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2010_東アジア選手権・・やっぱり中国代表チームは完璧なイメチェン(実質的なブレイクスルー)を果たしつつあるようです・・末恐ろしい・・(韓国vs中国、女子=1-2、 男子=0-3)・・(2010年2月10日、水曜日)

 「とんでもネ〜〜な〜・・『眠れる龍』が起きちゃったじゃネ〜か・・これから日本と韓国は大変だぜ・・何せ10億人いるんだからな〜〜・・」

 帰り際に、後藤健生さん、前回コラムに登場した講談社の矢野透さんと、そんなハナシをしていました。もちろん、本当の意味で「チーム」になりはじめた中国のことです。個の才能はたくさんいるけれど、戦術的な部分でチームになり切れなかった中国。彼らが、ホントに「正しい」発展ベクトルに乗りはじめたと感じたのですよ。オ〜〜怖っ・・

 記者会見で、32年間におよぶ対戦史のなかで、初めて韓国に勝利を収めた中国の「ガオ・ホンボ監督」に、こんな質問をぶつけてみました。

 「中国が、多くの個の才能を生み出していることは衆目が認めるところだ・・ただ、正直にいって、いままでの中国はまったく怖くなかった・・これまでの中国は、チームじゃなかったからだ・・それが、この試合では、ホントに素晴らしいチームゲームを魅せてくれた・・このわたしのコメントに対してコメントをいただけないか・・?」

 ガオ・ホンボ監督。「(おっしゃる通り)サッカーはチームゲームだ・・我々は、前回の日本戦から、多くのことを学んだ・・今回、日本戦、韓国戦では、その学んだことを表現できた・・ただし、総体的な評価として、韓国、日本、中国のレベルを比べれば、中国は、まだまだこの2か国の下にいる・・それは事実だ・・」

 日本から組織プレーの何たるかを学んだんだってさ。とにかく、この謙虚さが怖い。「あの」暴力的で汚いプレーの中国はどこへ行っちまったんだ? 彼らが「あのような破壊的プレー姿勢」である限り、まったく怖くなかったのに・・。

 たしかに、日本戦、中国戦では(ガオ監督が何度も言っていたように)この大会前の10日間におよぶ合宿での準備が(ゲーム戦術=イメージ作りが)理想的に機能したということなんだろうね。しっかりと守って必殺カウンターを仕掛けていく・・というイメージを基盤にしてね。

 でも「そんなゲーム戦術」は、珍しくない。ただ今回の中国は、同じゲーム戦術でも、一味も二味も違った。

 まず、組織ディフェンスが素晴らしい。決して受け身に下がるのではなく、常に全員が、能動的にボール奪取を狙っている。そんな積極マインドだから、四方八方から繰り出される「全力の忠実チェイス&チェック」が素晴らしく機能するのも理の当然。そして、そんな「守備の起点プレー」に、周りのチームメイトの守備プレーが、ダイナミックに、そして正確に重なり合いつづけるのですよ。まさに「有機的なプレー連鎖の集合体」とも言える組織ディフェンス。素晴らしい。

 決して彼らは、下がって守備ブロックを厚くするなんていうパッシブなプレー姿勢などではなく、あくまでも、高い位置でのボール奪取をイメージするアグレッシブな守備を展開するのです。そしてボールを奪い返した次の瞬間には、爆発的な「蜂の一刺しカウンター」を仕掛けていく。

 最前線の「17番」がボールをキープし、同時に、後方から二人目、三人目が、背後の決定的スペースへ向けて追い越していく。

 そんなプレーのなかで、ボールコントロール、キープ力、ドリブル力などなど、彼らが秘める個人的な能力の高さを感じさせる「エスプリプレー」を披露するだけじゃなく、パス&ムーブをいくつも積み重ねてしまうような組織コンビネーションプレーも魅せつづける。

 「あの」中国が・・だゼッ!!! ホントにビックリさせられ、そして次には「冒頭のように」冷や汗をかくのですよ。

 数日前の日本代表との試合でも、同様の「素晴らしいゲーム戦術サッカー」で存在感を発揮した中国。そのコラムでも書いたように、決して日本が悪かったわけじゃないんだよ。そうではなく、あくまでも、中国が良かったんだよ。そのコラムは「こちら」を参照してください。

 そんな中国のゲーム戦術に完璧にはまりこんでしまった韓国。もちろん立ち上がり数分で先制ゴールを叩き込まれ(わたしの質問に応えてホ・ジョンム監督が述べていたように)、それを何とか取り返そうと前へ重心が掛かり過ぎ、焦ってしまったという部分もあったことでしょう。ハーフタイムには、ホ・ジョンム監督が、落ち着いて自分たちのサッカーを取り戻そうと言い聞かせたけれど、結局は、前半に「巻き込まれてしまった」ペースを逆流させることは難しかった(ホ・ジョンム監督)ということです。

 ビックリさせられたのは、ホ・ジョンム監督が言っていたように、前半に巻き込まれてしまった中国ペースを押し返すことができなかったということ。「あの」韓国がだゼ!! いや、ホント、ビックリさせられてしまった。

 わたしは「過度に偏向していく心理メカニズム」なんていう表現を使うんだけれど・・。

 ・・要は、韓国選手は、動いても、動いてもフリーになれない(組織コンビネーションでうまくスペースを突いていけない)ことで、徐々に足が止まり気味になっていってしまう・・もちろん意識としては、スペースを攻略しようとするするけれど、うまくいかないイメージの方が、ポジティブな意志を凌駕してしまう・・だから足が止まる・・だからスペースを突けずに、攻めが詰まっていってしまう・・

 とにかく「あの」韓国が、彼ら本来のダイナミズムを抑え込まれ、「寸詰まりサッカー」になってしまったというシーンを目の当たりにしてビックリしていた筆者だったのです。

 ところで中国。彼らのなかで「何か」が明確に変わりつつある・・。

 若い監督・・若い選手・・八百長スキャンダル・・それによる中国サッカー関係者の逮捕・・今回も果たせなかったワールドカップ本戦出場・・「カンフー・サッカー」などの世界からの揶揄・・などなど、そんなネガティブな現象が、彼らにとって、とてもラディカルな「刺激」になっている!?

 そのことについて、中国ジャーナリストの何人かに聞いてみた。「こんな素晴らしいサッカーをやる中国代表チームなんて観たことない・・いったい、何が変わったんだい??」

 「えっ?? 中国は、いつもポテンシャルの高いチームだよ・・」

 「何いってんだよ・・だったら、いつも日本や韓国に勝てるはずだし、ワールドカップだって毎回出場していなきゃいけないよな・・アンタたちの人口は、日本の十倍なんだぜ・・まあ、アンタが言ったように、たしかに、個人的な才能という意味でのポテンシャルの高さは認めるさ・・でもサッカーはチームゲームだからね・・」

 そんな私の勢いに、中国人ジャーナリストたちは「シーン・・」と静まりかえる。

 「だからサ・・いつから中国代表チームが、こんな素晴らしいサッカーを出来るようになったのかが知りたいんですよ・・そこには、何かの刺激があったはず・・例えば、中国プロリーグでの八百長スキャンダルとか、ワールドカップ予選で負けつづけているとか、日本や韓国に勝てないとか・・いろいろなことがあるじゃないですか・・そんな刺激があったからこそ、中国代表チームのサッカーが大きく変わりはじめたとおもうわけなのですよ・・いったい何が、もっとも大きな刺激だったんだろう・・」

 そして一人の中国人ジャーナリストが、たどたどしい英語で、こんなことを語ってくれた。

 「たしかにアンタが言うようなことは、全てが大きな刺激になっていると思うし、それが中国サッカーを良い方向へ引っ張りはじめたのかもしれない・・でも、やっぱり、八百長スキャンダルが一番のターニングポイントだったかな・・そのショックは計り知れないものだったからネ・・だから、監督も、選手も、自分たちが中国サッカーの正しい姿を示さなければいけないという意識をもって今回の大会に臨んでいたということだね・・あっ、それから、国際舞台での汚いプレーで、カンフー・サッカーって揶揄されたことも、選手にとっては、ちょっとショックだったようだね・・若い選手は、あれはオレ達じゃないって言っているしね・・」

 フムフム・・。聞くところによると、中国サッカー界も、かなりの「人」の入れ替えがあったらしい。そして体質が改善されていった!? たしかに、ガオ監督にしても、若い代表選手たちにしても、とても清々しく、フェアに、そして高質なプレーを展開しているよね。だからこそ、末恐ろしい・・

 今回の東アジア選手権での彼らは、最終日の「香港戦」を残すのみということで、優勝争いで、とても有利になった。さて・・

 




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