湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第25節(2006年9月30日、土曜日)

 

二つとも、考察すべきポイントが豊富なゲームでした・・(フロンターレ対サンフレッチェ、3-3)(ジェフ対トリニータ、2-1)

 

レビュー
 
 まずフロンターレ対サンフレッチェ戦から。この試合だけれど、全体的に、サンフレッチェが展開する、攻守にわたる優れたチームプレーの方が目立っていたとする評価が妥当だと思っている湯浅です。

 要は、サンフレッチェの素晴らしく忠実でダイナミックなディフェンスが殊の外うまく機能していたということです。フロンターレ選手は、うまくフリーでボールを持つことができない。要は、仕掛けの起点をうまく演出できないということだけれど、そんなだから、フロンターレ選手の足が止まり気味になっていくのも道理といった前半のゲーム展開だったのです。

 それに対して、サンフレッチェ選手は、まさに自分たちがイメージする通りのゲーム展開に、心理パワーを倍増させていく。前半には、右サイドの駒野を中心にカウンターを仕掛けるというシーンがあったのだけれど、そこでは、フロンターレのゴール前に4人ものサンフレッチェ選手が詰めていましたよ。そんなダイナミックな仕掛けシーンに、自分たちがゲームを牛耳っているという確信に支えられた強烈な意志のチカラを感じたモノです。そして、そんな展開のなかで佐藤寿人の先制ゴールが飛び出した。前半22分のことです。

 そこからなんですよ、強いはずのフロンターレが、縮こまったサッカーから脱却できないことにビックリさせられてしまうのは。普通だったら、失点という「刺激」によってチームが覚醒するはずなのに・・。ホームスタジアムに下位チームを迎えた堂々たる優勝候補。そんな彼らが、相手にゲームを支配されるだけじゃなく先制ゴールまでも奪われてしまうという状況に陥ったにもかかわらず、「笛吹けど踊らず」ってな体たらくなんだからね。

 この試合では、ジュニーニョ(ケガ)とマギヌン(出場停止)がいない。だから私は、中村憲剛のリーダーシップに期待して観戦に赴いたのですよ。それなのに・・。

 中村憲剛のパフォーマンスには、ちょっとガッカリさせられた。守備でも攻撃でも、彼の才能レベルの高さは誰もが認めるところでしょう。それが、あまり動かずに味方からのパスを「待つ」ばかり。例によっての「歪んだバランサー」イメージ!? そこでは、パスを引き出すような、ボールがないところでの動きを入れたり、周りの味方を動かすようにコンビネーションをリードしたりする意志が感じられない。

 まあ、自動的に彼のところにボールが集まってくるのだから、そこから前線や相手守備が薄いゾーンへパスを供給していればいいというイメージなんだろうね。実際、何本か、素晴らしいスルーパスを決めたり、ロングパスを通したりしていた。でも、彼の才能レベルからすれば、それは、単発プレーと表現するのが妥当です。才能の限界を追求しないマインド!? もし本当にそうだとしたら、いまの彼は、フロンターレにおける「チーム戦術的なタスク」によって、発展の可能性を摘み取られてしまっていると言えるのかもしれない・・。バランサー&後方のゲームメイカー??

 とはいっても、後半の半ば過ぎになって、ようやく中村のチャンスメイクが機能しはじめました。ドリブル勝負を仕掛けていったり、ボールがないとろで前線まで飛びだしていったり。そして、フロンターレの攻撃コンテンツが格段に危険なものへと変容していく。どうして「あのような積極的な仕掛けプレー」を最初からやらないのだろうか・・なんて思いながらも、逆に、それでもやっぱり、攻守にわたるボールがないところでのアクションの量と質には、明らかに大きな課題がある・・とも感じていた湯浅でした。

 さて、ゲーム。「2-2」になったあたりから(後半20分過ぎ)、俄然ゲームが盛り上がっていきました。やっと本物のサッカーらしくなった。それにしても、フロンターレのスロースターターぶりには、ちょっと閉口させられた。まあ、中盤のリーダーが不在ということだろうね。

 もう一つ。(先日観戦したレッズ戦でも)この試合でも、サンフレッチェのウェズレイが展開した老かいなプレーが際立っていたことは特筆モノでした。サンフレッチェの2点目と3点目をお膳立てしたのも彼だったし、最前線で、しっかりとした「ポスト」を演出できていることで、後方からの押し上げを心理的にサポートしていた。

 彼にボールが「おさまる」からこそ、服部公太と駒野友一の両サイドだけではなく、柏木陽介や森崎浩司、はたまた(この試合でも素晴らしいプレーを披露した)青山敏弘といった中盤選手も、思い切って最前線スペースへと飛び出していける。そして「それ」こそが、いまの好調サンフレッチェの攻撃を支えている隠されたバックボーンだと思っていた湯浅でした。

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 さて次は、ジェフ対トリニータ。とにかく気合いの入ったダイナミックな「守り合い」という展開になりました。決して受け身のディフェンスではなく、互いに「前から」ボール奪取勝負を仕掛けつづけるというエキサイティングな展開。

 互いに、素晴らしく忠実でパワフルなディフェンスを展開する両チーム。例によってジェフは最初からマンマーク(ツートップは水本と結城、両サイド、梅崎司には坂本将貴、トゥーリオには阿部勇樹、エジミウソンには佐藤勇人など)。対するトリニータも、限りなく「マン・オリエンテッド」な守備のチーム戦術。そんなだから、フリーでボールを持つ選手がまったく出てこないという「ダイナミックな均衡状態」がつづくのも道理じゃありませんか。

 前半のサッカーは、まさに中盤でのボール奪取勝負のオンパレードといった内容でした。私は、局面での「読み合い」や「だまし合い」を楽しんでいたけれど、ほとんどシュートチャンスがないという展開は、観客の皆さんには退屈だったでしょうね。それが後半になって・・。

 まずトリニータ高松が、正確なクロスをしっかりと叩いて先制ゴールを挙げます。後半9分のことです。

 「こんな展開のゲームの場合、あのようなゴールで試合が決まってしまうことがほとんどだ・・」。試合後の記者会見で、ジェフのアマル・オシム監督が言っていました。もちろんそれには、攻め上がるジェフに対して、トリニータが効果的なカウンターを仕掛けてくるという意味合いも含まれています。実際、1-2本、トリニータに追加ゴールのチャンスがあったからね。

 観ているこちらも、「この試合の流れじゃ、ジェフは同点に追いつくのが精一杯だろうな・・でもその前にカウンターで追加ゴールを奪われて万事休すってなことになってしまうかもしれない・・」と思っていたものです。でも実際は、ジェフが大逆転劇を達成してしまうのだから、正直、ビックリしていましたよ。

 アマル・オシム監督は、「最後の10分間はどちらに転んでもおかしくないゲーム内容だった・・トリニータは、体力的にも、戦術的にも、本当に良いチーム・・そんな強い相手に逆転で勝てたことには重要な意味がある・・ジェフの守備はよかった・・1-0でリードされても、とにかく最後までしっかりと守れていた・・」と述べていました。

 そこで質問をする湯浅なのですよ。「この逆転劇は、アマル監督が言っていたように、非常に難しいモノだったと思う・・それでも達成した逆転劇だけれど、その背景にある必然と偶然ファクター(要素)のうち、このケースでは、どちらの要素がより大きく作用したと思いますか?」。

 それに対して、ニヤリと微笑んだアマル・オシム監督は、「たしかに、トリニータにカウンターから打たれたバー直撃のシュートについては、運があったと言わざるを得ないのかもしれないが、最後の最後に我々が逆転劇を達成できたことは、必然だったと思っている」と断言していましたよ。

 この質問の背景については、先日のナビスコ準決勝第二戦(対フロンターレ)のレポートを参照してください。

 今日は、自宅から川崎、そこからフクアリ、そして帰宅と、全部で「170キロ」も走ってしまった。私のオートバイは「フルカウルでセパレートハンドルのレーサータイプ」だからね、本当に素晴らしい「背筋トレーニング」になりました。ということで、今日はこのあたりで・・。

 



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