湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2008年8月16日、土曜日)

 

レッズの「組織プレー」が再びアップ基調に乗りはじめた!?・・(FC東京vsレッズ、0-1)

 

レビュー
 
 試合の立ち上がりから、守備ブロックを高く保ちながら、レッズの前の三人(高原直泰、永井雄一郎、田中達也)に仕事をさせないだけではなく、積極的なボール奪取勝負(ボール狩り!)を仕掛けていくことでゲームの主導権を握ったFC東京。

 前戦のエメルソンとカボレがうまくボールをキープしながら(またはダイレクトで)スペースへ展開し、その流れに、両サイドバック(長友佑都と今野泰幸)、平山相太と石川直宏、そして守備的ハーフの羽生直剛が絡んでいく。そして、人数が揃っているからこそうまく機能する「忠実でシンプルなコンビネーション」を駆使して、レッズの決定的スペースを突いていくのですよ。

 そんな仕掛けの流れから、何度か、レッズ守備ブロックの決定的スペースを攻略してしまうFC東京。まあ最後は、トゥーリオが主導するレッズ最終ラインの粘りのディフェンス(決定的スペースのカバーリング)によって、ギリギリのところではね返されてしまうわけだけれど、それでも前半25分あたりまでのFC東京のシンプルな「コンビネーション」には抜群の勢いが備わっていたことは確かな事実でした(『あの』トゥーリオでさえ二度も抜き去られるシーンがあったからネ!)。

 ただ前半も30分を過ぎるあたりから徐々にゲームの流れが拮抗していった。もちろんそれは、レッズの中盤ディフェンスがうまく機能しはじめ、逆にFC東京の「前から仕掛けていく勢い」が徐々に減退していったからに他ならない。

 ただし、その両方の現象は相互に影響し合っているから、どちらが・・と明言しにくいのもまた事実。まあ私の目には、FC東京のプレー姿勢が「落ち着いてきた」ことの方が、より大きなキッカケだったと映っていたけれどネ。

 ということでゲームが拮抗し、そしてレッズへと傾きはじめたわけだけれど、その流れを「心理的に加速」させた出来事があった。それは、レッズ田中達也が「エイヤッ!」とブチかましたドリブル中距離シュート。東京GKの正面に飛んでしまったけれど、そのシュートの勢いといい、コースといい、それは、それは、ものすごい迫力の「世界レベル中距離シュート」でした。そしてそれこそが、レッズ選手にとって大いなる「刺激」になった(チームメイトに勇気を与えた!)と思うのです。「そうだ・・オレ達ももっと仕掛けていかなければ・・」

 余談だけれど、田中達也のドリブルシュートは後半にも飛び出した。後半9分。スローインを受けた達也は、そのまま迷わずドリブルで中へ切れ込んでいき、そのまま左足を振り抜いたのです。蹴られたキャノンシュートは、そのまま東京ゴールの左上角のバーを直撃した。ドカンッ!と揺れるゴールマウス。

 田中達也は日本代表でも「やって」くれるに違いない。やはり彼の「勝負ドリブル&爆発シュート」は、チームにとっても素晴らしい「心理的」価値を秘めている。

 ちょっとハナシが前後するけれど、前半の田中達也の「一発」に触発されるように、その数分後には、永井雄一郎からのロビングパスに抜け出した高原直泰が、東京ゴールのポストを直撃するキャノンシュートを放ったことにも触れなければいけません。それもまたチームの積極マインドを大いに刺激したわけです。

 それ以外でも、FC東京の「フラットな最終ライン」の逆を取るように、何度か、決定的スペースへの「抜け出しフリーランニング」と「スルーパス」がピタリとシンクロするシーン(もちろん決定的シュート場面!)が演出された。そして、ゲームのペースが完全にレッズへと傾いていくのです。

 その流れは後半になっても変わらず、それが「順当」な決勝ゴールとなって結実するわけです。

 ここからは、いくつかのテーマについて簡単に触れたいと思います。まず、1-0とリードしたレッズの、最後の10分間の「マズイ守備」。

 全員が下がりすぎることで、相手ボールホルダー(次パスレシーバー)に対するチェイス&チェックがうまく機能しない・・そのことで、中盤に、どんどんと全くフリーな相手ボールホルダー(仕掛けの起点)が出てきてしまう・・そしてそこから、ゴール前への勝負パスやクロスが、どんどんと送り込まれてしまう・・

 ・・中盤での「抑え」がまったく効かないレッズの守備・・もっと「寄せ」なければならない場面で、中途半端なポジショニングしか取れない・・だから守備の起点ができない・・細貝や堤など、元気な若手を中盤ゾーンに送り込むという柔軟なリーダーシップがあってもよかった・・

 次が「エジミウソン」というテーマ。

 結局この試合ではベンチに座りっぱなしでした。もちろん(エジミウソンがいない)この試合の方が、レッズの前戦ゾーンに様々な意味を内包する「効果的な動き」が出てきていたことは誰の目にも明らかでしょう。だからこそ、スペースをうまく使えたわけです。

 エジミウソンは、この試合の内容をどのように考えているのだろうか。「それでも」自分の(低次元な!?)プレーイメージに固執するのだろうか?

 これは、非常に難しい「心理マネージメント的テーマ」です。エジミウソンが放散しているに違いないネガティブな心理エネルギーによってチーム内に発生する「緊張感」。それを、どのようにポジティブな方向へマネージしていくのか・・。ゲルト・エンゲルス監督のウデに期待しましょう。

 次が「ポンテというテーマ」。結局彼が完治するまで、以前わたしがコラムで書いたように「6週間」かかったわけだけれど、そのポンテが、後半20分に高原直泰と交代して久しぶりにグラウンド上に立った。そしてすぐに抜群の存在感を発揮した。

 「ケガ明けだから、まだちょっとは違和感はあるが、ボールタッチは以前と変わらずハイレベルだった・・そして何度も良いシーンを魅せた・・また、相手からボールを奪い返すために二度もスライディングを仕掛けた・・そんな攻撃的な姿勢がチームの勝ちたいという雰囲気を盛り上げた・・」とは、ゲルト・エンゲルス監督の弁でした。

 まあ、そういうことだよね。とにかく彼に対するチーム内の信頼は絶対的なレベルにあることを再び体感していた筆者だったのです。そのことが、昨シーズンのように、チーム内のポジティブな「心理連鎖」を活性化しつづけることを願って止みません。

 そして最後が、細貝萌というテーマ。

 いいよね・・ホントに。攻守にわたる(勇気万全の)積極プレー姿勢が放散するスピリチュアル・エネルギーは止まることを知りません。北京オリンピックでも、彼が登場したことでチームがよみがえったからネ。そのコラムは「こちら」

 彼の積極プレーを観ながら(そのプレー姿勢を体感しながら)思ったモノです。やはり「意志」こそが全て・・意志のあるところには、おのずと道が見えてくる(出来てくる)・・。

=============

 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]