湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2008年4月13日、日曜日)

 

すごく長いコラムになってしまった・・(レッズ対アントラーズ、2-0)

 

レビュー
 
 こりゃ時間の問題かもしれない・・。

 アントラーズが押し込みつづける後半の展開をみながら、そんなことを思っていましたよ。この流れじゃ、いつ同点ゴールを叩き込まれてもおかしくない・・ってね。何せ、アントラーズの攻撃を、効果的に(余裕をもって)抑制できていたとは、とても言えない展開だったからね。

 まあ、(ピンチに陥ってからの)最後の瞬間には、ギリギリのところで「ディフェンダーの足が出た」り「都築の手が出た」りしたから事なきを得たモノの、何度もアントラーズに、惜しいシュートのカタチまで持って行かれてしまったことは確かな事実だったからね。

 たしかにレッズ守備ブロックは最後までよく耐えたけれど、相手からボールを奪い返した後の前戦へのフィードに余裕がないから(直接アントラーズ選手へパスしてしまったり、相手の読みそのままの場所へパスを出してしまったり・・)すぐにボールを奪い返されて押し込まれるという展開がつづいたことはいただけなかった。

 堤にしても、ディフェンスではある程度のチカラを誇示できるまでになっているけれど、ボールを奪い返した後のボールキープやタテへの展開パスに課題を抱えている。

 ボールのキープに余裕が感じられないから、アントラーズ選手も「ここがボール奪取のチャンスだ!」と、協力プレスを仕掛けてくるのです。もちろん、ボールをもつ堤に対するプレッシャーだけではなく、その周りのパスコースも消し去ってしまうような協力プレス。そんなプレッシャーに、ドギマギした堤がミスパスをしてしまうシーンを何回も目撃した。もちろんアントラーズにとっては、まさに思うつぼのボール奪取だから、そこからの仕掛けにも勢いが乗っていくのも道理。また堀之内や阿部にしても、ボールを奪い返した後の「余裕」という視点では、同じように課題を抱えている。さて・・

 でも、結局は守り切れた・・。というよりは、ツキに恵まれたと言った方が正しい表現でしょう。逆にアントラーズにとっては、ツキに見放されたというゲームだったということです。オリヴェイラ監督も、「個人的にもチカラのあるレッズを、あそこまで苦しめることが出来たのは大いなる自信につながると思う・・」なんて、余裕のコメントを残していたっけ。それも、サッカーの内容じゃ、明らかにレッズを凌駕できていたという自信の裏返しなのですよ。

 とにかく、カチッと決まったチーム戦術を徹底するアントラーズに対し、レッズのチーム作りがまだまだ手探り状態であることは誰の目にも明らかだったはずです。

 レッズの手探り状態だけれど、その典型的な現象は、何といってもトゥーリオの戦術的な役割だよね。この試合では二列目に入ったトゥーリオ。たぶん彼には、攻守にわたって味方の効果的プレー(ボールがないところでの動き!)を引き出すリーダーとして「完全な自由」が与えられていたはずです。

 私は、トゥーリオ、細貝萌、鈴木啓太による「ダイナミック・トライアングル」の再現を期待していました。攻守にわたって、実効レベルの高いポジションチェンジが繰り返されることに期待を膨らませたのですよ。要は、以前の、鈴木啓太、長谷部誠、山田暢久(プラス、ポンテ)によるダイナミック・トライアングルのイメージ。

 でも結局は、トライアングルの機能性がうまく高揚していかなかった。トゥーリオが二列目に張り付いてしまったことが大きな要因で(要は、二列目で横方向へロービングするばかりだったということ!)啓太にしても細貝にしても、タテのスペースへ抜け出していくオーバーラップを繰り出しにくくなっていたのですよ。二度くらいでしたかネ、トゥーリオと細貝がタテにポジションをチェンジしたシーンを目撃したのは・・。

 あっと・・、とはいっても、その機能不全が、前半に限った現象だったということも付け加えなければいけません。

 私は、前半の機能不全について、最前線のエジミウソンと高原直泰が機能していなかったことも大きな原因だったと見立てていました。ハーフタイムには、ジャーナリスト仲間の方と、「高原直泰と永井雄一郎を交代させてエジミウソンのワントップすれば、中盤のトライアングル(カルテット)も上手く機能するようになるはず・・」などと話し合っていたものです。そして・・

 後半立ち上がりのレッズは、まさに「生き返った」という表現がピタリと当てはまるほどダイナミックにゲームへ入っていきました。その牽引役は、もちろん永井雄一郎。彼が繰り出す縦横無尽の大きな動きがチーム全体を活性化したのです。そしてトゥーリオと細貝のタテのポジションチェンジや、鈴木啓太の機を見計らった押し上げにも、ホンモノの勢いが乗っていく。トゥーリオが、ゲルト・エンゲルス監督の意図した通りに、タテのポジションチェンジの演出家としても機能しはじめたのです。

 私は、そんな後半の立ち上がりを観ながらワクワクしていました。とにかく、チーム戦術のイメージを確固たるものにしなければならない今のレッズにとっては、サッカーの内容こそが大事だからね(もちろん結果も大事だけれど・・)。それこそが(結果以上に!?)選手にホンモノの自信&確信を与えるものなのですよ。

 しかし、ワクワクしはじめていた4分後には、レッズが先制ゴールを挙げてしまうのです。(サッカーが活性化したからこそ押し上げてきていた)鈴木啓太が素晴らしいサイドチェンジパスを送り、それを受けたトゥーリオのお膳立てで永井が決めた先制ゴール。

 そのゴールを見ながら、私は、こんなことを思っていた。もちろん結果も大事ですよ・・結果もネ・・でも、もう少し「あの」優れたサッカーのイメージを選手の脳裏に浸透させられるだけの時間があったら・・なんてネ。

 そして案の定、ゲームの流れが、冒頭のように変容していってしまう。後半立ち上がりのサッカーをもう少し長い時間つづけられていたら、確実にレッズは、確固たるチーム作り(チーム戦術の浸透)に向けて、一皮も二皮も剥けたはずだからね。

 サッカーは、勝ちゃ何だっていいってことじゃないからね。ゲルト・エンゲルス監督も含め、レッズ関係者は、ちょっとモヤモヤした気持ちだったに違いありません。あのゲーム内容を心から喜べるようなサッカー人はいないだろうから・・。

 もう一つのレッズの手探り・・。それは、言わずと知れた高原直泰。彼には、本当の意味で初心に戻り、攻守にわたる汗かきの組織プレーなど、ハングリーにチャレンジをつづけて欲しいと願って止みません。その姿勢がなければ、多分すぐにチーム内でのポジションを失墜してしまうことになるでしょう。インテリジェンスも含め、彼ほどの能力があるのだから、大丈夫だとは思うけれど・・。

 それにしても、アントラーズは強いね。チームとして、本当によくまとまっている。中盤から最前線の選手たちによる縦横無尽のポジションチェンジと、その後のディフェンスでの効果的なバランス再構築に、舌鼓を打っていましたよ。そのことについては、またまた、以前に発表した「前言撤回コラム」を参照してください。

 特にこの試合では、小笠原が目立ちに目立っていた。局面での一対一の競り合いじゃ、ほとんど負けることがないという印象です。また、中盤の底からのゲームメイクも例によってハイレベル。

 まあ、攻守にわたる「ボールがないところでのクリエイティブな無駄走り」とか「汗かきを繰り返すことで中盤をリードする」といったポイントでは、課題が見え隠れしているし、彼の場合は、アントラーズの中盤では王様というポジショニングが確立していることで、攻守にわたって「美味しいところ」でプレーできるというアドバンテージもあるからね・・。要は、他のチームに入ったとき、忠実な汗かきプレーを基盤に、自分のポジションを築き上げることが出来るのかということです。とにかく、そのテーマについて、ホンモノの興味がつのりはじめているのですよ。

 最後に、唐突だけれど、トゥーリオが魅せた、ボールがないところでの忠実なディフェンスについても一言。彼が守備的ハーフの位置へ下がったときのボールをめぐる競り合いには、相変わらず高い実効レベルがあったけれど、それ以外でも、ボールのないところでも忠実なマーキングなどで目立っていたのですよ。

 例えば、後半26分に、小笠原のオーバーラップを最後までマークしつづけ、ギリギリのスライディングでクロスを阻止した忠実なディフェンス勝負プレー。ホントに素晴らしかった。また、必要とあらば、最終ラインまで戻って、例によってのリーダーシップを発揮したりしていた。

 そんなプレーを見ながら、やっぱりトゥーリオの基本ポジションは「後方」だよ・・と確信を深めていました。

 後ろを基本ポジションに、そこから、機を見計らって上がっていく・・相手守備ブロックにとっては、見慣れないヤツによる虚を突かれたオーバーラップということになる・・だから、効果レベルも推して知るべし・・ってな具合。もう何度も書いているように、それこそが、本当の意味で彼の真価が発揮されるシチュエーションだと思うのです。

 今日は、こんなところでしょうか。それにしても、勢いに長いコラムになってしまった。ではまた・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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