカップ予選という「肉を切らせて骨を断つ」ホンモノの闘いの場である。いまの日本代表チームでは、誰が「スーパー刺激プレーヤー」になるのだろうか・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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