The Core Column


The Core Column(22)__さて、本田圭佑・・人とボールの動きをアップさせる「加速装置」として存在感を発揮せよ・・(2014年1月28日、水曜日)

■スピードでブッちぎられて・・

イタリア、セリエA第20節。ACミラン対ヴェローナ。

後半10分のことだ。

ミラン、中央30メートルからのフリーキック。蹴るのはバロテッリ。

ただシュートされたボールは、相手の壁に止められ、そこからヴェローナが、怒濤のカウンターをブチかましていった。

ミラン守備の人数は、不足気味。そのフリーキックスポットにいた本田圭佑も、必死に戻らなければならなかった。

そのとき、後方から大外を回って飛び出し、右サイドのタッチライン際を全力スプリントでオーバーラップしていったヴェローナ選手がいた。右サイドハーフのロムロ。

このシーンで本田圭佑は、ロムロへのタテパスを追いかけるように、これまた全力スプリントで守備に入ったのだ。

本田圭佑がスタートしたときの位置は、後方からオーバーラップしてくるロムロよりも自軍ゴールに近かった(ロムロよりも前だった)。でも・・

最後は、足が速く、先にボールをコントロールしたロムロにブッちぎられ、決定的なラストクロスまで送り込まれてしまったのだ。本田圭佑は、スピードで完璧にロムロの後塵を拝したのである。

ちょっとショッキングなシーンではあった。

・・こんなに本田圭佑は、足が遅いのか・・

まあ実際は、「本田圭佑はそんなに足が速くない・・」という表現ニュアンスの方が妥当だろうし、抜群にスピードのあるロムロに対して、ちょっと回り込むように走るという不利もあったわけだけれど・・。

そして本田圭佑は、その8分後、ビルサとの交替を告げられることになる。

■本田圭佑が秘める天賦の才・・

私は、ミランに加入した本田圭佑が、チームメイト(主力選手!)から「かけがえのない選手」としてレスペクトされ、頼りにされるまでには、まだまだ紆余曲折があると思っている。

もちろん彼に、チーム内ステータスを確固たるものにできるだけのキャパシティーが備わっていることは言うまでない。

・・シンプルなタイミングで(ダイレクトで!?)回す展開パス・・ボールを簡単に失わない優れたキープ力(高い技術に支えられた実戦的スキル)・・

・・次の勝負プロセスを明確にイメージ描写し、ボールを「タメ」ながら放つ効果的なタテ(スルー)パス・・そして、有利なカタチでパスを受けられたら、迷うことなく、危険なドリブル突破をブチかましていく・・等など・・

なかでも特筆なのは、シュート決定力。

これまでに何度、日本代表が、そんな彼の天賦の才に助けられたことか。

まあ、一昨日(2014年1月26日)の21節アウェー、カリアリ戦では、何度も訪れた(少なくとも3回!)絶対的チャンスを決め切れなかったけれど、それは、彼にしては例外的な失敗だった。

そんな、キャパ十分の本田圭佑だけれど、これからミランで成功し、世界トップサッカーの一員として誰もが認める存在になるまでには、まだ課題も多いのだ。

彼は、1人「だけ」でも決定的な勝負プレーを完遂してしまうような「スーパーな天才」ではない。そう、彼はディエゴ・マラドーナではないのだ。

CSKAモスクワ時代は、チームメイトたちも彼の才能を認め、そこにボールを集めてスペースへ走るなど、自分たちのためにも(!)、本田圭佑をうまく利用しようとしていた。

だから、攻撃の中心として活躍できた。

でも今は違う。そこは、ACミランという世界トップの舞台なのだ。

そこでも、それも加入したばかりのタイミングで、CSKAモスクワ時代のプレーイメージを押し通せるとは思えない。

■逆に、彼が得意ではないこと・・

本田圭佑は、いつも書いているとおり、本物のドリブラーじゃない。

本物のドリブラーは、屈強でスピードのある本場の強者ディフェンダーと「静止して対峙する」状況からでも、フェイントやスピードを駆使して(高い確率で!)危険な突破ドリブルをブチかましていけるものだ。

もちろん本田圭佑にしても(香川真司や岡崎慎司にしても!?)、自分がスペースへ入り込んでいく動きのなかで、理想的なタイミングやコースの勝負パスをも らえれば、走るスピードを落とすことなく、眼前のディフェンダーから「すり抜ける」ように、ドリブルで突破していけるだろう。

でも、止まり気味で相手と対峙するのは、まったく次元が異なる状況なのだ。

要は、彼もまた、人とボールが活発に動きつづける「組織サッカー」を必要としているということなのだが、だからこそ、ゴリ押しのドリブル突破にチャレンジするような愚は冒さず、シンプルなタイミングで展開パスを出して動き、次のスペースで「再びボールを持とう」とする。

彼は、(前述した)自分が出来ることと得意ではないことを、しっかりと理解しているのである。

■ACミランという異次元の世界・・

私は、そう簡単には、ミランの強者連中が、本田圭佑のプレー(仕掛け)イメージに敬意を表し、それに積極的に合わせよう(従おう)とするはずがないと思っている。

実際に本田圭佑が、自分のプレーイメージ(仕掛けのコンビネーション!?)を押し通した「自己主張シーン」は、希だった。

例えば、ブラジル代表のカカーとロビーニョ。また、イタリア代表の絶対的エース、バロテッリ。

彼らがボールを持ったら、まず、自分が「中心」になって最終勝負コンビネーションをスタートさせようとしたり、突破ドリブルから最終勝負へ持ち込もうとする。

まあ、だから、ミランの「仕掛けの流れ」が停滞気味になってしまうシーンが多いのだけれど・・。

そんな彼らが、積極的に本田圭佑にボールを渡し、自分は、パス&ムーブで決定的スペースへ走ろうとする(積極的に「汗かき」をする!?)とは思えない。

もちろん、「まだ、この時点では・・」というニュアンスだけれど・・。

■互いに「使い」、「使われる」というイメージのバランス・・

そんなスーパースター連中に対して、本田圭佑は、CSKAモスクワや日本代表と同じように、自分にボールを集めさせ、自分が中心になった仕掛けの流れを作りだそうとする。

要は、オレにボールを渡して、オマエは走れ・・ってなプレー姿勢が目立つということだ。

・・オレは、パサーだ・・ゲームメイカーだし、チャンスメイカーだ・・だからオレにボールを渡して、オマエは走れ・・

だから、立ち止まり気味で、味方からの「足許パス」を待つというシーンが多い。

でも彼は「ディエゴ・マラドーナ」ではないし、ACミランのチームメイトは、世界トップに君臨する強者ばかりなのだ。

そんなチームメイトのなかで、加入したての本田圭佑が、味方を「使う」プレーをイメージし過ぎているのである。

このことは日本代表でも言えるのだけれど、本田圭佑が「グラウンドから消えてしまう」という時間がある。

それは、全体的な運動量が足りないだけではなく、足許パスを「待つ」というプレー姿勢にも起因している。

そんな本田圭佑だから、彼をマークする相手にとっても、狙いやすいターゲットということになってしまう。それでは、チームメイトが、本田圭佑の足許へパスを出しにくくなるのも道理だ。

そして本田圭佑は、グランウドから「消えて」しまう。

ここで言いたいことは、彼は、もっと味方に「使われる」というイメージ「でも」プレーしなければならないということだ。

そのために、攻守にわたって、ボールがないところでのプレーの量と質を(もっと!!)アップさせなければならない・・と思うのである。

■本田圭佑が立ち向かっていくべきチャレンジ・・

さて、本田圭佑が志向すべき「ミランでのチャレンジ」というテーマで、このコラムを締めることにしよう。

まあ、ハナシは簡単。

要は、本田圭佑がリードするカタチで、ミランの組織サッカーを進化させるのだ。

いまのミランが抱える大きな問題点が、人とボールの動きの量と質にあることは、誰もが指摘しているポイントだと思う。

そう、人とボールの動きを、よりスムーズに、より素早く、より大きく、そして、より正確に、創造的に・・

そんな組織サッカーは、新監督クラレンス・セードルフが志向するベクトルにも合致するはずだ。

もし本田圭佑が、そんな進化の主導権を握れるのだとしたら、こちらの気合いも天井知らずということになるじゃないか。そう、願ってもない学習機会。

もちろんそこでは、互いに「使い」、「使われる」というイメージの浸透とバランスが、決定的に重要な意味をもってくる。

そんな「バランス感覚」を、本田圭佑がリードするカタチでチームに浸透させられたら、それほどエキサイティングな出来事はないと思うのだ。

いまこの時点でも、(本田圭佑が入ったことで・・!?)ミランのボールの動きは、少しは活性化しはじめていると思う。

でも、本田圭佑自身が語っている(!?)ように、ボールポゼッションをアップするという視点では、まだ足りない。

相手ディフェンスを振り回してスペースを攻略する高質なパスコンビネーションというレベルまでは、まだ道半ばなのだ。

だからこそ本田圭佑は、最終勝負コンビネーションの場面だけではなく、組み立て段階でも、もっと「パス&ムーブ」を繰り返すことで、自分のところへボールを集めさせなければ(戻させなければ)ならない。

そう、前々回のコラムで書いた、パスを呼び込む動きである。

そのことで、彼を中心に、人とボールの動きが加速すれば、(決定的)スペースを攻略していくパスコンビネーションも、より実効あるカタチで進化していくはずだ。

そして、そんな「リズムの変化」が、ミランのなかで本流になっていけば、カカーにしてもロビーニョにしても、はたまたバロテッリにしても、その流れに「乗って」くるに違いない。

何せ、その「仕掛けリズムの進化」によって、より頻繁に、相手ディフェンスの「薄い」ゾーンでボールを持てる(タテパスを受けられる)ようになるはずだし、そうすれば、得意の「ドリブル勝負」を、より効果的にブチかましていけるのだから。

そんな、ミランの進化を本田圭佑がリードする・・

夢のような学習機会じゃないか。

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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