湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2008年4月12日、土曜日)

 

「個」を活かすための「組織」という発想・・(ヴェルディ対FC東京、1-2)

 

レビュー
 
 前半のゲーム展開は(観る方にとって)いただけなかったけれど、全体として見たら、まあ、エキサイティングなダービーマッチだったという評価が妥当だろうね。

 その前半だけれど、ハーフタイムのキャビンでFC東京の城福監督が、「リズムは悪くない・・」と評価していたとか。その情報シートを見ながら「ナルホド・・」と頷いていましたよ。たしかに前半は、FC東京の思うツボの展開だった。

 要は、ヴェルディが誇る個の才能、ディエゴとフッキを(味方と協力した集中プレスによって)しっかりと抑えながら、機を見たカウンターを仕掛けていこうというイメージが、ある程度は機能していたということです。その点について、城福監督に聞いてみた。「攻撃の強みがはっきりしているヴェルディは、ゲーム戦術を立てる上で、もっとも簡単な相手ではありませんか?」

 彼は、(ゲーム中に大声を張り上げ過ぎて!?)声が潰れてしまっていたにもかかわらず、絞り出すように真摯に答えてくれました。

 「たしかにおっしゃる要素もありますが、ヴェルディの場合は、彼ら二人だけではなく、他にも個のチカラで優れた選手を多く擁しています。我々がイメージしたのは、ディエゴとフッキにボールが入ることで、ヴェルディの仕掛けプロセスにスイッチが入ってしまうのを阻止することでした」

 要は、この二人に、ドリブル勝負の流れに乗らせないだけではなく、効果的なポストプレーもさせないという明確な意識付けをしたということでしょう。ディエゴやフッキがボールを持ち、余裕をもってキープしたら(彼らにタメを演出させてしまったら)そこから、まさにスイッチが入ったように、「ワン・ツー・スリー」などの危険な仕掛けコンビネーションや爆発的な勝負ドリブルが繰り出されるはずだからね。

 同じような主旨の質問を、ヴェルディの柱谷哲二監督にも投げてみました。「あの二人は、どうも自分たちだけでやろうとし過ぎではないか・・彼らの才能を活用するためにも、もっとパスを回した方がいいと思うのだが・・」

 それに対して、柱谷監督も、真摯に回答してくれました。「たしかに、ポゼッションをうまく高揚させられなかった・・フッキがボールを持ちすぎたことも、その原因の一つだったと思う・・ボールが入ったところでうまく抑えられてしまっていたから・・もっとシンプルにボールをはたけば、効果的にボールを保持できるのに・・特にフッキとは、J2とは違うということを話し合わなければならないと思っている・・ポゼッションについては、福西がコアになってマネージするように指示したけれど、徐々に運動量が落ちてきたことで、うまくコーディネイトできなくなった・・」

 とにかく、個の才能が、様々な視点で「諸刃の剣」であることは論を俟(ま)ちません。その意味でも、対戦相手がターゲットを絞り込んだゲーム戦術で臨んでくるなど、これからのヴェルディは、様々な困難(課題)と対峙することになるでしょう。それについては「前節のコラム」を参照してください。

 それでも・・ね、前節のコラムでも書いたと思うけれど、どんなに(表面的には)アンバランスなチーム戦術でも、「それ」でチーム全体の意志が統一されていれば、効果レベルは着実にアップしていくというのも、サッカーの歴史が証明している事実なのですよ。要は、優れたサッカーは(イメージが統一されているからこその)有機的なプレー連鎖の集合体・・だからこそ、継続こそチカラなり・・ということです。

 この試合でも、個の勝負プレーをしつこいほど繰り返しているうちに、疲労によってFC東京ディフェンスの集中力が減退したこともあって(!?)、また両チームがより積極的に攻め上がりはじめたことで両チームの守備ブロックが『開き』気味になったこともあって(!?)、ディエゴとフッキが繰り出す「個の勝負」の実効レベルが徐々にアップしていったと感じました。

 そして面白いことに、局面勝負プレーの実効レベルがアップするにしたがって、ヴェルディの全体的な組織パスプレーやサイドからのクロス攻撃にも勢いが乗るようになっていったのです。多分それは、ディエゴやフッキにしても、「最後のシュートまでオレが・・」というゴリ押しの個人勝負「ばかり」をイメージしているのではなく、局面勝負に勝つことで数的に優位なカタチを演出する(要はウラスペースを突いていく)というイメージも持っているからなんだろうね。局面での相手マークとの勝負に勝ち、ボールを持ってスペースへ抜け出していければ、ドリブルかパスかのオプションも広がるからね。

 とにかく今のヴェルディは、「個から組織へ」という発想も取り入れていかなければなりません。いや、彼らの場合は、個のチカラを活かすために、より実際的な組織プレーも取り入れなければならない・・といった方が妥当な表現かもしれないね。

 ディエゴにしてもフッキにしても、相手守備の薄いところで「ある程度フリーでパスを受けられたら」無類の強さを発揮するはずだからね。だからサ・・サッカーの攻めでもっとも大事になってくるのは、いかにスペースを活用していくのか(広さと変化!)という発想なんだよ。マル。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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