湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第25節(2008年9月21日、日曜日)

 

水曜日のACLへ向けた理想的な総仕上げとしても価値のあるゲームだった・・(アルディージャvsレッズ、0-1)

 

レビュー
 
 やはりレッズの守備ブロックは(その気になれば!?)強力なことこの上ないネ。まあ、アルディージャの攻めに勢いが乗らなかったとも言えるけれど、この試合に限っては、やはり「強いレッズの守備」こそが主役だった。

 アルディージャは、レッズ守備ブロックを効果的に振り回すことができない。だから、ほとんどといっていいほど(決定的)スペースを突いていくような勝負シーンを演出できなかったし、可能性を感じさせるようなシュートチャンスにしても、最後のパワープレーの時間帯も含め、数本あった程度だった。

 それは、レッズ守備ブロックの中盤での「抑え」が効いていただけではなく、最終ラインの守備も素晴らしい機能性と勝負強さを発揮していたからに他なりません。スリーバックと両サイドバック。そして、細貝萌と山田暢久で組んだ守備的ハーフコンビ。この7人のブロックが、なかなか優れた機能性を発揮したのです。

 アルディージャにしても、最終勝負へ至る組み立てのプロセスでは、一本か二本くらいの「緩衝パス」を織り交ぜたいでしょう。そんなテンポや仕掛け方向の変化が、次のスペース活用の可能性を広げるモノなのですよ。

 でもアルディージャは、中盤でレッズが展開する積極プレスの網に引っかかり(そこでは、ポンテだけではなく、気が向いたら、レッズのツートップもボールを追い掛けていた!?)、そんな緩衝パスを回せるだけの余裕を持てなかった。だから、次の(タテへの)仕掛けパスが単純なものになってしまったというわけです。

 ということで、余裕をもって予測できる状態だからこそ、レッズ最終ラインにとってアルディージャの仕掛けパスは、まさに飛んで火に入る夏の虫だったという次第。坪井慶介が、阿部勇樹が、はたまたトゥーリオが、次々と、インターセプトや相手トラップの瞬間に狙いを定めたボール奪取勝負(スライディングなど)を決めまくっていた。

 また相手と正対した「1対1」の状況になっても、(全体的には)慌てず騒がず、効果的なボール奪取勝負を展開できていた。たしかに最初の頃は、(ガツガツ当たりに行きすぎていた!?)細貝萌が、例えば小林大悟とかの切り返しに右往左往するシーンもあったけれど、時間が経つうちに、細貝の対応も(ウェイティング=観察=とアタックのバランスがうまく取れてくるなど)落ち着いてきたと感じました。ゲームを通しての成長!? まあ、そういうことだね。

 とにかく、レッズの「7人の侍」がこの試合で形作った強力な守備ブロックは、全体的には、自信に満ちあふれたプレーをしていたと思うのですよ。

 とはいっても、1点リードで迎えた、タイムアップまで残り10分という時間帯でのディフェンスには課題が満載だった。引き過ぎて、相手の「球出し」のゾーンをまったくフリーにしてしまったり、前戦からのチェイス&チェックが十分ではないから、サイドゾーンでのコンビネーションにやられまくったり(結果として、何本もフリーでのクロスを送り込まれてピンチになった!)。

 あの時間帯こそ、誰かが(中盤で!!)リーダーシップを発揮することで、相手の全員をマンマークで厳しく抑え込むといった(相手の意志を殺いでしまうくらいに)忠実でパワフルな守備を展開すべきだった。でも結局は、何倍にもパワフルになったアルディージャの攻めの勢いを「十分に」抑えられなかったことは確かな事実でした。そう、トゥーリオを除いて・・。

 仕掛けには「流れ」があります。残り10分という最後の時間帯に入ったとき、アルディージャ選手には明確に「次の仕掛けの可能性」が見えていた。

 『あそこでアイツは、レッズの選手を振り切ってタテパスを出すに違いない・・』等といった(あまり根拠のない!?)確信のもとにタテのスペースへ走り抜けるわけです。そして実際に「そこ」へ効果的なタテパスが回されてきたりするのですよ。

 ボールがないところでの(攻守にわたる)アクションが何倍にも増幅するからこそ(自分たちが)自然とゲームの流れを掌握してしまうという勝負の流れ。だからこそ、ダイナミックな仕掛けの流れが連鎖しつづける。逆にレッズにとっては、擬似の「悪魔のサイクル」とも言える。まあ、不確実な要素が満載しているからこその「サッカー的現象」とも表現できそうだよね。

 その時間帯のレッズは、誰もが、何とかしなければと感じていたはずです。そこで登場したのが、言わずと知れたトゥーリオ。彼は、そんな勝負の流れを敏感に感じ取っていたに違いありません。

 「ドカンッ!!」なんていう爆発ノイズが発生するくらいパワフルなスライディングを仕掛け、相手パスレシーバーからボールを奪い返してしまったり、「ガツンッ!!」ってな鈍い音が聞こえてきそうなくらい激しいヘディングの競り合いで相手の浮き球パスをはじき返してしまったり。

 そんな爆発的なアタックやパワフルな競り合いシーンを何度目撃したことか。それこそ、相手の「確信という心理エネルギーに支えられた仕掛けの流れ」を断ち切ってしまう(心理エネルギーを萎えさせてしまう)勝負のボール奪取アタックなのですよ。

 そんなトゥーリオのプレーを見ながら思っていた。「そんな勝負プレーのバックボーンは、ここが勝負だ!というヤツの動物的な勘なんだろうな・・もちろんそこには、ブラジルというサッカー文化もあるだろうし、トゥーリオという攻撃的なパーソナリティーもある・・とにかく日本サッカーは、トゥーリオという何ものにも代え難い存在に恵まれたということだな・・」

 最後に、水曜日に行われるアジアチャンピオンズリーグの勝負マッチについても一言。

 私は、この試合が(その質実剛健なサッカー内容をベースにした選手の確信レベルの高揚が!)その勝負マッチに向けて、まさに理想的な「総仕上げ」としても非常に価値のあるものだったと思っているのですよ。

 先週の「ACLコラム」でも書いたように、レッズは、安定して相手をコントロールするなかで、ココゾ!の吹っ切れた仕掛けを繰り出していくというイメージで試合に臨んでいかなければならないわけだけれど、そのゲーム展開イメージの重要な骨子が、この試合に内包されていたと思うわけです。

 守備のことばかり書いたけれど、この試合でのレッズは、守備的ハーフコンビと両サイドの「前後の動き」が効果的に機能しつづけるなかで、組織プレーと個人勝負プレーがうまくバランスしたカタチで何度も決定的なチャンスを作り出していたからね。その攻撃コンテンツは、守備ブロックが最高の安定度を魅せていたからこそ、実効レベルが何倍にも高まったと思うのです。そして、だからこそ、選手の「確信レベル」をも大きく引き上げた・・。

 いまから水曜日の勝負マッチが楽しみで仕方ありません。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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