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2010_東アジア選手権・・ちょいと気になった「決定力」について・・(2010年2月12日、金曜日)

「湯浅さん・・たしかに稲本の登場がゲームの流れを変えたし、それをコラムのポイントにするのはよく分かるんですが・・わたしが一番気になったことは、あれだけチャンスを作り出したのに、それをゴールに結びつけられなかったことなんですよ・・」

 知り合いの方から、コラムを読んだ後ですが・・と電話をもらったのですよ。ナルホド、人々の脳裏には、チャンスを無駄にしたという印象の方が、より強く残っているということか・・。

 そう、大久保嘉人、平山相太。また、素晴らしいゴールを決めた玉田圭司にしても、チャンスを決め切れなかったシーンがあった。そして中村憲剛。

 ケンゴについては、昨年9月のガーナ戦でも、三回の絶対的チャンスを決め切れなかったシーンが記憶に新しいですよね。そのゲーム、結局日本は「偶発要素の方が強く臭うゴール」を量産して逆転勝利したけれど、もしケンゴが、素晴らしい組織プレーから(その流れのなかでの目の覚めるような決定的フリーランニングから)作り出したチャンスをしっかり決めていれば、もっと強く「スッキリと勝ち切った」という印象が残り、それが(ケンゴ自身にとっても!)大いなる自信レベルのアップにつながったはずなんだけれどネ・・そうカメルーン戦へ向けて・・。

 決定力・・。もうこれまで何度も、何度も取り上げたけれど、そのバックボーンは、なんといっても「確信という心理力」と、それに支えられた「イメージ力」以外の何物でもないのですよ。

 要は、シュートを打つ前から、ボールがゴールに入っているイメージが脳裏に浮かぶかどうかということです。このことは、ドイツの伝説的ストライカーである「ボンバー」ゲルト・ミュラーや、ルディー・フェラーが、異口同音に、私に語っていた。彼らの場合は、シュートを打つ前から、ボールがゴールに突き刺さっているイメージが浮かぶんだってサ。

 そのレベルに行き着くまでのプロセスでは、気の遠くなるほどの物理的トレーニングと、イメージ・トレーニングを積み重ねていかなければなりません。決定力は、決して、一朝一夕に身につくモノじゃないのですよ。

 余裕がありゃ、そりゃ、シュートを決めるなんて簡単だよね。そして、一本か二本、ズバッというキャノンシュートを決めて「よしっ!・・良いイメージだ・・終わりよければ・・」なんていうイージーな心理でトレーニングを上がっちゃう。それじゃダメなんだよ。

 わたしは、ドイツの伝説的スーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーに教えを請うたコーチです。以前に何度も書いたけれど、とにかく、彼のコーチング・エッセンスを盗もうと必死に努力したことを覚えていますよ。もちろん彼の有り難いお言葉を拝聴するだけじゃなく、そのトレーニングを必死に観察することも通してね。

 当時、彼は1FCケルンの監督だった。そして、当時のケルンのスーパースターだった、ストライカーのディーター・ミュラーを、全員のトレーニングの2時間前に呼びつけ、特別なシュートトレーにニングを課すのですよ。そこでヴァイスヴァイラーが、本当に様々な「心理的刺激」を与えながら、ディーター・ミュラーを、精神的に追い込み、心理的にモティベートする・・。その心理的な葛藤プロセスは、もの凄い迫力だった。観ているこちらも冷や汗をかくような・・ね。

 「ダメだ・・まだまだ・・オマエの才能は、そんなもんじゃないぞ・・シュートする前から、ボールがゴールに突き刺さっているイメージが持てているか?・・オマエの才能をホントの意味で開花させるのがオレの仕事なんだ・・オマエも、中途半端なところで自己満足したら、単にポルシェ・ターボを買えるだけのつまらないプロで終わってしまうぞ・・何だそのシュートは・・気が入っていない・・」

 そしてディーター・ミュラーは、ドイツ史に残るストライカーへと脱皮していった。フムフム・・

 一つの、イメージトレーニング(心理トレーニング)のもっていきかたの例だけれど・・

 例えばドリブルシュート。フェイントで相手のウラを取ってシュートポジションに入った。ただその瞬間に、それは「単なる始まり」にしか過ぎない・・実際のゴールはまだまだ遠い・・そういう感覚を呼び起こせるかどうか。そこで、最後の、最後まで「シュートを決めてやる!!」という強烈な意志(イメージ)を持ちつづけられるかどうか。そんな「気のチカラ(緊張感!?)を維持できること」こそが、もっとも大事なテーマかもしれない。

 また、 味方からのスルーパスを「ダイレクト」でシュートするときも同じ。パスが来るかもしれないというイメージは「単なる始まり」にしか過ぎない。そこから実際にゴールを決めるまでには大変な「心理的な壁」があるのですよ。それを「集中力」なんて呼ぶんだろうね。

 集中力と勇気・・。まあ、チャンスに至るプロセスでの(フェイント&ドリブルなどの)ナイスプレーやフリーでスペースへ走り込む快感に「酔って」しまったら、もうオシマイっちゅうことだね。

 水泳でも「あと30メートルで(もうすぐ)ゴールだ・・」などと思った瞬間に「気力(集中力)が大きくダウン」してしまうというからね。そうではなく、まだまだターンして「次がある」という「イメージ力」が最高の結果につながるんだそうですよ。

 とにかく、シュートも含めて、全てのプレーが「まだまだプロセスにしか過ぎないんだ」と強烈にイメージできることが大事・・ということですかね。そのためには、例えば、「まだまだ!・・これから!」といった「キーワード」が自然と脳裏に浮かぶレベルまでトレーニングを積み重ねなければならないということです。

 究極のストイック(禁欲的)な姿勢・・!? カッコイイじゃない・・。そんな「ストイックな決定力の権化」になれれば、社会から「ホンモノの敬意の視線」が向けられ、社会のイメージリーダー的な存在にまで上り詰められるはずです。

 何か、ハナシがあっちへ行ったり、こっちへ来たり。やっぱり「決定力」って、つかみ所のないテーマなんだね。かしこ・・

 




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