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2009_海外サッカー・・ミランの組織プレーを活性化するだけじゃなく、様々な意味で、世界中の好奇の目を引きつけるデイヴィッドベッカム・・まあ大したモンだ・・(2009年1月30日、金曜日)

さて恒例になりつつある「ベッカム・コラム」。前回のキーワードは、大人のバランサーでした。今回は、組織パスプレーの流れを促進するベッカム・・

 前回コラムは、『一つの才能が、優れたチームにインテグレートされるなかで存在感を発揮し、確固たるチーム内ポジションを築いていくプロセスほど興味を惹かれる学習機会はない・・』なんていう文章で締めました。そう、ベッカムが描く「優れた組織プレーの流れ」のイメージが、ミランの攻撃プロセスを引っ張りはじめたのですよ。

 右サイドバックのザンブロッタが魅せるオーバーラップの量と質が高揚している・・。それもまた、ベッカムの攻守にわたる組織プレーの質が高いからに他ならない。「オレが行っても、デイヴィッドがカバーしてくれる・・オレが行けば、必ずデイヴィッドが、狙っているタテのスペースへボールを出してくれる・・」。そんな信頼。それがザンブロッタのプレーを大きく活性化しているということです。

 また、それまでピルロしかいなかった「人とボールの動きをコントロールするゲームメイカー」が一人増えたというポイントもある。そのことで、ピルロの負担が大きく軽減されただけではなく、しっかりと人とボールを動かすという優れた組織プレーも高揚するというポジティブなイメージ循環が活性化されている。

 要は、セードルフやロナウジーニョに代表される「組織プレーの活性化に逆行するフタ」に対する大幅な見直しが為されはじめているということです。

 セードルフやロナウジーニョといった天才は、カタチにはまれば誰にも真似の出来ないスーパー個人勝負プレーを披露してくれちゃう。それは、観る人々にとっても、ミランの大きな魅力にもなっているし、チームメイトも大いに期待することで、彼らのスーパープレーのために汗かきを厭(いと)わないという心理的傾向も「まだ」ある。

 でも、そのカタチにはまるまでが大変だというのも確かな事実。その意味で、この二人は、あくまでも組織プレーをベースに、そのなかに(チャンスを見計らった)爆発的な個人勝負プレーを繰り出していくというイメージのカカーとアレッシャンドレ・パトとは、個人プレーのコンテンツが違うのですよ。

 そこに、デイヴィッド・ベッカムという「大人のバランサー」が入ってきた。ベッカムのデビュー戦では、セードルフとロナウジーニョの二人が先発したけれど、次の試合からは、セードルフが先発で、ロナウジーニョがベンチに座ることになった(その代わりに組織マインドの高いアンブロジーニが入った)。そしてサッカーの内容が、徐々に高揚しはじめる。

 そのことは選手もしっかりと意識しているはず。だから、守備での機能性がアップしただけではなく(守備意識の高揚という副産物も生み出した!)攻撃でも、ボールがないところでの動きが活性化した。

 特に、最前線のカカーとアレッシャンドレ・パトが繰り出す、相手守備ラインのウラに広がる決定的スペースをイメージした「勝負の抜け出しフリーランニング」とか、逆サイドスペースで「待つ」プレーなど、ベッカムからの正確なロングパスを期待する、ボールがないところでの創造的プレーも目立つようになってきた。

 組織プレーと個人勝負プレーが、まさに『美しく』バランスしはじめたミラン(戦術プレーと才能プレーの高質なバランス!?)・・勝負でも無類の強さを発揮するようになるのも道理ということか・・

 そんなポジティブな雰囲気のなかで(ジェノア戦で)飛び出した、ベッカムのスーパーFKゴール。もう、ベッカムなしのミランなんて考えられない。

 そこで「これから」どうなるのか・・というテーマ。

 ベッカムのUSA進出に際しては、アメリカでのサッカー勃興への貢献だけではなく、ファッション界やハリウッドまでもが動くといった「大きなビジネス展開」が期待されていたそうな。だから「今さら・・そりゃ出来ないだろう・・」といった雰囲気があることは確かだよね。

 でも、ミランのウラには、現イタリア首相シルヴィオ・ベルルスコーニが控えているからね。「何でも」政治的な動きで解決できちゃうでしょう。またそこには、ベッカム自身が、フットボールネーションの「ホンモノの雰囲気」に郷愁の念を抱きはじめたという側面もある。それが、今回の「ちょっと不自然な短期移籍」の根本的なバックグラウンドだった!?

 いまの『全体的な動き』は、こんな感じじゃないだろうか。

 ベルルスコーニを中心に、LAギャラクシーからミランへの完全移籍へ向けた「周辺準備」は着々と進められている・・それでもミランのマネージメントは、その動きが表面化することを極力抑えながら(要はベッカムのビジネスマネージメント組織との駆け引きプロセスを冷静に分析しながら)あくまでもベッカム本人の意志を見定めるという態度を前面に押し出している・・

 ・・「実際、アンタはどうしたいの??」という、ちょっと距離を置いた姿勢・・もちろんベッカム自身はミランでつづけたい・・でもそこには、デイヴィッド・ベッカムという「ブランド」をリソースとする巨大ビジネスの錯綜した状況もある・・「売り手市場」か「買い手市場」か・・興味深いパワーストラグル(!?)が展開する・・だからこそベッカムは、全力で頑張っている・・

 いまのデイヴィッド・ベッカムは、サッカー的にも、ビジネス的にも、はたまた異文化接点的なポイントでも、世界中の好奇の視線を独り占めしている!? まあ、大したものだ。フムフム・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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