湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第23節(2008年8月27日、水曜日)

 

このフラストレーションは何なのだろう・・(ヴェルディvsレッズ、1-1)

 

レビュー
 
 たしかに、ヴェルディがリードした後半は、互いに何度も決定的なチャンスを迎えるなど、勝負としては、エキサイティングな展開にはなったけれど、サッカーの内容としては、フラストレーションが溜まりっぱなしだった。

 前半では、レッズのリアクションサッカーにフラストレーションを溜め、後半では、レッズのボールがないところでの動きの量と質に(選手の『意志』の内容に対して)フラストレーションを溜めていた。さて・・

 あっと・・。ヴェルディのサポーターの方々には申し訳ありませんが、このコラムでは、レッズを中心に書かざるを得なくなってしまいました。最初は、いくつかの戦術テーマを設定し、両チームについて書きはじめたのだけれど、どうもうまく筆が進まない。そして何度も書き直しているうちにエネルギーを使い果たしてしまったという体たらくだったのです。

 そんな疲れる作業のなかでハタと考えた。どうしてこんなに疲れるのだろうか。そこで思い当たった理由が、この試合では(冒頭で書いたように)あまりにもフラストレーションが溜まり過ぎていた・・というものでした。期待レベルが高すぎるのだろうか??

 ということで、前半のレッズのリアクションサッカー。

 たしかにレッズの勝負強さの基盤は、しっかりとした守備にあります。それをベースに、相手が戻り気味になったら、全体的に押し上げて(人数を掛けて)組織的に仕掛けていったり、チャンスがあればカウンター気味の仕掛けや(例によっての)セットプレーでチャンスを作り出したりするわけだけれど、全体的なプレーの流れとしては「リアクションサッカーの傾向」がより強くなっていると言わざるを得ない。

 守備には、大きく分けて二つの「動向」がある。一つは、相手からボールを奪い返すために積極的・主体的に仕掛けていく攻撃的プレッシング守備。もう一つが、まず「戻る」ことで「深い位置で守備ブロック」を組織し、相手の攻撃を受け止めるような「安定指向型」の守備。

 このところのレッズは、安定指向型のディフェンスが目立つのです。この試合でも、特に前半は、『中盤から』相手のボールを積極的に奪いにいくのではなく、どちらかといったら安定指向マインドの方が目立つディフェンス姿勢でした。

 前戦の三人(田中達也、高原直泰、ポンテ)以外の7人が、全体的に下がり、深い位置で「扇形のブロック」を形成する(中央ゾーンを固めるように守備ブロックを組織する)。そしてヴェルディを(受け身に)迎え撃つ・・といったイメージ。

 チェイス&チェックも含む「ボールへの寄せ」が緩慢だから、自分たちから次のボール奪取勝負シーンを演出するような効果的な「守備の起点」を演出できない。これでは、ボールがないところでの動きの量と質が演出する、次の攻撃の勢いが乗らないのも道理。

 要は、レッズだったら、プレッシング守備と「安定指向型ディフェンス」をうまく使い分けられるはずだと思っているわけです(これが期待!)。

 「ボール狩り」とも言える積極的なプレッシング守備(ボール奪取勝負)。もちろん90分間やり続けるなんて非現実的なコトを言っているのではありません。彼らだったら、落ち着くところと、ダイナミックに「前から仕掛けていくところ」を、チーム全体が一糸乱れずに効果的に使い分けられるはずだ・・と思うのですよ。

 もちろん、プレッシング守備が出てくれば、おのずと次の攻撃も(人とボールの)動きがあるモノへと活性化されていくはずです。

 ということで次のフラストレーション。それは、一点ビハインドを追い付かなければいけない後半のサッカー内容。

 たしかに守備は徐々に活性化していった(積極的にボールを奪いにいかざるを得なくなった!)。だからボール奪取勝負も、より高い位置で効果的に仕掛けていけるようになった。私は、相手からボールを奪い返すことへの積極的な意志のパワーが高揚していくのを感じていました。でも、その後の攻撃では、肝心な勝負所での「動き」の緩慢さばかりが目立ってしまって・・。ボール絡みでも、ボールがないところでも。

 この試合では「切れ」ていた相馬のドリブル&クロスにも、センターゾーンで、マークする相手よりも「前」で勝負しなければならないエジミウソンが、ぬるま湯のダッシュしかしなかったことで、素晴らしいラストクロスを、自分の目の前で簡単にクリアされてしまう・・。

 また、カウンターのビッグチャンスなのに、自らそのチャンスを放棄するように「途中」で横パスを入れ、その場で足を止めてしまう。要は「責任の放棄」。エジミウソン・・。それは、彼のこのゲームでの「基本的なプレー姿勢」が如実に現れていたシーンでした。

 両サイドの仕掛けが(しっかりとしたポゼッションからの効果的サイドチェンジといった優れた展開も含め!)ある程度は機能していたのに、後半から入った選手の「怠惰なプレー姿勢」ばかりが目立つのですよ。

 エジミウソンについては、前節のコラムでも書いたように、心を入れ替えることに対して「期待」していました。

 その期待が見事に裏切られたわけですが、もしその背景に、報道されているような「経済的な要素が主導する心理的なバック」があるのだとしたら、もう彼についてはさっさと諦めるのがいい。「心」がなかったら、ホンモノの心理ゲームであるサッカーにおいて、有意義なプレーを展開できるはずがないし、そんな心理ビールスは、爆発的に浸透してチーム全体を「病気」にしてしまう。

 私が感じていたフラストレーションが、もし「グラウンド以外」の要素によってもたらされたモノだとしたら、それは本当に残念なことです。

 このゲームについては、ここまで書くのがやっと。チーム全体で統一されたダイナミックな『意志』が明確に見えてこないサッカー・・。一部の「心理ビールス」に冒されはじめたチームのマインド!? さて・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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