湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第18節(2008年7月21日、月曜日)

 

光明は見えたけれど・・(レッズ対フロンターレ、1-3)

 

レビュー
 
 申し訳ありませんが、このコラムでは、攻守にわたって素晴らしく「忠実&ダイナミック&シンプル」な組織サッカーを展開したフロンターレに敬意を表しながらも、レッズを中心にレポートしようと思います。悪しからず・・。

 立ち上がりのレッズには、本当に素晴らしい勢いがありました。スリートップとはいっても、基本的には「ワントップ・プラス・ツーシャドー」ということになります。それも、ワントップはどんどんと入れ替わる。要は、スリートップが、縦横無尽のポジションチェンジを繰り返しながら、攻守にわたって抜群の積極プレーを魅せつづけるのです。

 そんな「ダイナミック3トップ」の積極プレーに触発されるように、両サイドの相馬崇人と平川忠亮だけではなく、この試合で守備的ハーフコンビを組んだ鈴木啓太(前節レポートでは、啓太が出場停止という間違ったことを書いてしまいました・・ご容赦アレ)と山田暢久が交替にサポートに上がっていったり、この試合ではリベロに入ったトゥーリオも、タイミングを見計らって上がり、危険やスルーパスを通したり最終勝負シーンに
(もちろん相手守備にとって見慣れない顔として!)突然現れたりする。

 まさに、血湧き肉躍るダイナミックサッカー。観ているこちらも爽快感にあふれていましたよ。そして、心のなかを、こんな思いが駆けめぐっていた。「ホントに久しぶりだよな・・選手一人ひとりのアクションがこんなに効果的に(有機的に)連鎖しつづけるなんて・・攻守にわたる組織プレーがうまく機能するからこそ、個人のチカラが活きるんだよ・・高原も活き活きとプレーしているじゃないか・・」等々。

 それだけじゃなく、攻守にわたって抜群の存在感を魅せつけつづけるトゥーリオについても、こんなことを思っていた。「トゥーリオも楽しそうじゃないか・・これまで中盤をやって経験を積んだからこそ、中盤ダイナミズムを高揚させるためのタイミングの良いサポートアクションのコツも掴んだということだよな・・それだけじゃなく、リベロとして最終ラインを統率したり、相手のロングボールを効果的にはね返すなど、ディフェンスでの存在感『も』発揮する・・そりゃ、楽しいだろう・・」

 でも(高原直泰の先制ゴールも含めて!)そんなポジティブな展開が、前半15分あたりから雲行きが怪しくなっていくのです。エンゲルス監督に言わせれば、消極的なリアクションサッカーになってしまった・・ということになるけれど、わたしは別な見方をしていました。要は、スリートップのアクションが停滞しはじめたことで、中盤が「薄く」なってしまったということです。

 もちろんそこには、フロンターレ守備のダイナミズムが大幅にアップしたという背景もある。忠実なチェイス&チェック(アプローチ)からのパワフルでスキルフルなボール奪取勝負を繰り広げることで、中盤でゲームを支配しはじめたフロンターレ。本当に効果的にボールを奪い返していたわけだけれど、もちろん「それ」にしても、レッズの人とボールの動きが減退したからに他ならない。

 サッカーは、究極の「相対ボールゲーム」なのですよ。

 私は、レッズの攻守にわたるダイナミズムが減退したことの重要な要因の一つが、スリートップのアクション内容が(特に守備において)急激にダウンしたこと(そして、そのことでレッズ中盤が大幅に薄くなってしまったこと)だと思っているのです。

 やはり彼らスリートップが描くプレーイメージの基本は「フォワード」だということなんだろうね。だから、特に疲れてきたら、最前線に「張って(残って)」しまう傾向が強くなってしまう。

 そして、前半20分あたりから完璧にゲームを支配しつづけたフロンターレが、同点ゴールまで叩き込んでしまうのです。GKと最終ラインの間のスペースを突かれた完璧なチャンスメイクではありました。

 ところで、その「猫の額のようなスペース」へ正確なラストクロスを送り込んだフロンターレの新顔ヴィトール・ジュニオール。良い選手じゃありませんか。ボール絡みのスキルフルなプレーだけじゃなく、攻守にわたって、ボールがないところでも、しっかりと、効果的に機能している。フロンターレのスカウトが優秀なのでしょうかネ。少なくとも、マリノスの「ロ・ロ・コンビ」や、アントラーズのマルシーニョとは比べものにならないほど良い組織プレーイメージをもっていると思いますよ。

 ちょっと話題が逸れるけれど、私は、マリノスの「ロ・ロ・コンビ」と、アントラーズのマルシーニョの「チームへのフィット・プロセス」に興味津々なのです。特に、アントラーズの「ストロングハンド」オリヴェイラ監督が、どのように(心理的に!?)マルシーニョをマネージするのかというテーマには、もの凄く心引かれる。このことについては、昨日の「このコラム」も参照してください。

 ハナシが逸れてしまった。さて、勢いが大きく減退したレッズ。わたしは、後半の立ち上がりに目を凝らしていました。選手一人ひとりのプレー姿勢を確かめるためにネ。そして、ちょっとホッと胸をなで下ろしていた。再び、レッズのプレーに積極性がもどってきたのです。

 ゲルト・エンゲルス監督は、ハーフタイムにどんな言葉を投げかけたのか。メディアに提供される「ハーフタイムコメントシート」からは、スリートップに対して何らかの心理的アプローチがあったことが読み取れた。そして、彼らのプレーが、再び活性化しはじめたのです。

 たしかに前半立ち上がりのような抜群の勢いではないにしても、少なくとも、攻守にわたって仕事を探しつづけるという積極プレー姿勢がアップしたことだけは感じられた。そしてエンゲルス監督が、そんなポジティブな流れのなかで、田中達也に代えて永井雄一郎を投入するのです。

 田中達也の出来は、良かったですよ。彼のボールがないところでの動きは、仕掛けの流れを活性化していた。でも、ちょっと動きのダイナミズムが落ちてきていたから、その交替は、非常に良いタイミングだったと感じました。それも、二列目という意識がより強い永井雄一郎の投入だからね。そして実際に、その交替から、レッズのサッカーにより一層の勢いが乗るようになっていったのですよ。

 ただ、これは期待できる・・なんて思っていたら、(レッズの)セットプレーチャンスでの「ドサクサ」から繰り出されたカウンターを決められてリードされてしまうのです。そこでは、カウンターを繰り出したフロンターレの人数が勝っていたから、まあ脱帽。そしてその二分後には、トゥーリオのミスからボールを奪われ、追加ゴールまで奪われてしまうのです。まさに「サッカー的なゲーム展開」ではありました。

 結果にはちょっとガッカリだけれど、前述したように、内容的にはポジティブな要素も多かったわけだから、これでチームの「モラルやフォーム」が減退方向へいってしまうようなことにはならないでしょう。もちろん、チームの「本当の事情」については、外様の私に分かろうハズがないけれどね。

 私は、トゥーリオを「このまま」リベロで起用しつづけることで、彼の後方からの(攻撃への)エネルギー注入を期待しながら、中盤での攻守にわたる(まあ特にディフェンスでの)ダイナミズムをアップさせる方向でゲーム戦術を(選手タイプの組み合わせを)練ることが肝心だと思っているわけです。

 とにかく、まず何といっても中盤でのディフェンスが最も大事なテーマなのですよ。それがうまく機能してはじめて、次の攻撃に勢いが乗っていくものなのです。

 わたしは明日からドイツ出張。ビジネスミーティングだけではなく、ドイツ(プロ)コーチ連盟主催の「サッカーコーチ国際会議」に参加してきます。そのために次節のアントラーズ戦は観られず仕舞い。ビデオに予約してあるから、帰国してからジックリと分析することにします。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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