湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2008年3月30日、日曜日)

 

シーズン初勝利を収めたからこそ、敢えて・・(レッズ対アルビレックス、3-0)・・またアントラーズ対マリノス(2-1)についてもショートコメント

 

レビュー
 
 レッズが今シーズンの初勝利を挙げました。また、ガンバとフロンターレも勝った。Jリーグにとっては、開幕の立ち上がりで大きくつまずいた実力チームが、遅ればせながらもポイント(勝ち点)を積み重ねはじめたことは喜ばしい限りです。

 とはいっても、アントラーズは、例によっての抜群の勝負強さで(!?)リーグのランキングでトップに並んでいたマリノスを蹴落とした(はず・・)。そのアントラーズ対マリノス戦については、帰宅してからビデオで確認するつもりです。ゲーム内容によっては、レポートするかもしれません。

 さてレッズ対アルビレックス。たしかにレッズは勝利を収めたけれど、内容的には、誰もがフラストレーションを溜めるようなゲームでした。何せ、中盤でのせめぎ合いでは、明らかにアルビレックスが優位にゲームを進めていたのですからね。

 それは、中盤ディフェンスで、アルビレックスがイニシアチブ(主導権)を掌握していたからに他なりません。もしアルビレックスに、危険な最終勝負を仕掛けていくための(ある程度の)チカラが備わっていたら、本当にどちらに勝負が転んだか分からない。

 それにしてもアルビレックスは、活きのいいダイナミックサッカーを魅せてくれた。中盤でのディフェンスでは、一人ひとりのアクションが、まさに、有機的に連鎖しつづけていたと感じました。ボールを(相手ボールホルダーを)追い掛け、追い詰める効果的なチェイス&チェックや、ボールがないところでのマーキングやインターセプト狙いの積極アクションなど。それらが、本当に活発に噛み合いつづける。

 そのように、中盤ディフェンスが(守備での組織的な共同作業が)うまく機能していたからこそ、最終勝負シーンでの中途半端なミスが悔やまれて仕方ありませんでした。最後までマークし続けなければならないにもかかわらず、足を止めて様子見になってしまったり、シュートや決定的パスを阻止するためのスライディングが遅れたり。もちろん、トゥーリオの二点目と、永井雄一郎の三点目は、誰にも止められないほど見事なシュートプロセスだったけれどネ・・。

 さて、レッズ。相変わらず、攻守にわたって、ボールがないところでのプレーに勢いが乗っていかないという印象の方が強い。要は、全力で(主体的な判断と決断で!)走っていないということ。言い換えれば、主体的な闘う意志のレベルが高揚していかないとも言える。だから、様子見のシーンが多いし、強烈な意志の発露とも言える「全力ダッシュ」も目立ってこない。

 守備では、チェイス&チェックがいい加減だから、うまく「守備の起点」を作り出せないし、攻撃でも、パス&ムーブも含めて、スペースへ入り込んでいく動きも出てこない。そんな攻撃フローじゃ、相手守備はまったく怖くないでしょう。まあ、個のチカラをベースにした打開力はサスガだったけれど、それにしても、組織プレー(コンビネーション)がうまく機能してはじめてホンモノの実効が伴ってくるわけだからね。

 まあ、いろいろとテーマはあるけれど、この試合については、やはり中盤ディフェンスというポイントに絞り込んでハナシを進めるしかないね。要は、鈴木啓太のケガによる離脱と、トゥーリオの守備的ハーフへのコンバートというテーマ。

 鈴木啓太の離脱によって、レッズ中盤での「守備の起点の演出力」が大きく減退したことは明らかな事実でした。要は、チェイス&チェックの量と質が低下したことで、アルビレックスのボールホルダーへの「抑え」が、うまく効かなくなったということです。これでは、中盤で、どんどんとフリーな相手ボールホルダーが出現してしまうのも道理。誰もが、鈴木啓太の価値を再認識したに違いありません。

 (鈴木啓太に代わって出場した)細貝萌は頑張ってチェイス&チェックをつづけていたけれど、周りがその動きに「連動」しないのだから、多くの場面で「ホンモノの無駄アクション」になってしまうのも当然の帰結でした。そんなだから、細貝にしても結局は「様子見」になってしまうのも仕方ないといったところです。そしてレッズ中盤ディフェンスのダイナミズム(活力・迫力・力強さ)が失われていく・・。

 そんなネガティブな現象には、この試合で守備的ハーフとしてプレーしたトゥーリオも一役買っていました。守備においても、攻撃においても、彼の能力が一流であることは疑いの余地はありません。ただ、ディフェンスシブハーフとしての守備での「機能性」では、はっきり言ってマイナス要素の方が大きかった。

 基本的に彼の場合は、「直接的」にボール奪取勝負を狙うという守備イメージがメインなのですよ。そりゃ、そうだ。彼の本来のポジションは、相手の勝負パスを狙うという役割の「リベロ」なわけだからね。そこでは、トゥーリオが、ボール奪取勝負を「効果的に狙える」ためのお膳立ては、鈴木啓太を中心とした中盤選手たちが行うというわけです。中盤で彼らが、相手ボールホルダーを追い詰め、そこからのパスの可能性を制限してくれるからこそ、トゥーリオは、効果的に「狙いを定めて」ボール奪取勝負を仕掛けたり、カバーリングに入っていけるというわけです。

 でもこの試合でのトゥーリオは、その「お膳立てをする汗かきプレー」に「も」全力を尽くさなければならない守備的ハーフという役割を与えられました。その「汗かき」を細貝だけに任せるのでは、あまりにも荷が重すぎる。また山田暢久や永井雄一郎にしても、どうも足が止まり気味で、チェイス&チェックの勢いが高揚してこない(そこでトゥーリオには、周りを叱咤し、彼らの守備アクションを活性化させるようなリーダーシップが求められていたのに・・)。まあ、鈴木啓太がいれば、中盤ディフェンスの機能性は、ある程度は高みで安定させられたかもしれないけれど・・。

 たしかに、「守備の起点」をうまく作り出せないことで中盤ディフェンスの効果レベルが上がってこなかった原因を「すべて」トゥーリオにおっ被せるつもりはありません。

 私が言いたかったことは、やはりトゥーリオは、最後尾をスタートラインとする「自由なリベロ」としてプレーすべきだということです。彼に、攻守にわたる「自由度」を、より広い範囲で保証してあげれば(要はカバーリングの約束事のアイデアと徹底!)、彼の実質的な貢献度も、格段にアップするはずだと思うのですよ。その方が、彼の才能を存分に活用できる(トゥーリオも満足する)というわけです。

 「最初から」中盤じゃ、相手もより注意深く彼をケアーするのは道理。そうではなく、最後尾での堅実&ダイナミックなボール奪取プレーを基盤に、チャンスを見計らってオーバーラップする方が、格段に彼の「攻撃力」を活かせると思うのですよ。相手守備にとっては、「見慣れない顔」が急に出現してくることほど、やりにくいことはありませんからね。総体的にみて、トゥーリオにとっても、その方が断然やりやすいはずです。

 たしかに、エンゲルス監督が言うように、チームの重心にポジションを上げた方が、より効果的に(日本文化とは異質の)素晴らしいリーダーシップを発揮できるだろうし、前気味にポジションを執ることで(二点目のように)より相手ゴールに近い位置で(より頻繁にチャンスメイクプロセスに絡めるように)プレーできるようになるかもしれない。でも逆に、このポジションをつづける場合には、彼もまた「いまの何倍もの汗かき守備プレー」に精を出さなければならないし、相手のマークが厳しくなることで、体力的・心理的な負担も増大してくるはずです。

 そして結局は、運動量を格段に増やさなければならなくなることで、また相手のしつこいマークとも対峙しなければならなくなることで、疲弊し、持てる実力を存分に発揮できずに心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまう・・。

 とにかく、この試合でトゥーリオが為した、攻撃と守備における実質的な仕事量(攻撃と守備の目的を達成するための実質的な貢献度)について冷静な分析が必要だと感じているのは私だけではないはずです。

 この原稿は、埼玉スタジアムのプレスルームで仕上げました。ワイヤレスLANが快適に機能しているし、(帰宅するには)まだ高速道路の渋滞が解消していないということで、ここで書き上げてしまおうとキーボードに向かった次第。帰宅してからは、アントラーズ対マリノス戦を観るつもりです。それでは・・。

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 さて、ということでアントラーズ対マリノス。内容的には、たしかに小さな紆余曲折はあったものの、全体として質実剛健なアントラーズの順当勝利といったところでした。

 アントラーズのシステムは「2-6-2」!? あははっ! このことについては、先日のACLゲームについて書いた「前言撤回コラム」を参照してください。そこでは、アントラーズの「質実剛健のサッカーコンテンツ」について、ある程度具体的に記述したつもりです。

 とにかく、アントラーズが展開するダイナミックな中盤ディフェンスは、本当に見応え十分なのですよ。チェイス&チェック、次のボール奪取勝負やインターセプト狙い、協力プレス狙い、そしてボールがないところでの粘り強いマーキングなどなど。そんな守備プレーが、まさに有機的に連鎖しつづけるのです。一人ひとりの意識の守備意識の高さに舌を巻く。

 これほどハイレベルにチームの意志が統一されていたら、汗かきも含めて、積極的に行動することが楽しくて仕方なくなるだろうね。

 何せ、自分がボールを奪い返せなくても、味方に「奪い返させる」という満足感に「も」浸れるからね。多分チームのなかでは、ボールを奪い返した者が、そのお膳立てをしてくれたチームメイトに対して「サンキュー」などと声を掛ける雰囲気が充満しているはず。互いに、使い、使われるというメカニズムを存分に理解している「あうんのコンビネーション」といったところです。

 そんなプレー一つひとつに、オリヴェイラ監督の「ストロングハンド」を感じますよ。腕の立つプロコーチだね、ホントに。

 最後に、強い星の下に生まれたダニーロ。昨シーズンからすれば、格段ともいえるパフォーマンスアップ。何が刺激になったのか・・。今シーズンは、(野沢との交代で)途中出場するたびに決定的シーンに絡みつづける。そして遂に、このゲームでは決勝ゴールを奪ってしまった。まあ、ダニーロのパフォーマンスアップも、オリヴェイラ監督のウデの見せ所だったんだろうね。フムフム・・

 とにかく、このままアントラーズを走らせてしまったら「ディッシュ・レース」の灯が消えてしまう。リーグ全チームは、心してアントラーズ戦に臨むべし!

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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